第31話 夢

「闘魂祭ってなんだ?」


 久しぶりに会話に混ざった俺が聞きたかったのは、聞き馴染みのない単語についてだった。


「財は知らないんだったね。闘魂祭っていうのは渡来和島にいる学生の中から最強の魂言術師を決める大会なんだ」

「毎年熱い戦いが見れるんだよね。幸田知らないの?」

「財君は最近島に来たばっかりだから……、だよね?」


 俺の不勉強を不思議そうに問うあんこ。そこをすかさず向日葵がフォローしてくれた。本当に彼女は気の利く女の子だ。


「ああ、初めて知った。俺らの学校の頂点を決めるってことか」

「いやいや、この島の頂点だよ」

「何が違うんだ?この島は渡来和学園しかないだろ?」

「うん。でも渡来和学園って5つあるから」

「は?」


 凛音が言うには、渡来和学園は俺たちが通う本校の他に、第2校舎から第5校舎までがあるらしい。もはや名前を変えろよ。


 現在の日本の出生数が年間50万人弱であり、そのうち0.1%が魂言術師として覚醒するため、年間で渡来和学園には約500人が入学する。それを5つの校舎に分散するため1学年は100人ほど。1クラスはおおよそ25人で4クラスに分かれている。


「で、代表って何人なんだ?」

「各校舎で10人」

「10人!?」

「各学年から3人と全体から1人って決まってるんだ」

「一応上位3%だから良心的か……?」

「関係ないよ。たとえ難しくても僕は絶対に諦めないからね」

「頑張ってね、凛音君……!」

「うん。ありがとう向日葵さん」

「ちゃん……」

「向日葵ちゃん」

「えへへ」


 もうすんごい可愛らしい。ずっと見ていたい。気を抜いたらニヤニヤしちゃいそうだからさっきから舌噛んでるけど今にも千切れてしまいそう。


「で、財は?」

「え?」


 いきなり話が振られたおかげで舌がくっついたままで済んだ。


「財の目標とか夢とかって何?」

「俺の目標か……」


 あんこのような将来像か、向日葵のような職業か、それとも凛音のような設定目標か。一体何を答えるべきか。


「俺の目標、って言うか将来の夢は家族で仲良く暮らすことかな」

「……」


 凛音は何も言わなかった。以前に親父を捜しているという話をしたのを覚えているのだろう。別にそれ自体は隠すほどのことでもないが、凛音は気にしているようだ。


「それって何年後くらい?」


 あんこが質問する。まさか食いついてくるとは。適当に答えておくか。


「10年以内、かな」

「ほほう」


 何だそのリアクションは。


「な、何人で暮らす想定なの……?」


 今度は向日葵だ。俺と親父と母さんと。あとは孤児院にいたアイツだ。昔、俺の家によく遊びに来ていたアイツもいると嬉しいな。


「3人。できれば4人だな」

「へ、へえ……」


 だからなんだそのリアクションは。


「家はどこら辺に建てるんだ……」


 凛音までどうした。なんか顔が赤いぞ。


「できるだけ静かなところがいいな。湖の近くとかで静かに暮らしたい」

「悪くないな……」

「意外とロマンチックだね幸田」

「ちょっと憧れる、かも……」


 この女子3人は何の話をしているんだ。

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