「付き合ってる男女だからな」
2週ほど忙しい期間が続き、中々休みの取れない日々が続いた。
所帯を持つ矢野さんに代わり、残業などを受け持つ。
工期がギリギリな日程で組まれており、トラブルを考慮すると、日数はまったく足りない程だ。
所帯を持たない独身共が汗水流して、深夜も働く。
あくまでも、俺らはブラック作業員だ。
金の支払いがいいだけで、結局は使い捨ての駒に過ぎない。
2週間も経てば、仕事は終わった。
だが、疲労困憊の作業員は休みに飢えていた。
かく言う俺も、この2週間はほぼ仕事で穂乃果とあまり話していない。
たまに通話をするが数分くらいだ。
誰だって、休みがほしいだろう。
と、みんなで文句を言っていると、支部長がやってきた。
「今回の日程は厳しかったが、おかげでうちにも余裕ができた。連休とまではいかないが、有休消化も兼ねて、休みを振り分けたい。希望があるものは早めに申請しなさい」
「支部長、こういうときだけは神に見えるわ……」
同期の滝沢が涙を流していた。
まぁ、滝沢は慣れない作業ばっかりだったからな。
疲労は俺よりもやばいだろうな。
「日向はいつ休み取るんだ?」
「とりあえず、彼女に聞いてみるわ。まとまった休みで申請するつもり」
「じゃあ、俺は早速明日から3日間の有休を申請してくるぞ!!」
パソコンを所持している者は速攻で有給申請をしているようだ。
滝沢はパソコン未所持組なので、一々申請書類を書かなくてはならない。
「とりあえず、穂乃果に連絡すっかな」
久々に見たスマホには穂乃果からのLIMEで埋め尽くされていた。
◇◆◇◆◇◆◇
有給取得者が殺到し、結局俺が休みを取ったのは11月初め。
普通に日曜の休みがあったとはいえ、連日の仕事にさすがの俺でも疲れが出てきた。
1日目はとりあえず、穂乃果に介護してもらった。
ほぼベッドで寝ているミイラのような感じだ。
そして、2日目。
今日は高校の時の親友、啓介にバスケへ誘われたため、穂乃果と総合体育館へ向かっていく。
集まるメンバーは高校んときのクラスメイト。
同窓会の男バージョンみたいな感じだ。
「疲れは大丈夫?」
「まぁ、残ってはいるがあくまで遊びだしな。怪我しない程度に運動するわ」
「心配だな~……」
まぁ昨日は本当に穂乃果の世話になったからな。
げっそりしている俺を見て、俺よりも辛そうな顔してたもんな。
「それより、私は来てもよかったわけ?」
「大丈夫だろ。むしろ、穂乃果の応援があるだけであいつらたちまち元気になるだろ」
「彼女がモテるって辛いね?」
「そりゃあな。でも、俺は誇れるってもんだぜ?寝取られは許さんが……!」
「む、ずっと朝陽君に引っ付いてないと……!!」
「せめて運転中は離れてくれ」
「ふふ、半分は冗談だから安心して?」
「それでも、半分かよ……」
まぁ、穂乃果が俺以外の男を選んだなら、それはそれだ。
その男はボコるが、穂乃果の意思は尊重するつもりだ。
いや、できねぇかもな……。
俺は既に穂乃果なしじゃ生きていけねぇかもな……。
「あ、次の信号右だって」
「あいよ~」
「高校以来だよ、朝陽君の運動する姿見れるの!楽しみだな~、写真いっぱい撮らないとな~」
「程々にな?」
結局、総合体育館へ着くまではイチャイチャしました。
◇◆◇◆◇◆◇
俺らが体育館へ着いた時にはすでにウォーミングアップしているやつらがちらほらいた。
「おっす、早いな」
バッグを穂乃果に預け、ベンチに座りバッシュを履く。
履き心地を確かめてからウォーミングアップしている輪に交じる。
「来たか!久々だな!」
「そうだな、誘ってくれてありがとな」
「いいってもんよ!ってそんなことよりな?」
気づいたら、アップしていた男共が俺を取り囲んだ。
「「「なんで氷野さんと一緒なんだよ!!!」」」
約12名ほどの男共が叫んだ。
「付き合ってるんだわ」
しかし、俺は屈しない。
その場で屈伸して、体のだるさをほぐす。
「「「はぁぁ?!」」」
「うっさいなぁ……、いちいちハモんなよ……」
「いやいや、親友よ。同窓会から2か月も経ったが、俺はなにも聞いてないぞ?」
啓介が代表して、俺に質問してきた。
「言ってねぇからな。つか、半同棲だしな、俺ら」
「ヤることはヤってるのか?!」
「そりゃあ、付き合ってる男女だからな」
アップも終わり、そろそろボールを触りたいが、周りの男共が中々離れていかない。
しかし、ここは自慢する時間でもある。
たっぷりマウント取ってやろうか……!!
