「ただいま」

穂乃果の両親を家に送り届けて、俺らは穂乃果の家へ帰ってきた。

普通に明日から仕事も始まるし、年末で穂乃果もバイトが忙しくなる。


「疲れた……」


「運転お疲れ様です。なにか飲む?」


「お茶飲みたい」


「あったかいのがいい?」


「うん、渋いとなお良し」


「わかった~」


俺はソファに寝っ転がる。

穂乃果はキッチンでお茶の準備をしてから、リビングへ。

俺も穂乃果の座るスペースを作る。


「それにしても呆気なかった気がするわ」


「そうだね、お父さんが喜んでてよかったよ」


「ああ、まさか娘が嫁に行くより競馬で当てて泣くとは思わんかった……」


「見苦しいところをお見せしてしまい誠にもうしわけありません……」


身体を起こし、緑茶をズズッと飲みながら、昨日からの出来事を振り返る。


「でも、これで穂乃果と正式に付き合ってるって感じがするわ」


「そうかな?私はようやく朝陽くんが私のものになったんだな~って実感は沸いてたけど、告白してからずっと付き合ってたよ、私の中では」


「そりゃ付き合ってはいたが……。なんていうのかな、腫物が落ちたみたいな?余計な心配する必要なくなったな~って思ってさ」


付き合うだけなら特に心配はしていない。

だが、結婚を意識してしまうと必然と穂乃果の両親のことが圧し掛かってきていた。

腫物と言ったら失礼だが、心配ごとがあれば実感は薄くなるような気がしていた。


婚約指輪も購入したし、あとは送るだけ。

だが、ほぼ手順をすっ飛ばしてる分、婚約指輪の重要性というのが薄れてきている。


むしろ、今のご時世、婚約指輪を渡すという風習も無くなりつつある。

贈るのは結婚指輪らしい。

まぁ、結婚式を開かないほうが多くなってきたからな。


「そういえば、聞きたいことあったんだ」


「どうしたの?」


自然と膝枕してもらう形になりながらテレビを見ている。

丁度、CMに入り、ブライダルフェアの広告が流れたのを見て思い出した。


「結婚式やりたい?」


「うーん、ウェディングドレスは着てみたいけど、式まではいいかな~……」


「そうなんだ?」


「うん。別に呼びたい人もいないし、むしろ結婚式を開くことのほうが恥ずかしさすらあるんだよね~」


まぁ正直同感だ。

俺も会社のやつを数名呼ぶくらいで特にいない。

身内だけで済ませるならわざわざ披露宴なんてやる必要もないからな。


「でも、ウェディングドレスは着たいから写真は撮りに行こうね?」


「それは了解した」


「やった!絶対だよ?!」


鼻歌を歌いながら、スマホを操作する穂乃果。

俺はぼーっとテレビを見ながら、穂乃果の鼻歌を聞いていた。


「純白の~♪ウェディングドレス~♪晴れ舞台に立つ私は~♪世界一可愛いお嫁さん~♪」


かわいいかよ……。


完全に無意識だろうが、破壊力が高すぎる……。


しかし、穂乃果のテンションは高いままだ。


「わぁ!ウェディングドレスにも種類いっぱいあるんだなぁ……!あ、これ可愛いかも!でも、こっちはこっちでエロ可愛い!うわぁ。迷う~!」


徐々に睡魔が襲ってきており、ぼーっとした視界でなんとか目覚ましをセットし、目を瞑る。

穂乃果の鼻歌が子守歌のように感じられて、視界は真っ暗になった。




◇◆◇◆◇◆◇



朝起きて、仕事へ向かう。

穂乃果は午後からのバイトなのでぐっすり寝かせている。


「おはよーざます~」


「うっす。どうだった?」


「成功したっす」


「よかったじゃねぇか。んで、俺の話も聞くよな?」


「えっと、昼でもいいっすか?」


「ちっ、しゃーないな。んじゃ、ミーティングやって仕事はじめっか!」


「「「うっす!」」」


残り3日。

年末年始の連休まで働かないといけない日数だ。

工期はギリギリ。


急いで仕事に取り掛かった。


◇◆◇◆◇◆◇


「んで、真由美の野郎、最後の最後で全ツッパしやがってよ!」


「15番来るなんて思ってもなかったすもんね……」


「ああ!おかげで小遣いを頑張って貯めた10万が消し飛んだぜ……」


「だから、二人の悲鳴が聞こえてきたんですね……」


「恥ずかしい限りだ……」


レースが終わった途端に聞こえた悲鳴はやはり矢野夫婦の声だったらしい。

現地観戦していたのは知っていたが、まさか、実況のほうまで声が届くとはだれも思わないだろう……。


「とりあえず、当分は節約だな……」


