「私は息子が欲しかったのだ!」
「ただいま~!」
「お邪魔します~……」
車を運転すること約1時間。
穂乃果の実家に到着した。
周りは住宅街で、近くには商店街もある住みやすい場所だった。
時刻は19時になっており、辺りは真っ暗だ。
穂乃果が家に入り、続いて入っていくと、リビングのほうから女性がやってきた。
ぱっと見、50台いくかいかないか。
顔つきは穂乃果と似ていることから、お母さまなのだろう。
「あら~、おかえり穂乃果。それと彼氏さんね?たしか~……」
「日向朝陽です。穂乃果さんとお付き合いさせてもらってます。夜分遅くに申し訳ありません」
「いいのよ~。玄関に居ても寒いだけでしょ?ささ、リビングへどうぞ」
手招きされ、リビングへ誘導された。
既に家の中にはいい匂いが充満しており、運転していた疲れもあってかお腹が空いてきた。
「緊張してる?」
「……そりゃあな」
「大丈夫だよ、きっと!」
先に靴を脱いだ穂乃果が手を差し伸べる。
深呼吸を一回行い、靴を脱いで穂乃果の手を取る。
「じゃあ、いこ?」
「おう」
穂乃果のお陰で少しだけ緊張が和らいだ気がする。
俺は一歩を踏み出した。
◇◆◇◆◇◆◇
「ようやく私にも息子ができるんだな……」
リビングへ入るとすでにお父様が待ち受けていた。
挨拶をすると真正面の席へ案内された。
改めて、穂乃果との関係を説明した。
お父様は泣いて喜んでいた。
「えっと、穂乃果さんとの結婚をお願いしに参った次第なのですが……」
「知っとるわい!さすがに娘が彼氏を連れてくるって言われた時点で察してるわ!そのうえで言っておるのだ!私は息子が欲しかったのだ!それが義理でもなんでもいい!」
「おとうさん……見苦しいよぉぉ……」
穂乃果は実の父親が号泣していることにかなり赤面している。
母親も、頷いてお父様に同意している。
「穂乃果がかなり誠実な人だって言ってるからお父さん、ちょっと絶望してたのよ?」
「だって、息子と一緒にゲームしたかったし、趣味も共有したいじゃないか!それなのに、私の遺伝子が弱いせいで、穂乃果を身籠らせることしかできなくてな……」
お父さまの号泣に気を取られそうになったが、一つ気になったことが出来た。
だが、それは穂乃果も同様のようだ。
「ん?お母さん、なんでお父さんは絶望してたの?」
「穂乃果が大学行ってから、お父さんが暇そうでね?競馬を始めたのだけど、誠実な人だったらそもそもギャンブルなんてやらないんじゃないかって」
「ああ、そういうこと?というか、お父さん競馬やってたんだ?」
「だって、娘も居ない、お母さんもお仕事でいない……。土日は家に一人だったから競馬を始めたらハマってしまってね?」
簡潔に述べると、
穂乃果が一人暮らしを始めた→両親は共働き→妻は土日も仕事→誰もいないから競馬を始めた→ハマったから娘の彼氏と楽しみたい←今ここ。
「なるほど、自分でよければいくらでも付き合いますよ?歴はそんなに変わらないと思うので」
「おおおお!じゃあ結婚を許可しよう!よし、明日の話をしよう!酒だ!酒を持ってこい!」
「はいはい、飲みすぎないようにしてくださいね?」
「お母さん、私も手伝うよ!」
「あら、じゃあ一人暮らしで磨いた家事スキルを見せてもらおうかしら?花嫁修業よ!」
「まっかせてよ!これでも、頑張ってきたんだからね!」
ほぼ、挨拶なんていらなかったようだ。
二人はキッチンのほうへ消えていった。
かくいう俺はお父様と二人っきり。
気まずいと思ったが、そうでもなかった。
「それで穂乃果のどこが好きなんだ?」
「積極性ですね。自分で率先してやってくれたり、いつも手を差し伸べてもらっていたので。あとはお父様にはちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、スタイルが好みです」
「素直でいいことだ!私の娘は妻に似て美人に育った!そして、日向くんのような彼氏を好きになった。うむ、いいことだ!さて、別にこんな話をしたいわけではない!日向君は最高でどれくらいの払い戻しを得たことがある?あと、お義父さんでいいぞ?」
