「……寒いだけだよ」

買い物を終えたあとは穂乃果のリクエストで居酒屋だった。

一旦家へ戻り、近場の酒場へ徒歩で移動する。

ちょうど狭い個室が開いており、お酒とおつまみを食べながら穂乃果の大学の話を聞くことに。


しかし、お酒の入った穂乃果はかなりめんどくさい。


「それでね~、雪ちゃんがナンパされてるのをみてぇ~……」


「斎藤くんが実習でマネキンの髪の毛全剃りしちゃってぇ~……」


「高屋先生が不倫してるってことが全生徒にバレてぇ~……」


etc......


永遠と話し続ける。

俺は「そうだね~」「うんうん」「それはひどいね」「面白そうじゃん」って頷くだけだ。

そして、喋るだけ喋って寝た。


最初は対面で飲んでいたものの、すぐに隣に移動してきて密着してきた。

俺よりもお酒を飲むスピードも上がり、最後のほうは眠気でなにを喋っているのか分からなくなったほど。

いつにも増してお酒を積極的に飲んだ穂乃果を膝枕しながら残っているおつまみやお酒を消費する。


それほど多くない量だが、穂乃果に気を使いながら食べているせいで食べる速度はゆっくり。

よく噛んで食べているため、お酒も相まって満たされる。


滞在時間は1時間程だが、あっという間に感じる。


「穂乃果と付き合ってから3か月か……」


20歳になって時間の流れる感覚というのは高校生の頃と比べると格段に速くなった。

1日は長く感じるのに、1か月、1年と思い返すとあっという間だ。


同窓会で穂乃果に声を掛けられた時のことを今でも昨日のことのように思い返せる。


「それがたった3か月でプロポーズを考えるようになっちまうとはな……」


残っているつまみを完食し、お酒も飲み干す。

腹の調子を整えるために、少しスマホでこの3か月間の写真を振り返る。


初めてデートで撮った2ショット。

家でぼけーっとする俺を盗撮したもの。

焦りながら化粧している穂乃果。


様々な写真を撮った。

付き合う前は仕事関係の写真しかないのに、3か月でフォルダーの半分が穂乃果関連に変わった。


「人って変わるもんだな~」


「んん~……?」


少し足が疲れてきたので、位置を変えようと動かす。

すると寝ていた穂乃果を起こしたようで、ぼやけているであろう視界で俺を見てくる。


「おはよう?」


「え……?あ、寝ちゃった?」


「うん、急に寝たね」


少し、辺りを見渡した後でいつもと光景が違うことに気づき、寝てしまったことに気づいたようだ。


「んん~、ごめんね、寝ちゃって」


「大丈夫。誰にも迷惑かけてないし一時間も寝てないから」


「そう?朝陽君まだ飲む?」


「いや、そろそろ起こそうと思ってたから丁度良かったわ」


「よかった……。じゃあ、帰る?」


立ち上がり、自分が座っていた方へ戻る。

スマホに連絡が来てないことを確認したあとに、バッグへ戻し、着てきたコートを羽織る。


「その前にトイレいってきていい?」


「あ、私も行ってこようかな……」


「俺足しびれてちょっと歩けないから先行ってきなよ」


「あ、ごめんね……。じゃあ先お手洗い行ってくるね?終わったらレジ前でいい?」


「OK。じゃあ、あとでな」


「うん!でも、勝手に会計しちゃだめだよ?」


「わかった」


ここの注文はデジタルでお店側で管理している。

店員に支払いを伝えれば、勝手に伝票を出してくれる。


穂乃果が部屋を出ていったあと、少しだけ痺れた足を回復させ、個室から直接レジへ向かう。

時間もほぼ日付が変わる時間帯なので店員さんがようやく来たか……みたいな視線を送ってくる。


「お会計ですね?」


「カードでいいですか?」


「承りました。こちらにタッチしてください」


チャリンっと音が鳴り、会計を済ませる。

会計を済ませてしまえば、あとは連れを待ってるだけなので出入口に近い椅子で座って待つ。


数分もしないうちに穂乃果が財布を手に戻ってくる。


「お会計しよ?」


「店員さんにかされた先に払っといたわ」


