02話
「――ということがあったんですけど、先輩ならこういうときにどうします?」
「えっと、僕で例えるなら女の子が急に誘ってきたということだよね? それなら警戒しちゃうかな」
そんなことにはならないが間違いなくそうだと言える。
相手が女の子なら誰が相手でも喜べるというわけではない、なにが狙いなのかと不安になるときもある。
そこまで下心MAXで生きているというわけではなかった、ものすごい陽キャとか聖人とかでもなければそうではないだろうか。
「え、意外ですね、女の子が誘ってきたらすぐに参加をするのかと……」
「船木さんや山下さん限定ではね、他の子なら駄目だよ」
「じゃあ断ります」
「え、そういうのはちゃんと考えて自分で決めないと駄目だよ、〇〇がそう言っていたからなんて判断をしたら相手の子が可哀想だ」
やたらと絡まれないようにするためにも大切なことだった、だってその子が求めているのは彼女が考えて出した答えだからだ。
ちゃんとしたうえで絡まれているということなら言ってほしいが、いまはまだ彼女が頑張らなければならないところだ。
「でも、先輩の言い方的に断るってことですよね?」
「僕はちゃんと考えたうえでのことだからね」
「む、それだと私は考えていないみたいじゃないですか」
そうは言っていないものの、そういう風に聞こえたのか不機嫌になってしまった。
女の子というのは難しい、かといって別に男の子の友達がいるというわけではないから嫌われないようにしなければならないのは確定している。
相手が長年一緒にいる彼女であれば尚更なことだ、とはいえ、謝罪をするのもなんか違う気がして考えることになった。
「もう、また廊下で話しているんだから」
「山下先輩、先輩が意地悪なことを言ってきます」
「教えて?」
こういうときにどちらが味方になってもらいやすいかと言ったら当然、女の子の方となる。
ふざけることも多いからそもそも期待はしていなかったのだが、意外にも「池羽君の言う通りかな」と変なことが起きた。
「船木さんが考えていないなんて言うつもりはないけどね」
「考えたうえで先輩の意見を参考にして断ろうと思ったんですけどね」
「なるほど、それならいいね」
「なのに先輩は決めつけてくるだけでした、酷いです」
結局、嫌われたくなくて形だけの謝罪をした、が、見破られているのか「許しません」と言われてどうしようもなくなった。
こういうときに相手に求めるのは離れてほしいということだろうから距離を作る、やはり席に張り付いているのが一番いいのかもしれない。
「逃げるなんて最低です」
「一緒にいたくないと思ったんだよ、山下さんもいてくれたからね」
「普段は優しくてもそういうところで大減点です、だからモテないんですよ」
「おっと、今日は厳しいね?」
その優しいらしい普段の僕でも大してポイントを稼げていなさそうだ、で、そこに大きなマイナス点が加わるからどうしようもなくなる。
いや、僕の場合は気に入られたくて動いているわけだから最初からプラスにならないのかもしれない、だから嫌われずに済んでいるだけでも感謝をするべきなのかもしれなかった。
「当たり前です、酷いことをされた後ににこにこと笑みを浮かべて接することなんてできないですよ」
「それでいいよ、みんなに優しくする必要はないんだ」
疲れてしまっているのであれば気に入っている相手にだけそうすればいい、それすらも無理だということなら休めばいい。
一回のそれでとやかく言ってくる人間ばかりではないだろう、寧ろ彼女のことを気に入っている存在であれば演じていない素というやつを見たくなるはずだ。
「先輩みたいに、ですか?」
「え? あー、まあ……そうかもね」
「先輩と同じようにはなりたくないです、だって下手くそですもん」
「はは、それなら反面教師としてここに存在しておくよ」
というわけででろーんと伸びておいた、悪いところを沢山見せて役に立たなければならないからだ。
その途中、亮介さんに会わせることで変えようかなんて考えになったが、違う気がしてすぐに捨てた。
毎日来るというわけではないし、結構遅めの時間にならないと来てくれないから無理だというのもある。
「もう、ちゃんとしてくださいよ」
「こうならないようにね」
痛くなってきてその変な体勢をやめるとこちらを見下ろしてきている彼女の顔が見えたものの、別に怒っているようには見えなかった。
「出かけてきます、一回ぐらい遊びに行ったって特になんににもならないでしょうからね」
「そっか、その子も嬉しいだろうね」
「先輩は罰として私がいなくて寂しい時間を過ごしてください」
はは、よく言えるなそんなことを。
ちなみにこういうことはこれまでもあったし、やはり差を作ってしまっていて特になにも感じなかったからその点はやはり寂しいことなのかもしれなかった。
「これをこうして……っと、よし、できた」
「小物入れとかを自分で作るんだ」
「可愛いのはたくさん売っているけどちょっと高いからね」
木を撫でながら「これぐらいならそうしないから助かっているよ」と中々にワイルドだった。
「池羽君」
「うん?」
「船木さんとちゃんと仲良くね、喧嘩なんてしちゃ駄目だよ?」
使用した道具を片付けつつそんなことを言われたものの、なんだかなぁ。
「うーん、でも、来てくれるのはありがたいけどもったいない感じがするんだ、だから今日みたいに行動をしてくれると助かるときもあるんだよ」
「仲良くしなきゃ駄目、そうしないと許さない」
「山下さんにそう言われても変える気はないよ、もちろん、来てくれるということなら相手をさせてもらうけどね」
今日のお出かけで相手の子のことを気に入ってくれるのが一番だった、で、関係が変わってからでもいいから教えてほしかった。
彼女に対してもそうだが少し遠くから見ているぐらいでいい、その際も気持ちが悪いストーカーみたいにならないように普段は全く興味を抱かないようにするべきだ。
これは決して期待をしてしまうからとかではなく――って、実際に時間が経過してくれないと分かってもらえないことかと終わらせる。
「お菓子っ、お菓子をあげるから、ね?」
「はは、そこまで子どもじゃないよ」
「い、言うことを聞かないと家から追い出しちゃうよ?」
「いいよ、邪魔にしかならないから帰るよ」
「わーっ、待った待ったっ」
部屋の扉のところに座られて「座って」と言ってきたため座る。
「分かった、今日ちょっと冷たいのは船木さんが男の子とお出かけをしているからでしょ?」
「それとは関係ないけどよく知っているね?」
「昇降口のところで見ちゃったんだ、これはやばい、池羽君が傷つくよと思って走っていたら君の背中が見えたから誘わせてもらったというわけ」
「そこからどうして誘うとなるのか分からないけど、自由だからいいんだよ」
何度も言っているように一緒にいると分かりやすく差を作ってしまっていることが分かってその点でも嫌だった、一緒にいられて嬉しい気持ちと同じぐらいにはそう感じてしまうから駄目なのだ。
「山下さんってもしかして僕が船木さんのことを好きだとか変な勘違いを――」
「え、好きじゃないのっ? 朝から放課後まで一緒に過ごしているのにっ?」
「それならきみのグループの子達だって一緒でしょ? 一緒に過ごしているからって好きということになってしまうならやばいことになっちゃうよ」
ここでじゃあいつも一緒にいるあの男の子が好きなんでしょなんて言ったら同じような反応になると思う――待て、逆にそう言ってもらえた方がいい気がする。
だって所詮はこんな結果だからだ、もうここではっきりとしてもらった方が早い。
「山下さんと一緒にいるあの男の子が好きなんだね?」
「えっ、な、なんでいきなり……」
「いまの言い方だとそうなっちゃうということだよ」
さあ終わらせてくれ、そうすればもっと自然に一緒にいられる。
来るのかどうかなんて分からないが、少なくともいまよりはましになる。
いちいち心臓が慌てなくて済むから冬を迎えるまでになんとかしておけるのはいいのではないだろうか。
「ふふ、もしここでうんと言ったらどうする?」
あら、まさかこんなことを言われるとは思っていなかったから固まった、でも、固まっている場合ではないからうんと言われたら応援するよと答える。
「それなら応援はできないね、残念っ」
「なんだ……」
「好きでいてほしかったの?」
「うん、友達として応援したかった、できることは少ないけど協力したかったんだ」
「それはまた今度本命の子が現れたらお願いっ、期待しているからね」
で、何故か自然と解散の流れになってしまったから一人家まで歩くことになった。
これもう全く期待されていないだろと内で涙を流し、ご飯を作る気にもなれなくて寝転んでいたら亮介さんがやって来たが……。
「なんだ不貞腐れているのか?」
「そういうのじゃないよ、今日はちょっと疲れたんだ」
今度見せつけてやろう、そうすれば協力できるようになる。
まあ、連絡先を交換されてしまったら必要なくなってしまうからそれまでの限定ではあるが、なにもできないよりはいい。
「部活もやっていないくせになにが疲れただよ、まあいい、それなら俺が飯を作ってやるよ」
「え、どうしたの……? あ、もしかして女性に振られてしまったとか?」
「好きなやつなんていない、学生時代を最後に恋なんかしていないぞ」
おいおい、こっちはなにもったいないことをしているのかっ。
「なーにをしているんだ君はっ」
「はは、女に恋をしているから俺が変に見えるんだろ」
「そうだよ、イケメンがもったいないことをするな」
「イケメンなんて言われたことないぞ」
彼は笑いながら「格好いいとは言われたことがあるがな」と屁理屈を言った。
なんかむかついたから家から追い出しておいた、が、うるさいからすぐに戻すことになった。
「反省できましたか?」
「それより昨日は楽しめたの?」
「質問に質問で返さないでください」
「いいから答えてよ、言いたくないということなら別にいいけどさ」
反省なんて全くしていないからそのまま答えたら間違いなく面倒くさいことになってしまう、だから他の話に変えることでなんとかしたかった。
「普通に楽しかったですよ、長く一緒にいる先輩と過ごしているときぐらいには楽しかったです」
「おお、じゃあ相性がいいのかもしれないね。いやー、このタイミングで別れるときがきたかー」
ま、ここまで続いたことがおかしかったのかもしれないからこれでいい、これで僕の理想通りになる。
誰からも興味を持たれなくてもやることは変わらない、早く働いてお世話になった分を少しずつでもいいから返していきたい。
「それじゃあ頑張ってね」
「先輩」
「大丈夫、僕なら一人で問題ないからさ」
頑張れよぉ、彼女であればそれができる。
「池羽先輩っ」
「なに?」
基本的に名字で呼んでくることはないからそのレアさが嬉しかった、これからはそう呼ばれることもなくなるだろうから最後に聞けてよかったと言える。
「……なに勝手に勘違いをして離れようとしているんですか」
「いや離れようとなんてしていないよ?」
「そ、そうなんですか?」
「うん」
だって離れるのは彼女の方だろう、だからなにも嘘は言っていないことになる。
「そうだ、できなくなってしまう前に会ってもらいたい人がいるんだ」
「ん……?」
おっと、危ない危ない、流石にいまのは下手くそだ。
「あ、いや、船木さんに会いたいと言っている人がいてね、今日の放課後とか大丈夫だったりする?」
「別に大丈夫ですけど……え、誰ですか?」
「まあまあ、大丈夫なら付き合ってよ。問題ないよ、いい人だからさ」
よし、山下さんにはこんなことをしなくても勝手に変わっていくから彼女に対してだけでいい、ちなみにこのことは亮介さんに言ってあるからその点でも問題はない。
放課後になったら今日は珍しく自分の方から教室に行って荷物をまとめた瞬間に腕を掴んで飛び出した。
まあ、急いだところで来るのは十八時過ぎだから意味はないのだが、逃げられたら困るから仕方がないことだと言える。
「ちょっ、逃げませんからもう少し落ち着いてくださいっ」
「ごめんっ、家に着いてからでもいいかな?」
「い、家に連れて行ってなにをするつもりなんですかっ?」
「だから会ってもらいたい人がいるんだよ、別に僕が船木さんに対してどうこうとはなにも――おわっ!?」
一体全体どんな力だ、こっちが引っ張っていたというのに……。
とりあえず前に進めなくなったから彼女の方に意識を向けると「納得がいかないです」と勝手に答えてくれた。
「結局、会いたいなんて言っている人はいないんですよね、先輩が私といたいけど素直になれなくて隠しているだけですよね?」
「違うよ?」
やはり彼女はすごい、そう思っていても中々口にできることではない。
他者から見たら自意識過剰とか自信過剰などと言われる可能性もあるというのに、どうすればこうなれるのだろうか。
「ぐはっ、あ、あのですね、真っ直ぐに否定をされる気持ち、分かります……?」
「分かるよ、だって僕は君や山下さんから何回も否定されたことがあるから」
「うわあ!? か、過去の私はなんてことをっ」
何故かいつも通りの彼女に戻ってしまった、手を思い切り引っ張れたことである程度はすっきりできたということなのかもしれない。
「よう、約束通り来たぞ」
「ありがとう、それでこの子なんだけど」
「ああ、本当に連れてきたんだな」
そりゃそういう約束をしているのだから守る、もちろん無理だと言われたら諦めていたがそうではないのであれば当たり前のことだ。
だが、想像と違ったのは「イケメンっ」とすぐに食いついてくれなかったことだった、そのためいきなり躓きそうになってしまう。
「で、船木さんどう?」
「どう……と言われましても、え、高校生……ではないですよね?」
「ああ、友の父さんの後輩だ」
「それにしたってどうして先輩と……」
「最初は頼まれたからなんだが、途中からは俺が気に入って近づいているんだ。あとこいつ、無理をするから見ておかないと駄目なんだよ」
無理をするなんてそんなことは全くない、それどころか家ではだらだらとしすぎていて結構やばい、あと、無理やり出すとしたら無理をするのではなく寂しがり屋というところだ。
「先輩、この人の名前を教えてください、あ、漢字もちゃんとお願いします」
「亮介さんだよ、漢字はこう」
よーしよし、興味を抱いてくれた、最初はこんな感じでいい。
きっと段々と距離が近くなって協力してほしいと頼んでくるはずだ、仮に協力をしてほしいと頼まれることがなくても僕は喜べる。
「亮介さん、先輩は酷いんですよ」
「酷い? 消極的じゃなくてか?」
「それもありますっ、でも、露骨に差を作っていて酷いんですよっ」
ぐはっ、まさか分かられていたとは、いやでも彼女を優先することだって多かったのにどうなっているのか。
「とりあえず中に入るか、初めてというわけじゃないんだろ?」
「はい、上がってまだまだ言いたいことがあるので言わせてもらいます」
「おう、飯は俺が作ってやるから二人でいつまでも話し合えばいい」
そ、それでは意味がないっ、働いた後に来てもらっているのに申し訳ないから二人でゆっくり会話をしてもらいたいところだった。
ほら、所詮はイケメンでも冷めていても男の子だから若くて元気で可愛い女の子と話していれば違うと思うのだ、いや、そうであってくれないと困るというやつだ。
だからありがたいが呑気にご飯を作ろうとした彼をぶっ飛ばしてやらせないようにする、狭い家だからそうすれば自然と物理的な距離は近づくというやつで。
「できたよっ」
「なにをそんなに興奮しているんだよ」
「食べてっ、食べたらもっといっぱい話し合ってっ」
「別に言いたいこととか特にないがな、ま、嬢ちゃんはまだまだ話し足りないみたいだから付き合うつもりではいるが」
途中からこちらのことなんて忘れて彼個人の話になっていたから作戦としては成功している、冷静にならないと自ら壊すことになってしまうから彼の言う通りにしなければならない。
でも、やはり女の子は格好いいということと年上ということに弱いみたいだ、となると、やはり僕の選択は間違っていなかったことになるからその点でもいい。
ま、楽しそうにやってくれていれば細かいことはどうでもよかった。
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