俺の緊張はどこへいったのやら……。
結構大事な話を『こんな話』で一蹴されたぞ……。
「えっと、ざっと三桁ですかね……?」
「100万?!では、収支はプラスかマイナスか?」
「プラスですね。ちなみに、穂乃果もプラスですよ」
「ふふふ、私もプラスなんだよ、お父さん!」
盛り付けをした大皿をテーブルに置いて、自慢気に語る。
あとからお茶碗等をもってきたお義母様が席に座って夕飯が始まった。
「ほ、穂乃果は最高いくらなんだい……?」
「ふふふ、18万だよ!!」
「なっ……!」
椅子からずり落ちた。
顔はほぼ絶望で染まっている。
「5馬券5的中だよ!」
「しかも、全レース的中だと?!」
お義父さんの
「お父さんのことは無視して食べて?」
「「いただきます」」
お義母さんの料理は穂乃果の作る味とまんま一緒だった。
◇◆◇◆◇◆◇
夕飯を食べ、お義母さんはお義父さんの看病をして、俺らは穂乃果の部屋にやってきていた。
「わぁ、懐かしい~!」
「ほぼピンクだな……」
「そうなの、高校生のときは女子っぽい部屋だったんだよ?」
「想像つかねぇな……」
あのクールなマドンナは繕っていたのかよ。
まぁ、高校生なんて繕ってなんぼだけどな。
「それより、よかったね?」
「ああ。まさか、大事な話なのに『こんな話』で一蹴されるとは思わなかったぞ?」
「私もさすがにそこまでは予想できなかったな~。でも、初めてお父さんが絶望してるところみたかも!」
夕飯時は穂乃果はずっと笑っていた。
何度もお義父さんに追い打ちをかけ、楽しんでいた。
ちなみに、お義父さんの最高払い戻し金額は11万だったらしい。
収支はマイナスだが、楽しければ問題ないだろう。
「ん~、なんか疲れちゃったね……」
「俺からすれば全然疲れなかったわ。普通に土下座でもして結婚を許してもらうつもりだったからな」
「まさか、顔合わせて5分であいさつが終わるなんて誰も思わないよ~」
「だな……。なんか落ち着いたら疲れてきたわ……」
「じゃあおいで?」
ベッドの上に座っている穂乃果が床に降りて座り、自分の太ももを叩く。
俺も甘えるように穂乃果の膝に頭を乗せる。
「おつかれさま」
「ああ、緊張しすぎて死にそうだったわ」
「私も同じ風になるかな?」
「なると思う」
「そっか……」
頭を撫でられながら、少し無言タイムである。
俺は目を瞑って、気持ちを落ち着かせる。
すると、ドアがノックされ、扉越しにお義母さんが声を掛けてくる。
「お風呂どうするの~?」
「入ってきたから大丈夫だよ!」
「そう?一応沸かしておくわね~。お母さんたちは下で寝るから気にしなくていいわよ~」
「もうお母さん!余計な事言わないでよ!早く下行ってよ!」
「はいはい、声は抑えるのよ~?」
「だから早く行ってってば!」
「娘が怖いわ~~」
そういって、足音が遠くなっていくのが聞こえる。
階段を降りていく音を聞くと、穂乃果が声を掛けてくる。
「いい雰囲気だったのにごめんね?」
「こんなもんだろ。いいお母さんじゃん」
「うーん、でも、気まずいよぉ~」
「だろうな……。やめとくか?」
「ううん、やるよっ!2回戦目!でも、お母さん達が寝てからにしよ?」
「だな、じゃあちょっと休むわ」
「うん、おやすみ?」
「邪魔だったらどかしていいからな?」
「うん、大丈夫だよ」
俺は目を閉じた。
きっと明日は楽しい日になるだろうな~。
そんな予感がしている。
~~~~~~~~~
さて、予想してた人もいるだろうし、予想外の人もいるであろう挨拶回。
すんなり終わりました。いや~、呆気なかったね。
キャラ濃すぎたかな?お母さんは気遣いが出来る人です。
からかうのも上手です。
次回、グランプリレース開幕!
穂乃果の暴走を誰か止めてくれ……。
穂乃果「わたし、すごいことするよ!」
父 「直観は侮ってはいけないのか……」
朝陽 「いや、穂乃果が異常なだけなんで……」
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