「むぅ!待ってるって約束じゃん!もぉ!いくらだったの?」


「しらね。カードで払ったから値段見てない」


「そうやってシラを切るのずるい!もぉ、いっつも奢ってもらってばっかりじゃん!」


お店を出て、手を繋ぎながら帰る。

徒歩数分なので、痴話喧嘩のような会話だが。


「でも、俺だってごちそうしてもらってばっかだろ?」


「それは食費もらってるから普通でしょ!」


「でも、作ってもらってるし?俺作れないし?」


「じゃあ私がいなくちゃダメにしてあげなきゃ!」


空いてる手で拳を作る穂乃果。

ちなみにバッグは俺が持ってあげている。

割と重い。


「もう駄目な気がするけどな?」


「じゃあよし!」


あと20分くらいで日付が変わる。

アパートの近場の公園のベンチへやってきて、冷えたベンチへ座る。


「冷えるね……?」


「冬だからな」


「寒くなってくると誕生日が近く感じるもん」


「たしかに12月も終わりのほうだからな。もう10代終わるぞ?」


「歳を取るって嫌だね……。こうして10代を振り返ると長かったな~って思っちゃうよ」


「でも、20になったらあっという間だぜ?」


「感覚の問題でしょ?私の高校生活はほんっとうに長かったんだからね?」


「恋を拗ねらせてたんだっけか?」


「もぉ!誰のせいだと思ってるのさ!」


密着している身体を空いてる手で器用に太ももを叩いてくる。

しかし、本気ではなくあくまでじゃれる程度。


「でも、逆にそのほうがよかったのかもね……」


「どういうことだ?」


「高校生で付き合っちゃうとこうやって大人になって出来る付き合いとは違うんだろうなぁって」


お酒飲んだり、遠くに車で出かけたり。

金銭的に限界のある高校生では出来ないことの方が多い。


同棲にしても、俺らは元々実家から通っていたため、帰りはさようならだ。

大人だからできることは想像以上に多い。


「高校生だと青春って感じが強いけど、大人になると今後を意識しちゃうことも多いしね?」


「まぁ、俺もたまに穂乃果との間に子供が居たらどれだけ幸せなのかって、矢野夫婦の子供見て思うわ」


矢野さんを家に送っていくと、起きてたら子供たちを一目見てから帰る。

そのたびに俺の子供が欲しい欲が高くなっていく。

決して性欲に溺れてるわけじゃない。


真っ暗の公園、穂乃果の誕生日まで残り10分を切った。

少し無言の時間ができたが、なにやら言いたそうにしていた穂乃果を待っていた時間だった。


「……じゃあ子作りしちゃう?」


「いいのか?」


「うん。最悪両親には迷惑かけるかもだけど……。でも、絶対納得させる!」


「じゃあ土下座しないとな?」


「そうだね、一発殴られちゃうかも?」


「覚悟決めとかないとな……」


あー、殴られるかな~?

まぁ穂乃果って一人娘だもんな。

俺は弟がいるが、男だから合意の下なら親はなにもいわないはずだ。


先に密着していた身体を離し、立ち上がったのは穂乃果だ。


「じゃあ帰ろ?」


「おう」


差し出された手を掴み、立ち上がる。

掴み方を握る形から絡めるように。

公園の薄暗いライトが穂乃果の顔を照らした。


「顔真っ赤だぞ?」


「もぉ!ムードぶち壊すのやめてよ!」


「わりぃわりぃ。でも、手震えてたからよ」


「……寒いだけだよ」


「そうか……」


そのまま、無言でアパートのほうへ歩いていく。

お互い、時刻が0時を回ってることに気づかない……。






~~~~~~~~




競馬week始まりましたね。

頑張ります!


さて、ちょっとお仕事の都合で更新時間が変わるかもしれません。

一応予約投稿はしておきますが、更新時間違かったら察してください。


スルーセブンシーズ、いい脚だったけど残念でした……。

スプリンターズステークスはありがとうございました!

ミックは着差以上の圧勝ぶりだった気がします。







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