「お金貸しましょうか……?」


「いや、大丈夫だ……。ただ今度酒奢ってくれ……」


「うっす、そんな落ち込まないでくださいよ。楽しい時間だったんでしょう?」


「そりゃあな。子供のことを気にしなくてもいいってのは気が楽だ。久々のデートだったからな。3人目作る勢いだったわ」


しっかりやることはやってるらしい。

まぁ普段から仲がいいからな、いつ3人目出来てもおかしくないわ。


「そんで、日向は当日はどんな感じだったんだ?」


「俺っすか?結構濃密な時間だったっすよ……」


俺は寮で滝沢と永井さんと話してたら、知らぬ間に付着していた香水の匂いに浮気を疑われたこと。

穂乃果の実家に行って、大事な話をこんな話で一蹴されたこと。


そして、グランプリレースで起こした奇跡の話を。


「ちっ、充実してんじゃねぇよ……」


「穂乃果はいろんな意味でやべぇっす……。昨日も寝落ちしたら首にキスマークついてたっすもん」


一度起こされ、ベッドへ移動していたっぽい。

朝起きて、ベッドに寝ていることを不思議に思っていたら首が痛いと感じ、確認してみたら充血していた。

いや、寝てたからといって、気づかないものかね……。


いや、俺なら気づかねぇな……。


「真由美も氷野の直観に頼ろうか悩んでたわ」


「でしょうね……。穂乃果の直観はまじでやばいっすもん」


事前に買っておいたコンビニ弁当を食べながら、あっという間な昼休みを過ごした。

その他、作業員も結構色々あったそうだ。


滝沢?

今日は同じ現場じゃねぇから分かんね。


「っし、こんな話しててもしゃーないし、仕事すっか。やんなきゃ休みも取れねぇしな」


「そっすね。ちゃちゃっと終わらせちゃいましょ」


「だな、22時には帰りてぇな」


「そっすね。日だけは跨ぎたくないっす」


「んじゃあ、より一層気合いれねぇとな?」


弁当を片付け、作業者全員が気合を入れ始めた。

目標は22時帰宅。

みんなでやる気を高めつつ、効率の良い動きで取り組む。



◇◆◇◆◇◆◇



穂乃果の家に着いたのは23時くらいだった。

玄関はまだ開いていたので、おそらく寝てはないだろう。


「ただいま」


一応そっと家の中に入る。

リビングの電気は点いていた。


扉を開き、辺りを見渡す。

こたつに突っ伏してる穂乃果。


待ってる間に寝落ちしてしまったのだろう。

寝息が聞こえてくる。


「穂乃果ー?風邪ひくぞ?」


「んん……」


「起きねぇか……。しゃあね、ベッドに運ぶか」


穂乃果をこたつから引っ張り出し、お姫様抱っこで持ち上げ、寝室まで運ぶ。

いちゃついてるときはそんなに重く感じないが、寝ているので全体重が圧し掛かってくるためちょい重い。


失礼だから声には出さないが。


ベッドに穂乃果を寝かせ、布団を被せる。


「おやすみ、穂乃果」


「う~ん……」


「気持ちよさそうに寝ちゃってさ……」


初めて穂乃果の家に来て、酔った穂乃果を寝かし付けたことを思い出した。

あの時はここまで進展するなんて思ってもなかった。


穂乃果の寝顔を堪能したのち、寝室の扉を閉めてリビングへ戻る。

キッチンから漂ってくるカレーの匂い。

弱火でカレーを温めなおして食べる。


「うまっ……」


なぜだかわからないが、久々に食べた穂乃果の料理はカレーなのにも関わらず絶品に思えた。


「結婚までもう少し……。もうちょっと稼がねぇとな……」


明日のために。

英気を養うため、残りあるご飯とルーを全部食べ尽くした。







~~~~~~~~~






さて、ここで2章一区切りです。

前話はぶっちゃけいりませんね。私もそう思います。


結構端折りましたが、下手にグダるよりはいいでしょう……。


幕間を挟んで、3章にいきます。

正直、3章をどんな感じにしようか悩んでるので、幕間で調整する予定です。


それと皆様のおかげで無名だった私もランキングに作品が載るまで来ました。

誤字脱字の報告ありがとうございます!

応援コメントも励みになります!



ここで正直な私の感想を述べさせてください。



『異世界ファンタジー』書いてみてぇ……。

ただ、設定組むの苦手なので書けないんですよねぇ……。


ただ、娯楽のない世界で競馬を広めるとかいう馬鹿みたいな案はあります。


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