「レンカノでも申し込んだ?」

平日、仕事の休憩中に同期の滝沢が声を掛けてきた。


「女の子と出かけるときってどういう服装してけばいいんだ?」


「え、お前レンカノでも申し込んだ?」


「ちゃうわ!この前マッチングアプリで出会ったんよ。そして、意気投合して一緒に遊びに行く約束したんだよ!」


「ふぅん……。ちなみに予定は何回キャンセルされたん?」


「その質問おかしくね?でも、この前会う約束してたんだけど、大学が忙しくて行けなくなったって言われたくらいだぞ?今週末は絶対予定空いてるから大丈夫だって言ってた!」


あー、ネギ背負ったカモだわ。

マッチングアプリにはサクラと言われる人らがいる。

画像は拾い画だったり、ほぼ加工してあったりと、見分けようと思えば出来る。


そんなわかりやすいトラップにまんまと嵌ってるのが、同期だという現実。


「はぁ……。まぁ、マネキンが着てる一式でも買って来いよ。失敗はしねぇよ」


「なるほど……!今日買いに行ってみるわ!」


「張り切りすぎんなよ?」


「俺にも遅れて春がやってくるぞおおお!!」


その春に裏切られることになるだろうがな……。


◇◆◇◆◇◆◇


「聞いてくれよぉぉぉ……」


「お、おう……」


そして週明けの月曜。

引き続き同じ現場なので、同期と一緒に働き、仕事終わりに飲みに誘われた。


そして、案の定マッチングアプリの件だった。


「写真と全然違う子が来てよぉぉ……」


と、スマホで写真を見せられる。

マッチングアプリのほうはがっつり加工されており、写真だけなら細身の美人である。

しかし、デート当日に撮ったと思われる写真は同期の倍ほどデカい女性だった。


マッチングアプリの画像と比べると一目瞭然。

ほぼ別人である。


「でも、めっちゃ優しかった……」


「じゃあよかったじゃねぇか」


あー、軟骨唐揚げうめ~。

レモンサワーがキマるぜ。


「でも、デートの後から音信不通でよぉぉ……」


「逃げられてんのかよ……」


「きっと大学で忙しいだけだよな?!」


「情緒不安定かよ……」


でも、酒のつまみといったら枝豆っしょ。

ここの枝豆、塩分効いてて美味いんよな~。


あ、酒切れたわ。

店員さん!ハイボール追加で!


「そのあとからマッチングアプリでも、中々マッチングしなくてよ~。月額で払うの勿体ないから一年分一気に払ったばっかだというのにさ……」


「マッチングアプリなんてそんなもんだろ?つか、お前んとこの同級生の同窓会とかないん?」


「俺、中高って陰キャぼっちだったんよね……。あわよくば異世界転生して俺つえーやりたいとすら思ってたわ……」


「あー、なんかごめん」


「いや、そんなことは気にしてないんだ!俺は顔じゃなくて年収でゴリ押す!」


まぁ、俺ほどではないにしろ、こいつも稼いでるからな。

俺はマジで過酷な現場ばっかである。

主に矢野さんのせいだが。


「お兄さん方、今暇ですかー?」


「私たちもご一緒してもいいですか?」


突然背後から声を掛けられた。

声の質は猫なで声で明らかに女性。

あたりを見渡すと満席で、女性2人は4人席に座る男2人ならイケるとふんだのだろう。


「も、もちろんっす!」


「はぁ、どうぞ」


断るより先に同期が承諾してしまったために、俺が同期の隣に移り、正面に女性2人を座らせた。


「お兄さんたちはお仕事なさってるんですか?」


「そうっすよ!こいつとは同期っす!」


「ええ!若そうですけど、おいくつなんですか?」


「今年で20になったばっかっす!」


「え、嘘!同い年じゃないですか?!」


あー、同期君完全にペース握られてるわ。

このノリは俺にはキツイから様子見て俺だけ帰るか……。


「ちょい、トイレいってくるわ」


「はーい!いってらっしゃい!」


「おう!というか、ミミちゃんとアキちゃんもなんか飲みなよ!」


「えぇ~、じゃあもらっちゃおうかな?」


「いただきます!」


こいつ、いつの間に名前を聞いてたんだよ?!

