「幼馴染だ!」

クリスマス。

子供にとってはサンタさんからのプレゼントにウキウキし、青年になれば、恋人の有無によって一喜一憂。

大人のクリスマスは歓喜か絶望の2択である。


そんな聖なる日の8時から俺らは忙しなく動き回っていた。


「とりあえず、明日着ていく服どうすればいい?スーツか?」


「うーん、いつも通りでいいと思うけど?」


穂乃果が化粧をしながら鏡越しに俺を見てくる。


「いや、ほぼ娘さんを僕にください!って言いに行くようなもんだろ?それでいつも通りの恰好でいいのか?」


「そういわれるとそうだけど……。お父さんはそういうの気にしない人だから大丈夫だと思うよ?」


「そうか?でも、スーツまでは着なくても、ファッションスーツがあったような気がするんだよな~」


寮にあった私服は全て穂乃果の家に移しておいているため、仕舞っている段ボールをひとつひとつ確認していく。

何個か段ボールを開封し、ようやく見つけたファッション系スーツはしわくちゃになっていた。


「穂乃果ー、時間あったらアイロン頼めない?」


「いいよー。リビングに置いといてー!あとでやっとく!」


穂乃果はこれからバイトである。

昨晩に店長から電話があり、バイトの子が急にやめて明日人が居ないから出てほしいと言われたらしい。

14時までで良いと言うので、渋々だが働かせてもらっているので了承していた。


「よし!化粧終わり!」


「じゃあ行くか?」


「うん、おねがい!」


穂乃果はバイト用の服へ着替え、上着を羽織る。

俺も寒くない程度に服を着て、車のカギをもって外へ。


薄暗い外は今にも雪が降りそうな天気だ。

気温も5度ほどで、お昼になっても変わらないと天気予報で言っていた。


「雪降りそうだね?」


「だなー。ホワイトクリスマスになるといいな?」


「そう?雪降ってるときに私の実家まで行くことになるんだよ?」


「そうじゃん。雪降られるとダメじゃん」


車を走らせて、10分くらいでバイト先へ到着した。

穂乃果を降ろし、頑張れの応援をしたのち、俺は一旦寮へ戻った。


というのも、そろそろ荷物を纏めないといけない頃だ。

同期の滝沢は部屋が汚く、物が多いため、朝っぱらだというのに発狂している声が聞こえてくる。


「あいつ、どんだけ物が多いんだよ……」


既に部屋の前にはガムテープで締められている段ボールの山だ。

現に段ボールを持った滝沢が部屋から出てくる。


「おお、日向!手伝ってくれるのか?!」


「なわけ。俺も荷物まとめにきたんだよ」


「だろうな!じゃあお互い頑張ろうな!」


滝沢は部屋に戻っていった。

だが、扉を閉める前にチラッと聞こえた。


「女の声?」


今も耳を澄ませば滝沢ではない透き通った声が聞こえてくる。

物音も複数聞こえることから誰かに手伝ってもらっているのだろう。


「まあいいか。俺も暇じゃないしな」


とっとと、部屋に入って準備していた段ボールに物を仕舞っていく。

小物は少ないが、ベッドやら本棚などが置いてあるので、いらない棚は分解し、いるものは引っ越し業者に委託するための書類に記入する。


4時間くらい集中して作業をしていると、隣から2人の声が聞こえてくる。

興味本位で俺も部屋から出ていく。


部屋の前を通り過ぎたであろう、滝沢たちの背中を捉えた。

滝沢より少し身長の低い髪の長い人が隣に立って寄りそうように歩いていた。


「おーい、滝沢~。話あんだけど~?」


「んおー?どったの?」


「ああ、その隣の人誰?」


「ああ、梨花りんかのことか?気になるのか?」


「そりゃあ気になるだろ」


「幼馴染だ!」


「はぁ?」


俺の部屋に招き入れ、詳しく説明を聞いた。

お昼ということもあり、デリバリーのピザを奢ることになったが。


久々に実家に帰ったら幼馴染の永井ながい梨花りんかとばったり遭遇し、アパートが見つからなかったから実家に帰ることを説明したら部屋の掃除を手伝ってくれることになったらしい。

