第32話 何者
「じゃあ、また明日な」
「バイバーイ」
「またね、あんこちゃん。向日葵ちゃん」
「うん。バイバイ凛音君。財君も」
「俺はおまけかよ……」
夕方になって俺たちは2組に分かれた。あんこは向日葵と、俺は凛音とそれぞれ用事があるという事だった。最終的には全員が同じ敷地にある寮に戻るのだがここでお別れだ。
挨拶を済ませた俺と凛音はしばらく並んで歩き、公園に辿り着いた。誰もいない公園は夕日に染まり、遊びの時間が終わりであることを告げている。俺はブランコに腰掛けて前後に揺れながら凛音に尋ねた。
「お前は何者なんだ」
昨日教室で初めて出会った時から今日のこの時まで、俺は凛音のことを何も知らない。そろそろ教えてくれてもいいだろう。
「なぜ男のフリをして学園にいる。なぜ通り魔に襲われる俺を見ていた。お前の目的は一体なんなんだ」
俺の質問に答える前に、凛音はブランコを囲む金属の柵に腰かけた。
「僕の家では昔の名残で長男が家を継ぐことになっていたんだ」
話し始めた凛音は俺の顔を見ず、足元だけを眺めて悲しそうな表情を浮かべていた。
「でも僕を生んだ時に母さんが亡くなって、後継ぎがいないと困るからって僕は男の子として育てられたんだ。そしたら6才になる頃には才能が開花した」
「【変形】か」
凛音は無言で頷く。
「それが何で俺の正体を探るのに関係してるんだよ」
俺の問いに凛音は顔をあげて答えた。
「君が信用できる人間か確認するためだよ、財」
「どういう意味だ……?」
「財が僕の任務の協力者足り得るかを調べてたんだ」
凛音が立ち上がり、ゆっくりと歩き始めたので俺もブランコを離れて歩き出す。凛音はそのまま滑り台の階段を上り、一番上から見下ろしながら話を続けた。
「僕は誰がルームメイトになるかを知っていた。でも、君の事はいくら調べても分からない。だって情報がないんだから。それもそうだ。君は本土での最後の検査で魂言術師と診断されたそうじゃないか」
そうだ。俺は能力が発現するとされる期限ギリギリになって魂言術師となった。だから渡来和島に来るのも日程ギリギリになったのだ。
「島内にいる人間ならば内定調査はできるが島外の人間はできない。だから僕は君が島に来てから調査を始めた。そしてあの路地で事件が起きた」
「通り魔、か」
入学初日の初登校時、偶然出会った通り魔に襲われて咄嗟に返り討ちにしたあの時、凛音はどこかから俺のことを見ていたのだ。
「君の能力と戦い方を見て只者じゃないと思ったよ。でもそれ以上に、わざと制服に傷をつけて被害者を装ったり、教室で能力を偽る姿に不信感を持った」
見られているとは思わなかったからこそ行った偽装工作が裏目に出ているとは……。なんて皮肉な。
「それで君の正体を確かめるために襲い掛かった。そしたら君は、自分には目的があるけど僕が信用できないから言えない、って言ったんだ」
「ああ。結局言っちまったけどな」
少しだけ笑顔を見せた凛音だが、その表情はまたすぐに冷静なものに戻った。
「だから今日は僕が話すよ。僕の任務について」
やっと、やっと凛音の本音が聞けるってわけか。でもその前に聞いておきたいことがある。
「俺をチンピラどもに差し出したのはなんでだ?」
凛音は滑り台の頂上から膝を抱えて滑り降り、見事着地して答えた。
「あれはただムカついたから」
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