4ページ目 出発進行
To ショーゴ;
Sub Re:Re:聞いて聞いてー
----
もう風太から聞いたの?
別にいいけどお、ショーゴも応援してね!
鈴木くん超ステキだから!
-- END --
教室へ戻ってきた雪奈はパチンと音を立てて両手を合わせた。何か錬成でもするつもりか、と風太は一瞬だけ思ったが言いはしなかった。
「ちょこ、ごめんね! お待たせー!」
謝られたちよは「ううん。大丈夫だよ」と笑って、持っていたシャープペンシルを可愛い筆箱の中へしまう。
「鈴木くんのプリントがどうとかって言ってたけど……どういう意味だったの?」
雪奈はそこそこの――というかめちゃくちゃな――雑さで、草薙からの頼まれごとを説明したようだ。近くの机に座ったままの風太が呆れた息をつく。
どうやら一緒に広重の家へいくメンバーとして、急遽ちよを誘ったらしく、雪奈は茶色の封筒を脇に抱えたままようやく本日の目的を説明し始めた。
「――ええと、鈴木くんのお家までいってプリントを届けてくるの?」
一年のときからずっと雪奈と仲良く一緒にいるちよは理解力もばっちりである。
「行ってらっしゃい……?」
ちよが小首を傾げながら雪奈の後押しをするように言うが、雪奈はぶんぶんとかぶりを振った。遠心力で耳下で結んだ髪が激しく動き、顔に当たっている。
「おねがあい! ちょこも一緒に来てえ! 部活も用事もないんだよねえ!? ついてきてくれるだけでいいから! 恥ずかしくて挫けそうなのー!」
がしっと雪奈に両手をホールドされ、ちよは苦笑のまま「いいけど……」と頷いた。
「ゆっきー、自分から草薙先生にプリントを持っていくって言ったんだよね……?」
「あれは、その……その場の勢いっていうかあ……。だんだん緊張してきて、無理になってきちゃった……!」
雪奈が茶封筒を両手で持ち、それで口元を隠した。頬はどんどんと桜色に染まっていく。
「どうしよう! だってさ、だってさ、鈴木くんの家に行くんだよ!? ナギーもどうして止めてくれないの!」
「ゆっきーが行くって言うからじゃない……?」
プリントお届け係に立候補した張本人である雪奈が、「ちょこが居てくれたら頑張れるからあ」とぴょこぴょことその場で飛び跳ねている。
ちよはスクールバッグに荷物を片付けながら、風太の方を見た。
「風太くんも一緒に行くんでしょ」
「うーん。風太は来ないかも」
「え? オレも行くけど」
「え? そうなの?」
問答無用で職員室へ同行され、巻き込まれたのはなんだったのか。風太の瞼が半分ほど下りてじとっとした目つきになる。
「オレと雪奈で行くってナギーに言ったのお前じゃん!」
「言ったけど、風太は来ないと思ってた!」
「あそこまで巻き込んでおいてそんなこと言う!?」
ガタンと音をたてて机から立ち上がった風太に、雪奈は封筒を胸へおろしてからぺろりと舌先を出した。
「だってえ、こういうの、めんどくさーいって嫌がるじゃん」
「めんどくせーとは思ってるけどお!」
風太はべーっと舌を出し返し、すぐに引っ込めた。むっとした顔で腰に手を当てて仁王立ちになる。
「わざわざ同好会作ってオレも巻き込んだ意味ってなんだよ!」
「あっ、本当に作ったんだ……。なんだっけ、片思い同好会?」
間に入る形だが、ちよが思わず反応してしまった。雪奈がぱあっと花を咲かせてそちらに食いついた。風太へのばつの悪さから逃げるように、ちよと向かい合う。先程までは届け物に恥ずかしいだの心細いだのともじもじとしていた彼女はどこへやら。春らしい笑顔になっている。
風太は振り回され慣れた様子で――それでも腑に落ちない顔で、腕をすとんと落とす。仁王はもう疲れた。
「そうなんだよー! 昨日から活動し始めたの! ポスターも貼ったんだけどお、そうだった、昼休みにちょこと見に行こうと思ってたのに忘れてた! 見てない?」
「気付かなかったかも。どこに貼ったの? 玄関のところ?」
「そうそう、あそこの掲示板とー、あとは階段の掲示板!」
片思い同好会の話題になって元気が出てきたのか、雪奈ははしゃいだ様子で自身のスクールバッグをがばっと開いた。ひよこの顔が印刷されたクリアファイルに封筒を挟んで、スクールバッグの中へ。
「じゃあポスター見てから行こ! ほらほら、ちょこも風太も、行くよー!!」
ちょっぴり派手なカラーリングのポスターは雪奈のお手製だ。本人曰くは自信作だそうで、親友であるちよに見せて自慢したいようだ。広重のことから少し気持ちが横にそれたおかげか、彼女は軽やかな足取りだ。
「ちょこも入りたくなったらいつでも言ってね!」
まだ残っているクラスメイトの横を「ばいばーい、また明日ー」と通り抜け、教室を飛び出し、すぐにひょこっと扉の縁から顔を出す。「早く早くー」と笑みを満開にしてふたりを手招いていた。
完全に雪奈のテンションに置いてけぼりをくらった風太とちよはのんびりとついていく。
「……本当に作っちゃうからゆっきーはすごいよね」
「菅原も入ればあ? 雪奈にすっげえ振り回されて超疲れるけど」
「オススメって顔じゃないなあ、それ……」
「あはは。現在進行系で後悔してるう」
風太はそんなふうに言いながらも、からりと笑った顔にはそんな陰りは全くなかった。彼は頭の後ろで手を組み、目を細めてにいと笑う。
「ま、もう慣れっこだけどお」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます