第28話 三角関係

「僕ちょっとトイレに行ってくるよ」


 そう言い残して凛音が席を外した時だった。


「幸田に相談があるんだけど」


 顔をずいっと近づけたあんこが真剣な表情で、そして小さな声で話しかけてきた。それも向日葵にバレないよう注意を払ってだ。


 女の子にまっすぐ見つめられた俺は断ることなど到底できずに、促されるまま人気のないところへと移動した。


「あんた、凛音君とルームメイトだよね」

「はい」


 俺はビクビクしながら答える。


「ってことはある程度仲良いよね」

「ある程度は」


 なんか殺されかけた気はするけど。


「じゃあ凛音君と付き合えるように協力してよ」

「ああああぁぁぁ!!フラグ立てたせいで三角関係になっちゃったぁぁ!!!!」


 頭を抱えて絶望する俺。その頭部にあんこから軽くチョップが入った。


「あたしじゃなくて向日葵だよ!」

「あっ、じゃあオッケーです」

「切り替え早っ」


 俺は悲しい結末しか産まない三角関係にならないならば、なんだってオッケーだ。


「そうと決まれば善は急げだな。凛音にそれとなく向日葵のことをどう思ってるか聞いてくるぜ!」

「うん、よろしくー」


 あんこは修練場に戻り、俺はトイレへ向かった。ただ、何か忘れているような気がする……。トイレの前に立って少し考えるが思い出せない。


「あっ」

「おう」


 中に入ると、ちょうど個室から出てきた凛音に出くわした。なんだウンコか。そう思って用を足そうと股間に手をかけた時、思い出した。


 それは股間に走った殺人的な痛みと失っていた記憶。俺は直接確認せずにはいられなかった。


「凛音……、お前は女、だったよな……?」


 洗面台で動きの止まる凛音。


「忘れてたの……?」


 忘れてた。しかし、そうだと頷くことは憚られる。なぜなら俺は昨日、凛音にプロポーズをしてしまっているのだから。ん?待てよ……。


 向日葵は凛音のことが好きで、俺はそれを手伝うことになってて、それなのに俺は凛音に結婚を申し込んでいる……。


 これドロドロの三角関係じゃねえか!

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