同じ空間にいたはずだよな……。


俺は席から立ちあがり、トイレへ向かう。

スマホは最初からケツポケに入っている。


トイレの前で壁に背中を預け、穂乃果に通話をする。


『もしもし?』


「今暇か?」


『うん、ちょっと勉強してたけどどうかしたの?』


「今、同期と飲んでたんだけど、迎えこれない?」


『いいけど、どこで飲んでるの?』


「〇〇の居酒屋」


『結構近いね。わかった!今行ってもいいの?』


「そうしてもらえると助かる」


『わかった!着いたら連絡するね?』


「ありがと、外で待ってるわ」


そして、通話を切る。

手を洗い、いかにもトイレを済ませました感を出す。


「わりぃ、明日の仕事の件があるから先帰るわ」


「ええ、もう帰っちゃうんですか?!」


「もぉちょっと飲みましょうよぉ!」


「そうか?気を付けて帰れよ?」


「おう、金渡しとくわ」


財布から諭吉様を一枚同期に預ける。

これなら暴走しない限りは1枚で足りる値段だろう。


同期よ、騙されるんじゃないぞ?


「じゃあ、悪いけどお先失礼するわ」


「むぅ!また今度会ったら一緒に飲みましょうね!」


「ええ、そんときはぜひ」


会ってもシカトする気満々だが、ここは同期のため。

良い顔を見せておく。


店内から外へ出ると、ヒヤッとした空気が纏わりついてくる。


「冷えてきたなぁ……」


壁にもたれ掛かり、穂乃果が到着するまでの時間はソシャゲのスタミナ消費に時間を費やした。

10分ほどで着いたという連絡がきたので、辺りを見渡すと見知った車が止めてあった。


「穂乃果~」


「あ、朝陽君!助手席どうぞ!」


「さんきゅ~」


俺は助手席に乗り込み、結局穂乃果の家に泊まることになった。



◇◆◇◆◇◆◇



「マッチングアプリ?」


「知らないの?」


「うん、まったく興味ないから知らなかった」


家に着き、水を飲んでシャワーを借りて今日の同期の話を穂乃果に聞かせると首を傾げた。

マッチングアプリをかみ砕いて説明する。

男は有料で女は無料。

加工は当たり前で、ドタキャンも当たり前という話をだ。


「私、朝陽君しか異性に興味なかったから全然知らなかった……」


「それは男冥利に嬉しいこといってくれるじゃん」


「そ、そう?えへへ」


ソファで隣同士に座って適当なテレビを点けてみていると、体を俺に倒してきた。

左手で穂乃果の肩に手を回す。

それから二人は無言の時間が続いた。


「……なんか雰囲気酔いしてきたかも」


「じゃあベッドいくか?」


「うん、連れてって?」


「おう」


俺は穂乃果を抱き上げ、そのまま寝室のベッドまで連れて行った。

穂乃果をベッドに置くと、首に巻き付いていた腕がそのまま俺をひっぱる。

それに引っ張られるような形で穂乃果の隣に寝転ぶ。


「やっぱり、朝陽君っていい身体してるよね?」


穂乃果が俺の腹筋を撫でる。

そのまま手の位置が下がっていく。


「いい?」


とはいいつつも、手は動く。

俺も無言で返す。


穂乃果は体を密着させに寄ってきた。

そのまま、ほぼゼロ距離で見つめ合い、


「んっ」


穂乃果は照れながらもキスをしてきた。

そのまま、二人は深い世界へ潜り込んでいく。






◇◆◇◆◇◆◇






その頃、同期の滝沢はというと……。


「お会計は1万4000円でございます!」


同席していた2人ペアは会計が終わるまでは滝沢に媚びていた。

だが、会計が終わると滝沢のはしごを断り、すたこらさっさと帰っていった。


「え、俺また騙された……?」


少しの間、放心状態が続いた。

そして、気が戻るとすぐに日向に連絡を入れた。


『会計したら帰っていったんだけど……』


だが、次の日まで既読が付くことはなかった……。





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