「わりぃな、滝沢」

穂乃果の誕生日にも関わらず、午前中は出かけることなく、いつも通り穂乃果の家でだらけて居た。

穂乃果は午前中の間、布団のシーツや私服などの洗濯をして干したあとはリビングでのんびりしている。


「なにスマホとにらめっこしてるんだ?眉間に皺寄ってるぞ?」


「ん~?お父さんが年始は忙しいから年末は家に帰ってきなさいって連絡来てどうしようかな~って悩んでたの」


「穂乃果だけか?」


「あ、確認してみる~」


さすが現代っ子。

スマホで文字を打ち込むのが早い。


高校までは電話が嫌いで、なるべくチャットだったが、大人になると打つのがめんどくなり電話が主流になりつつある。


「一緒に来なさいだって。どうする?」


「どうするもなにも行くしかないだろ?」


「そうだよね~。じゃあ返信を……ん?」


「どうした?」


「これ見て?」


穂乃果にスマホの画面を見せられる。

LIMEのチャット欄で、話し相手はお父さんと表示されてる。

上から会話を流し見するが、基本は年末年始の話をしていた。


そして、一番最後に届いたチャットが……。


「『日向くんは競馬やってるのか?』だって?なんて答えるのが正解なんだ?」


「正直に答える?」


結局3分ほど二人で思案し、嘘がバレた時のリスクを考慮した結果、素直に答えることに。


「あ、お父さんから……え?」


「どうした?」


「これ……」


隣で話している穂乃果のスマホを覗き、会話を確認する。


『では、早いが初顔合わせはグランプリレースの行われる26日でどうだ?』


「え?これって行ったほうがいいパターン?」


「うーん、どうだろ……。ちなみにグランプリレースって何?」


穂乃果に嚙み砕いて説明する。

年2回行われて、上半期と下半期の総決算のようなものだと。


「じゃあ、そのレースを一緒に見ようって誘い?」


「だと思うが……。え、穂乃果のお父さんって競馬やってたの?」


「私が高校生の頃はやってなかったかも……。最近、家にも帰ってないからわからないんだよね」


「まぁ断るのも印象悪くなるし、行くしかねぇよな~」


「じゃあ、その日に私の実家でいいかな?」


「了解だ」


「じゃあお父さんにもそう伝えるね」


急すぎて気持ちの整理できてないが、とりあえず日程が決まった。

まさか競馬を一緒に見ようって誘いだとは思わなかったが……。




◇◆◇◆◇◆◇




お昼を食べ、穂乃果は一旦化粧をしに、寝室へ。

俺はコンビニへお金を下ろしに行った。


「準備終わったよ!」


「じゃあ行くか」


目指すは不動産。

目的はマイホームの契約。


お昼前におっちゃんから連絡が来て、今日ならいつでもいいとのこと。

契約書を取りに一度寮へ戻る。


「へ~、ここが社寮?」


「おう。すぐ戻るから待っててくれ」


「わかった~」


穂乃果は車の中で社用車や会社のものらしき機械類がある辺りを見渡していると、隣の車が戻ってきた。

隣の車から降りた人がこちらをチラっと見てきた。

穂乃果と目が合った。


「あ、日向いんのかy……ええええ?!」


「なにごと?!」


「あ、え、いや…。え、マジ?!」


「えっと……」


「あ、申し遅れました!わたくし、日向朝陽の同期、滝沢と申します!日向さんからはお話は伺っておりましたが、相当な美人さんでいらっしゃいますね!写真で拝見したことがありましたが、実物はより一層美しくあられますね!なにより座っていられるだけなのにも関わらず、包容力豊かなオーラを身にまとっているようで、女神のような雰囲気を感じ取れて!」


