「黙ってマッチングアプリでもしとけ」

結局交際についてよくわかんないまま5時半になった。

規律よく寝息を立てている氷野を起こさぬよう忍び足で家を出た。


カギは申し訳ないが、玄関に置いてあったものを拝借し、戸締りしてからポストに投函しといた。

LIMEで一言入れて、徒歩10分ほどのコンビニへ向かう。


会社の先輩である矢野さんに電話をする。


『どうしたんだ~、ふぁぁ……』


「朝早くすいません、現場の近くのコンビニに迎え来てもらえないっすか?」


『んあ~?あ~、朝帰りか?』


同窓会前は普通に仕事していたため、矢野さんには一言言っていた。

最悪寝坊するかもしれないから、起こしてほしいとも。


まぁ、今の時間に寝起き声なため、おそらく忘れていただろう…。


「そっすね、訳は後で説明するんで無理っすか?」


『朝飯おごれよ~』


「うっす、なんか買っとくっす」


電話を切り、コンビニの中へ。

ATMでお金を下ろし、パンやらおにぎり、コーヒー等を適当に選別し、会計を済ませる。

9月半ばということと、曇り空ということも相まってジメッとした空気が肌に纏まり付いてくる。


10分もすれば黒い作業車がコンビニへ入ってきた。


「おはよーさん」


「おはようございます、迎えあざっす」


「ちけぇから問題ねぇよ、とりあえず、乗りな」


現場まで5分も掛からず到着する。

その間は、今日の段取りを話し合う。

仕事モードに入った俺らは無駄なことを考えるのをやめ、仕事に専念した。



◆◇◆◇◆◇◆



「んで、朝帰りなんて珍しいな」


お昼になり、休憩の時間。

飯をつつきながら、矢野さんとその他作業員がまとまって話を聞いてきた。


「何と言いますか、簡潔に言うと、彼女できたっす」


ぶふっ!と何人かが食っている飯を噴き出した。

汚いし、勿体ないから戻せ。


「は、はぁ?あの日向ひなたに彼女だぁ?」


「そっすね、俺もあんまり実感してねぇっすわ」


「んじゃあれか?彼女ん家から直でこっちきたんか?ヤることヤッてきた後ってか?」


「んや、さすがにそこまでは。誘われたっすけど、酔ってる女は抱かねぇっすよ」


矢野さんら会社の同僚どもに誘われてキャバやらガールズバーやらに飲みに連れてかされたが、結局誰とも関係をもったことはない。

そもそもあんまり興味なかったという部分が強く、一生DTでいいと思っているくらいだ。


「あの日向に彼女ねぇ…。かわいいのか?」


「めっちゃ」


自慢気に言うと、一緒に飯を食っていた同期が話に交じってきた。


「おい、写真ないのか?!」


「ねぇよ」


「はぁ?美人だったら盗撮くらいしてんだろ?」


「おめぇと違うわ」


「けっ!これだからモテる男は嫌いなんだよぉ!」


車オタクでアニメオタクな同期君はちゃんと女に興味はあるらしい。

まぁ、キャバでセクハラまがいの質問ばっかりしてたからな。

だが、身長がちょっと低いせいでモテるどころか、女子と話したことないらしい。

工業高を卒業したやつは大体そうらしい。

同期君情報だから信用できねぇが。


「まぁ今度写真見してくれよ?俺も興味あるわ、日向の彼女はな」


「まぁ今度出かけ誘う予定だったんで、そん時写真撮ってくるっす」


「そんときは俺にも見せてくれよ!」


「はいはい…、黙ってマッチングアプリでもしとけ」


「ぜってぇ朝陽より美人で胸のでかい彼女みつけるわ!」


無駄に気合入っている同期に呆れて、コンビニで買った弁当の残りを食う。

床に置いているスマホに通知が入ってきた。

ソシャゲのスタミナ回復かと思ったが、それとは別にLIMEが数件届いていた。


『寝ちゃった、ごめん(´・ω・`)』

『戸締りありがと、ポストに鍵入ってた!』

『確認したよ!のスタンプ(某国民的キャラ)』

『お仕事終わったら連絡ちょーだい?頑張ってね!』

『ファイト!のスタンプ(ブサ猫のキャラクター)』


氷野のLIMEだった。

結構スタンプを使うタイプらしい。

『了解』と簡潔に返事をして、スマホをポケットへしまう。


「彼女だったっす」


「だろうな、幸せだろ?」


「そっすね、思ったより嬉しいかな」


「でも、結婚は考えろよ?墓場だ……」


矢野さんは去年結婚した。

そして今、1歳の長男と産まれて間もない長女、愛すべき妻がいる。

幸せの絶頂だというのに暗い顔をしていた。


「つか、日向どーすんだ、社寮」


「あー、今年までに出ないといけないんすよね~、どっか安いアパートないっすかね?」


うちの会社は無料で寮の部屋を貸してもらえるが、あくまで2年だけだ。

それまでにアパート等を借りないといけない。

そういう契約でもある。

いわゆる、貯金期間。


「どうせなら彼女さんにでも相談してみたら?」


「さすがにいきなり同棲を提案するみたいで嫌っすよ」


「それもそうだな。じゃあ俺も嫁さんに聞いてみるわ。日向のことなら探してくれっぺ」


「お手間かけます。今度、遊びにいったときお詫びの品もってくっす」


「嫁もガキも喜ぶから遠慮なく遊び来いよ?」


「うっす」


「よし、じゃあ休憩も終わるし、もうひと踏ん張りだな」


矢野やの隆司たかし、33歳。

強面だが、根は優しく、人望が厚い。

今日もツーマンセルで効率よく仕事を進めていく……。





~~~~~~~~




ここまでお読みいただきありがとうございます!

ちょっと登場人物の容姿など記載してなかったので、各話の終わりに追加しときます。(9/20現在)

気になる方は戻って確認してみてください!


結構矢野さんは好きなキャラっす。

ちなみに矢野さんの妻は2児持ちの24歳っす。

作中では親友より出てくるかも?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る