しかし、話を聞けば聞くほど何故こいつはこんなにも鈍感なんだ、と思わざるを得ない。


永井さんの視線はほぼ滝沢のほうを向いており、ほとんどがジト目である。

たまに喋るが、基本は滝沢の間違いの訂正だ。

無口ではないだろうが、口数が少ないのはおそらく滝沢のせいだろうな。


「ふーん……。永井さんも大変だね?」


「……そうなんです、わかってくれますか?!」


「わかるー。めっちゃわかるー」


「おい、なんか日向も梨花も棘がある喋り方やめろよ!」


滝沢はやはり鈍感のようだ。

ちなみに、俺と永井の会話は訳すと以下の通りである。


『こんなのに惚れて大変だよね?』


『え?もしかしてバレバレでしたか?!』


『そうだね、めっちゃわかりやすいよ』


永井さんは所謂ツンデレというやつだろうな。

心配性な性格なのか、滝沢を基本的にフォローしているが、言葉に棘があるような言い方しか照れて言えないのだろう。


鈍感主人公とツンデレヒロインのような物語を見ているみたいだ。


「まじかー。滝沢に幼馴染なんていたんだな~」


「生まれた日が近くてな?病院も一緒で家も一件挟んで近所だから高校卒業するまではよく遊んだものよ」


「あんたが一人で行動するのが危なっかしくて見てられないのよ!」


「んだよ~、とか言って梨花も楽しんでたろ?それより、梨花!彼氏でもできたか?!」


「ななな、なによ急に?」


赤面顔でかなり動揺している。

視線は泳いでいるし、手なんか高速でぶんぶん動かしている。


「いやー、なんかいつもよりオシャレしてるだろ?これからデートだろ?髪も整えるくらいにだけど切られてるし、いつもより化粧がばっちり決まってるじゃん」


滝沢は永井さんの髪の毛を触って、褒めちぎっている。

永井さんは赤面していた顔から一気に真顔に戻った。


「「はぁ……」」


「どうした、ふたりとも?」


「いや、滝沢は一旦ラブコメを読んだ方が良いと思うぜ?」


「やだね、俺は王道ファンタジーのイチャイチャハーレムスローライフで俺つえー!だけでいいんだよ!」


「道のりが長いね?根気強くだよ?」


「わかってます……。努力してみます」


「んー?まぁいいや。それより日向。氷野さんは?」


「バイト」


「「はぁ?」」


このあと、いろいろと問い詰められ、穂乃果から連絡が来るまで俺の部屋を独占されていた……。



◇◆◇◆◇◆◇



「忙しかった……」


「お疲れ。クリスマスだからしゃーない」


「うん。それよりさ、一つ聞きたいことがあるんだけど?」


「どうした?」


「なんで、私のしらない香水の匂いが朝陽くんから匂ってくるのかなぁ?」


「え?」


ここに一つ修羅場が完成した。

寮に帰ったことと滝沢のことを1から詳しく説明した。

誤解を解くのに時間は掛からなかったが、家に帰った途端にマーキングをされた。

首に充血ができた……。


三時間後。

シャワーを浴び、着ていく服のアイロンなどを行い、着替え、氷野家へ向かうことになる。

クリスマスらしいことは出来てないが、それどころでもない。


「今頃、滝沢くんはデートかな?」


「どうだろうな。たぶん、解散してるんじゃない?」


まぁかなりの鈍感だしな。

永井さんは永井さんで自分からは言い出せないだろうしな。






「なんで私は一人で帰らないといけないのよ……。ちゃんとデート誘えよ、私!」


電車の中でクリぼっちが確定した永井梨花であった。







~~~~~~~~~





ちょっとだけ滝沢回でした。

クリスマスという単語だけでクリスマス感はなかったですね。

滝沢の鈍感さに気づいてもらえればいいです!


さて、前回で20話でした。

主要登場人物は残るは二人の両親くらいになりました。

穂乃果のお父様はどういう方なんでしょうか?


そして、コメントをしてくださる皆様ありがとうござます!

誤字脱字、感想等を送ってくれたことをこの場を借りてお礼申し上げます!


感謝感謝!!!

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