「ちっ!よっしゃ、今日は朝陽をボコしてかっこ悪い姿を氷野さんにみせつけてやる!」
「そうか、その手があったか!朝陽vsその他でいいだろ?!」
「よくねぇわ!つか、考えてみろ。俺と同じチームになれば穂乃果の応援がもれなく付いてくるぜ?」
「「「朝陽様!どうか同じチームになってください!!!」」」
「お前ら……。どこまでも欲望に忠実だな……」
それからはチーム分けが白熱し、ゲームが始まるまで時間がかかった。
その頃穂乃果はというと。
「わぁ!みんな久しぶり!」
「穂乃果、一層美人になった?」
「というか、日向くんと進展あったの?!」
「そういうみんなだって大人っぽくなっちゃって!お付き合い始めたんだ!」
近くだからと応援に来た女子達と話していた。
当然ここにいるのだから、全員同級生だ。
「あの穂乃果がね~?で、どうなの?」
「ふふふ、絶好調だよ!」
「うらやま~!日向君、またかっこよくなった?」
「ね、かっこよくなったよね、日向君!」
「自慢の彼氏ですから!」
こっちはこっちでコイバナに華を咲かせていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「朝陽、パス!」
啓介がドリブルで攻め、空いた場所に俺が移動すると、わかってたかのようにパスが飛んでくる。
完全フリーな俺の下へやってきたボールをリングめがけて放つ。
エリア外から放ったシュートが弧を描き、リングの中へ納まる。
「朝陽、ないしゅー」
「啓介もナイスパス!」
10分の試合時間が終わり、一旦休憩へ。
3時間くらいぶっ通しでバスケをしていたため、さすがの男どもでも疲れが出始めていた。
「朝陽君、おつかれ!」
「おう、さんきゅー」
スポドリとタオルを穂乃果から受け取る。
自然といちゃつく姿を見せつけられる男ども。
「やっぱり朝陽君が運動してるとこかっこいいよ!」
「そうなのか?」
「うん!惚れ直しそう!」
「じゃあ、もっと頑張らねぇとな」
「「「けっ!イチャつきやがって!!」」」
「「穂乃果、結構大胆なんだなぁ~」」
悪態付く男子と積極性のある穂乃果にびっくりしてる女子。
高校のときでは考えられない光景が目の前で見せつけられている現実に、二人以外は茫然としていた。
「さて、ラストゲームにすっか」
「そうだな、さすがに疲れてきたしな」
俺の申告に啓介がノッてくる。
その他男子も頷き、ラストゲームへむけて靴紐を結び直し、コートへ向かっていく。
「「「みんなー!頑張ってねー!!」」」
審判を任されている男以外はやる気に満ち溢れている。
「最後まで俺が審判かよっ!」
最初にじゃんけんに負けた一人が最後まで審判をやることに文句を言いつつも、ホイッスルを口に咥え、鳴らすと同時にジャンプボールを高々と放った。
「朝陽君がんばれー!!」
穂乃果の応援が体育館に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます