7.疑心暗鬼

ー数分後ー


「ここまで逃げたら、いけるだろ、」


俺はとりあえず、分からないように曲がり角があれば学校から離れていく方に曲がるようにしていた。

「それにしてもここは、どれだけ山の中なんだ・・・」


周りを見渡す限り、木々は青々と茂っており、この村は都会からかなり離れていることが分かった。民家、畑以外何もない。家がある割には人が住んでいる気配がしなかった。

(さすがに民家に逃げ込むのは気が引けるな、ここは森の中に逃げ込んだ方がよさそうだ。)

そう考えると、俺は深い森の中へと走った。



 あいつが逃げている中、私のゲームに賛同した、皆はまるでみんな別人になったかのように、張り詰めた空気の中で開始の合図を待っていた。

(皆、お金が絡んでくると、あっさりと乗るものね。まぁ皆いくら頑張っても、これは偽札だから1円も入らないんだけどね。)

そういうと、お札をペラペラとめくり、クスクスと笑っていた。

「さぁて、果たして神崎君は一週間逃げ切ることができるかな?お手並み拝見ってとこね。」



 塩尻が楽しんでいる中、俺は森の中でもかなり奥のほうへと、地図を頼りに、逃げていた。


戻るのは困難になるかもしれないけど、今は捕まらないことが最優先だからな。

「疲れたし、休憩ついでに誰か来てないか確認もしておくか。」

ここからなら、村も一望できるし丁度いい。

とりあえず水を飲みながら、周りを見てみることにした。

「よし、まだ追手は来てないみたいだな。」


俺は少し休憩をし終えた後、そろそろ移動をしようと立った瞬間だった。

後ろの草むらからがさがさと音がした。

その音を聞いた瞬間、俺は反射的に走っていた。

なぜなら、追手だった時、俺の負けが確定になるからだ。

捕まった時点でアウトになるからな。

そうして、わき腹が痛くなるほど走ってから撒けたかどうかを確認しようと後ろを見た。

(さすがにもう追ってきてないだろ、)


そう思いながら見ていると、微かだが、遠くの方に追加で一人が増えて、追ってきてるのが見えた。

「まだ、追ってくるどころか、ついでに仲間増やしやがって!」

俺は痛くて屈んでしまいそうなほど痛いわき腹を堪えながら、必死に走った。


数十メートル移動したころだろうか、見るからに長そうな石段が目の前に出てきた。

「これは…無駄な体力は消費したくないんだよな、でも、後ろからはまだ来てるし、しょうがない、これは上るしかなさそうだな。」

そういうと俺は急ぎ目で階段を上った。

何段あるのだろうか、100?200?いや、もっとあるような気がする。

俺は夢中で上っていた。後ろを確認するのを忘れるほどに。


もう100段ほどだろうか、上っていたら、やっと終点が見えた。

「はぁ、これだけ上れば、もう追ってこれないだろ、」

俺は後ろを見た。

すると、言った通りにもう誰も追ってきてはいなかった。

「それにしてもここは、何の神社だ?」

地図を開いて確認してみたが、石段から先が何も記されてない。

地図にはない神社でかなり不気味ではあったが、一旦周りに何か情報がないか、探してみた。


かなり神社自体が古びていて、いまにも崩れそうだったが、正面の上に書いてある字がうっすらと見えた。

「大綱神社?ここの町の神社か、」

地図に載っていないものだから、別の町に来たかと思った。

生い茂る木々が余計に不気味さを増している気がする。

外壁の漆喰は剥がれ落ち、元の木の色が疎らに見えてしまっていた。

「いつ建造されたものなんだ・・・」

そんな外装だが、中は意外にもきれいなものだった。

「ん?中に何かが、あれは人か?」

人影らしきものが見えた。何かの見間違いかと思って、俺は目をこすって、再確認した。

「やっぱりあれは人だ!」


俺は音を立てないようゆっくりと扉を開けた。

「、、、?」

見覚えがあるやつが目の前に見えた。

「だ、だれなの、まさか、神崎君?」

「仲部?おまえ、仲部なのか!?」

中で正座していたのは、仲部だった。

「何でお前が中にいるんだ?」

「いや、何でって聞かれても、私にも分からないんですよ。じゃあ、私も言いますけど、なんで貴方がここに居るんですか?」

「い、いや、今は塩尻にゲームを強制されてるんだ。」


顔をしかめながら、仲部は

「ふむ、あの子なにか怪しいかもしれないわね。なんで授業中に先生もいる中でゲームができるの?」

「え?それは塩尻が先生を追い出して、ゲームを始めたんだけど、」

「なんであの人にそんな権力があると?私の方がありますよ、クラス委員長ですし。」

「まぁ、確かにあるな。」

「でしょう?怪しいとは思いませんか?それに一つこの村には掟があります。」


仲部は顔色を変えこう言った

「課せられたルールを破れば殺されます。」

俺は生唾を飲み込んだ。

「殺される?」

「そうですよ。でも、ただ殺されるわけではない、この村ではルール違反した人なら、殺しても許される、警察からもね。」


俺は冷や汗が止まらなかった。

「なんでそんな、犯罪じゃないか、」

仲部は俺を見ながら、冷静に答えた。

「ここの村人は全員、神の存在を信じているんです。」

「それは、ほかの国でも信仰してる国はあるだろ。」

「この村では君の思っている信仰とは違うのよ。」

<この村で課せられた縛りは必ず守らなけばいけない。>

「これだけは本当に注意してくださいね。」

「分かったよ…」


後ろから、石を靴で擦りながら上がってくるような音が聞こえた。

「いやぁ、そんなにペラペラ話されちゃ、困っちゃうんだよね。」

「っ、やっぱり塩尻さん、あなた来てたのね。」

仲部の対応的には分かっているような感じだった。

「そりゃあ、気になるもの。自分から行った方が確実でしょ?」


俺には、一つ気になる点があった。仲部が言っていた(縛りは守らなければいけない。)これが気になった。

「お前、自分であの教室から出ないって言ってたよな。何で、出てるんだ?」

ニコッと笑いながら答えた。

「言ったじゃない、気になるから来ただけ!でも今、神崎君はこう思ったよね、<なんで私が死なないか。>」


俺は思わず、言葉が詰まってしまった。

あの教室で見たのと同じような笑顔を見せながら、塩尻は続けた。

「まぁまぁ、もしそう思ってたとしても、教えないんだけどね!」


ーこいつの事だから、知っていたが、俺が呆れた顔で

「おっとぉ、そろそろ追いかけてきていた人が来る頃合いじゃないかなぁ?」

「もうそんな、早くないか?」

「私がここに来ちゃったから、それを追ってきたのかなぁ?」


塩尻が煽り口調で話しかけてくる中、仲部が俺の耳元で囁いた。

「神崎さん、裏手にもう一つ別の場所へと続く階段があります。その階段を下りたら右に曲がってください、そうすれば見つからずに逃げれると思います。」

「お、おう、」

「じゃあ、行ってください、神の加護を。」

何故か催促されているような気がするが、仲部の言っていた裏手の階段へと向かった。


「おやや、諒くん?どこかに行っちゃう感じ?」

「そうだよ、もう来てるかもしれないだろ。」

「むぅ、ならもう行って!バイバイ!」

塩尻は頬を膨らませながら、階段を下りて行った。

(あいつ、何を怒って…)

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