彼女面してもいいよね?
「おわったぁ……」
「おつかれさん」
「うっす、矢野さんもおつかれっす」
19時半、ようやく一段落した仕事を切り上げた。
明日は月曜なので現場も仕事も休みになった。
「朝のコンビニまで送ってくか?」
「いや、歩いていくんで大丈夫っす」
「そうか?じゃあ気をつけて帰るんだぞ?おつかれ」
「うっす、お疲れ様です」
臨時更衣室で着替えを済ませ、現場を後にする。
道中で、氷野に連絡を入れてないことに気づき、LIMEを起動して仕事が終わったことを告げた。
すると、一瞬で既読が付く。
『お疲れ様です!今から帰り?』
『うん、なんか用事あった?』
『ちょっとね!今から私の家来れる?』
『わかった、いまから向かうわ』
『ご飯どーする?作ってようか?』
「飯かー…。迷惑じゃなければいただくか」
よろしくと連絡を入れると、OKとスタンプが届いた。
朝の記憶を頼りに、氷野の家に向かって歩く。
朝はコンビニまで一瞬に感じたが、今は遠く感じる。
寮ではなく他人の家、しかも彼女の部屋となると、かなり違和感でしかない。
「なんか、こういうのもいいな……」
家に帰れば、飯がある。
高校の時は普通だったが、社会人になって改めてそのありがたさに気づいた。
しかも、今回は彼女で高校の時の美少女である氷野だ。
氷野の作る手料理にわくわくが収まらない。
「ロッカーに予備の服あってよかったわ。ダサくはねぇけど…。まぁしゃーないか」
さすがに昨日の服のままも嫌だし、汗臭いだろうしな。
制汗スプレーをやってきたとはいえ、体がべたべたするには違いない。
「ついちまった……」
考え事をしていると気づいたらアパートの前だった。
腹をくくって、アパートの中へ入り、氷野の部屋のチャイムを鳴らした。
「はいは~い、ちょっとまってね~」
中から声が聞こえてくる。
数秒もするとガチャっと鍵が外れ、扉が開く。
「おかえり♪」
「た、ただいま…」
「朝陽君が照れてる!」
ラフな部屋着にエプロン姿の氷野を見て、一瞬動揺してしまった。
あまりの可愛さと非現実感に夢でも見ているのかと錯覚してしまうほど。
「とりあえず、入って!お風呂先にどうぞ!」
「お邪魔します…」
「違うよ!〝ただいま〟だよ!」
氷野に導かれるように部屋へ入り、廊下の途中にある浴室へ案内された。
洗濯籠と思われる場所には何も入ってなかった。
さすがに洗濯したあとのようだ。
「もうちょっとでご飯できるからゆっくりしてきてね!」
タオル等の場所を教えてもらい、氷野はリビングへ戻っていった。
さらっとシャワーを浴びていると、ふとシャンプーの匂いに氷野の匂いを感じた。
「このシャンプー使ってるから当たり前なんだけどな……」
ちょっとばかし興奮してしまった熱を収め、長くなったシャワーから上がり、リビングへ向かった。
廊下には生姜焼きの匂いが充満していた。
「気持ちよかった?」
「おう。ありがとな」
「えへへ、彼女だからね!」
彼女というか、新妻感が強いが言葉を飲み込んだ。
食卓にはご飯とみそ汁、生姜焼きの定番メニューが並んでいた。
「お肉でよかった?材料買いに行くの忘れてて」
「食わせてもらえるだけで嬉しいわ」
「よかった♪じゃあ食べよう?いただきます」
「いただきます」
シンプルな味付けの生姜焼きだが、妙においしく感じる。
おそらく氷野の作ったご飯だからというのが大きいだろう。
どんどん氷野無しではダメな性格になっていっている気がする。
「お仕事ってどういうことしてるの?」
「んー、土木系って言ってもわかんねぇよな…。解体とか配管用の穴あけたりしてるんだわ」
「そうなんだ?日曜も仕事なんて大変だね」
「まぁ今回はビルの配管用の穴開けだしな。むしろ、明日休みだからラッキーって思ってるくらいだしな」
「え、明日休みなの?」
ちょっと困惑したような、嬉しそうな微妙な表情の氷野。
それから神妙な顔つきになった。
まるで告白してきた時のように。
「じゃあ、今日も単刀直入に言うね」
「ん?」
「私、氷野穂乃果はアパートを引っ越します!」
「は?」
「正確には……」
なんでも、両親から電話が届き、アパートの契約更新の時期だからどうするかという確認の電話だったらしい。
その時、彼氏ができた!と自慢したら、どうせなら同棲しなさいとのこと。
そして、それに一番乗り気なのが氷野のお父さんとのこと。
「同棲?」
「うん、だからもし嫌じゃなかったら……」
「そっかー……」
「来年の3月くらいから入れる物件探しに行こうかなって思ってたんだけど、急だし迷惑だよね?」
「あー、なんつうか、丁度いいっていうか…」
しょぼーんとした氷野を見て苦笑した。
そして俺も社寮の話をした。
結果、さっきまでの雰囲気はどこへやら。
嬉しさのあまり、犬のように尻尾がブンブンしているのが視える。
「じゃあ明日!明日物件見に行こう!!」
「いや、同棲しても氷野はいいのか?」
「もちろん!むしろ、朝陽君が嫌なんじゃないかなって思ってたくらいだし!」
「わかった。んじゃあ、明日見に行くか」
「やったー!いまのうちに何件か見ておこうっと!」
それから、世間話をしながらご飯を食べ終え、ソファで休んでいると氷野が隣に座り、体を預けて、物件を調べ始めた。
俺も隣で物件探しを始める。
「そうだ!朝陽君!チョー大事な話があるの!」
「なんだ?」
「氷野って呼ぶの禁止!穂乃果って呼んで!」
「わかった、穂乃果。これでいいか?」
ぷくー!と怒っているように見える氷野、改め穂乃果。
「もぉ!ちょっとは動揺してくれてもいいじゃん!」
「彼女を名前呼びするのは普通だろ?」
「そういうことじゃない!!!」
何やら不満を募らせているようだ。
しかし、俺は間違ってないと確信している。
いまいち女心がわからない、日向朝陽であった。
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正直に言いましょう!
巨乳はあんまり好きじゃない。
程よいくらいが現実感と妄想を掻き立ててくれますね。
かといって貧乳がいいかといわれるとやっぱり違う気もします……。
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