「バイトしようと思うの!」

「わたし、バイトしようと思うの!」


「は?」


「ということでね、どこかいいところ知らない?」


「え?」


仕事終わりに穂乃果の家へ寄り、夕飯を頂いてたときのこと。

前振りなく、突然にバイト宣言を発令した。


「親の仕送りじゃ足りなくなった?」


ちなみに、こうして夕飯を頂いてるがしっかり食費は渡している。

それでもバイトしようというのであれば、欲しいものでもあるのだろう。


「ううん、十分足りてるけど……」


「けど?」


「もし、将来のために貯金しときたいなぁ~って思って」


「将来ね~……」


俺は少し視線を逸らし、食べてる途中のご飯を頂く。


「言いたくなかったら別にいいんだけど……。朝陽くんっていくらくらいもらってるの?」


「給料?たしか、25万くらいかな?」


「25万?!え、手取りで?」


「うん」


今日のおかずはからあげだ。

美味い!


「それで、毎月どれくらい貯金できてるの?」


「車で2万、スマホで1万、食費が2万だから大体5~7万くらいが払わないといけない分。差し引けば大体17万くらい?」


ちなみに、2万余分なのはソシャゲに課金したりしているからだ。

結構稼いでる自信はあるが、お金を使う暇がないのだ。


「まぁ、家をローンで買って7万くらい、光熱費で高く見積もって5万だとしても5万は貯金できるかな~?」


「朝陽くんってかなりすごいよね……」


「まぁ、同年代からすれば稼いでると思うぞ。まだ20だしな」


その代わり、かなりブラックだがな。

金銭はしっかり払ってくれる会社な分全然マシである。


ちなみに、これも自己アピールだ。

稼げる男はモテるからな。


「そういう穂乃果はどれくらい仕送りもらってるんだ?」


「えっとね。家賃、光熱費は両親が払っててくれて、それとは別に食費とお小遣いで8万ほど……」


「お嬢様待遇だぁぁ……」


あ、おいしかったです。

ごちそうさまでした。


「やっぱりそう思う?だから、バイトしようかな~って思ったんだけど……」


「バイトってなんでもいいの?」


「なんでもってわけじゃないけど……。朝陽君の紹介だったら頑張るよ!」


「んじゃあ、あの人に聞いてみるわ」


「あの人?」


「そう、あの人。期待して待ってて?」


俺は早速例のあの人へ連絡をいれた。



◇◆◇◆◇◆◇



「うぅ、緊張するよ!」


「大丈夫、まじで一瞬だから」


「それでも、緊張するよ!」


俺らは現在、とある中華屋の前に来ていた。

会社のやつらと飲みなどでよく通っており、店長がバイトが欲しいと喚いていたため、聞いてみたところかなり食いついてきた。

それで、面接も兼ねて飯を食いに来いとのこと。


既に店は閉まっており、明かりだけがついている店内へ入っていく。


「おっちゃん、きたぜー」


「失礼しまーす……」


「おお!日向君!と、バイト希望の子だね?どれどれ?」


おっちゃんが穂乃果のことをじっくり見る。

さすがに視線が嫌だったのか、穂乃果は俺の後ろに隠れる。


「ちょい見すぎ」


「おっと、悪いね!よし、合格だ!履歴書頂戴?」


「え……」


「だってよ、よかったな」


「ええええ!!!」


そりゃバイト欲しがってたし、やってきたのが美人とありゃあ、断る理由なんてないしな。

まだ若いし、女子大生だもんな。


「おっちゃん、とりあえず飯」


「あいよ、丁度いいからあとでレジ打ち教えちゃうね?」


「あ、はい!ありがとうございます!」


それから俺らはおっちゃんの作る絶品チャーハンと五目焼きそばを頂いた。

いつ食べても飽きない味付け、そしてボリューミーだが、ペロっと平らげた。


「それで、ここを押すとレジが開くから……」


「ここを押して……開いた!」


俺が食べている間、早々にギブアップした穂乃果がおっちゃんにレジ打ちを教えてもらっていた。