途中から滝沢の様子がおかしくなり、視線が泳いでいる。

なにを伝えたいのかよくわからないが、穂乃果はとりあえず、彼女としての対応を心掛けた。


「朝陽くんの彼女の氷野穂乃果っていいます。朝陽君からお話しを聞いたことあります!マッチングアプリの人ですよね?」


「……ぐふっ!」


「え?!大丈夫ですか?!」


急に倒れた滝沢の下へ車から降りて駆け寄る。

幸い、怪我はないようだ。


「おーい、なにやってんだ、お前ら……」


書類を手に持って戻ってきた俺は目の前の光景に疑問を投げつける。


「朝陽君!同期の滝沢さんが丁度帰ってきて、急に倒れたの!」


「なんか言ったか?」


「うーん、何も言ってない気がする……。あ、軽く挨拶したよ?」


「そっか。んで、滝沢。何言われたんだ……?」


「日向の彼女にマッチングアプリの人って覚えられてた……」


「ぶっ!」


さすがに笑いを堪えることはできなかった。

そういや、同期の話はマッチングアプリの成果の話しかしたことなかったわ。

わりぃな、滝沢。


「あ~、腹いてぇよ……」


「ぐすっ……、悪意のない言葉が俺を苦しめる……」


「えっと……ごめんなさい……」


「あー、気にすんなよ。自業自得だからな。つか、滝沢は今日仕事じゃなかったのか?」


「ああ、忘れ物取りに来たんだけどよ、日向の車あったからチラっと見たら目が合ってな……」


「あーなるほどな。とりあえず急いで戻らねーと矢野さんに怒られっぞ?」


「あー!そうじゃん!では、俺はこれにて!お幸せになああああ!!」


慌てて走って部屋に戻る滝沢を横目で見やり、車の中に戻った。


「愉快な同期だね?」


「ああ、アホだからな」


「仲いいんだね」


「俺含めて6人居た同期も4人がやめてったからな。自然とあいつと話すようになったわ」


車を走らせて、不動産へ向かう道中は同期の話になった。

あんまり穂乃果に仕事の話をしたことなかったからな。

同期の奇行について話をしていたら、かなり盛り上がった。


しかし、それと同時に穂乃果の中では……。


『朝陽君の同期はちょっとネジの外れたやばい人!でも、優しい人!』


って覚えられてしまった。

わりぃな、滝沢……。(2回目の謝罪)




◇◆◇◆◇◆◇




「じゃあ、あとはこれに印鑑押して?」


2時間ほど、不動産に着いてから話を聞いていた。

審査さえ通れば簡単な手入れだけですぐにでも住めるようになるらしい。

最後の書類に印鑑を押し、一息つく。


「あとは審査結果待ちですね。まぁ事前に調べてみたから大丈夫だと思いますけどね」


「だといいんですがね……」


「2週間ほど掛かると思いますので、家具などをある程度見ておいてくださいね?2月には住めるようにこちらも進めておきますので」


「あざっす。さすがおっちゃん。仕事が早いわ」


「これが仕事だからね。買ってくれるならそれ相応の対応はするよ」


普段、ぼーっとしているようなおっちゃんが今日ばかりは頼りになる。


「そういえば、契約したけど、家の中ってもう一回見れる?」


「大丈夫だよ。間取り確認したい?」


「そっすね。家具買うにしてもやっぱりある程度間取りわからないときついっすからね」


「じゃあ、家の鍵渡しとくからもってていいよ?もし、買ったものを置いとく場所に困ったらそのまま家に置いててもらっていいし。ただし、まだ壁とかに装飾はしないようにね?」


「わかったっす。あざっす」


家のスペアキーを預かり、何個かわからないことを質問して不動産を出ていく。


「ついに契約しちゃったね」


「ああ、貯金が厳しいぜ」


「大丈夫そう?無理しないでね?」


「ああ。とりあえず、家は今度見に行くか……。一旦穂乃果の家戻るか」


「うん、朝陽君はそこからまた買い物?」


穂乃果も薄々察してはいるが、あえて分からないフリをしてくれている。

気を使ってもらっているので、個人的な用事ってことで貫く。


「ああ、買い物終わったらピザでも買って帰るよ」


「うん、まってるね?」


穂乃果を無事家に送り届けてから、一人でブライダルリング専門店へ向かう。

予約している時間より1時間も早くついてしまったため、1階にある家具屋を見て回て回った。



「ベッドは大きいの買わないとな」



今のベットでも二人で寝れるが、さすがに行為に至るときは狭く感じるからな。





~~~~~~~~




クリスマスの日の話はもしかしたらスルーするかも。

デートさせてもいいけど、そんなことより先が気になる人のほうが多いとおもうので。

高校の頃だったら大事なイベントですけど、大人になると性夜ですからね。


というか、滝沢の野郎、勝手に物語に出てきやがった。

おかげさまで婚約指輪を買いに行く描写を書ききることができなかっただろ!!

後悔はしてません。

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