初めてのことに戸惑いながらも、要領よく覚えていくため、おっちゃんも教えがいがあると喜んでいた。


「チャーハンと五目焼きそば2点で2100円です!」


「じゃあカードで」


「え、カード?!」


「日向君、意地悪しないの!ごめんね、うちカード対応してないの知っててあういうこというんだから……」


おっちゃんが穂乃果のフォローに入る。

穂乃果も対応してないことにほっとし、次の対応は~って考えてる。


「当店クレジットカードは対応しておりません。申し訳ありませんが、現金のみでのお支払いとなっております!」


「この子、優秀!」


「まぁ、俺の彼女なんで、同然っすね」


「も、もぉ、朝陽君ったら……」


もぞもぞしながら照れてる姿がより一層かわいく思える。

おっちゃんもうんうんと頷いてるしな。


「じゃあ2100円ちょうどで」


「2100円丁度お預かりいたします!レシートご利用になりますか?」


「大丈夫です」


「承りました!ありがとうございました!」


「完璧!あとは注文受け取るくらいだから、すぐにバイト入れれるけど、いつがいい?」


「えっと、今週の土曜だったら空いてますけど……」


俺のほうをチラッとみてくる。

たぶん俺の予定が気になってるんだろうな。


「俺仕事だから、入れるなら入れてもらいな?」


「じゃあ土曜日大丈夫ですか?」


「わかった。じゃあ10時半からでいい?」


「わかりました!ありがとうございます!」


「こちらこそ、人足りなくて手が回らないから助かるの。気にしない?」


「はい、では、土曜の10時半に!失礼します!」


「おっちゃんごちそーさん」


「また来いよ~」


店から出ていき、車に乗って穂乃果の家に向かう。

車内ではバイトの話をしたりして、気づいたら到着していた。


「朝陽君もありがとね?」


「気にすんなって。バイト頑張れよ?」


「うん!ありがと!おやすみ!」


「おう、おやすみ」


軽く、唇を合わせて、俺は社寮へ戻っていった。



◇◆◇◆◇◆◇


「朱莉~。バイトすることになったの!」


『バイト~?どこで~?』


お風呂に入り、寝るだけの23時。

久々に朱莉と電話をかけた。

すぐに応答し、すこし世間話をする。


「〇〇中華ってしってる?」


『ああ、結構おいしいよね~。彼氏といったことある』


「あそこね、朝陽君の紹介でバイトすることになったの!」


『あんたの彼氏、有能ね……。そういえば、この前聞くっていってた日向の収入どんな感じなん?』


「えっとね……、びっくりするんだけど、誰にも言っちゃだめだよ?!」


『わかってるって!で、どうなの?』


私は朝陽君が言っていたことをそのまんま伝えた。

すると、朱莉との通話になにか割れたような音が入ってきた。


『ちょ、え、マジ?はぁ??』


「え、やっぱりすごいの?」


『すごいっていうか……。うちの彼氏、うちらより1個上だけど手取り15万だよ…?』


「え?」


『稼いでるにしても精々18くらいだと思ってたから、驚きすぎてコップ割っちゃったじゃない……』


通話の先からカチャカチャ破片を拾っている音が聞こえてくる。

それでも、朱莉は日向ってやべぇ~とか言っている。


同年代でも稼いでるっていってたけど、朱莉の反応みると相当すごいんだろうな~。


『穂乃果、いい?絶対手放しちゃダメよ?既成事実でもなんでも作っちゃいな!』


「え、あ、はい」


『じゃないと、私寝とっちゃうからね!』


「それはダメ!親友の朱莉でもそんなことしたら許さないからね!!」


『冗談よ、でも、それくらいすごいんだからふさわしい女になるのよ?』


「もちろんだよ!あと、質の悪い冗談はダメ」


『それはごめんて……』


そして話はバイトの話に戻って、24時を回ったくらいに通話を切った。











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