第26話 勝敗

 校舎の窓ガラスが割れるような、あるいは空のグラスを床に落としたような音がした。制服に施された自己防衛システムが正常に作動したのだとその場にいた誰もが理解できた。白煙が霧散した戦場に残る影は、決着した瞬間の両者の姿をそのままの形で映している。


「やるじゃん幸田」

「そっちこそ」


 俺とあんこは短い言葉で互いを称え、そして俺は膝をついた。肩口から胸にかけて強い衝撃が体を襲う。俺はあんこの攻撃をまともに受けていたのだ。自己防衛システムはダメージを防ぐが衝撃を全て吸収できるわけではないらしい。


 コンマ数秒の接近戦。懐に潜り込んでの1度限りの選択で、俺はあんこを倒すのではなく、その手に握る日本刀を奪うという決断をした。俺の無数の攻撃を防ぐために抜刀していたリーチの長い武器に左手を伸ばし、触れた瞬間に右手のナイフと交換した。所有権を奪ったのだ。


 現状あんこの魂言術はわからないが、明らかに不自然な構えから察するに日本刀がキーであると推察。それを無効化するための作戦を実行した。結果としては武器の強奪とほぼ同時に俺はリタイアすることになった。一見するとチャンスをフイにした無駄死に。しかし、これはチーム戦だ。


「まさかこんなに近くにいるとは……」

「財が二人の気を引いてくれたからね」

「凛音君、すごい……」

「ありがとう、環さん」


 凛音は、あんこと向日葵の背中に突き立てたナイフを手の平の奥へと収納しながら笑顔で礼を言った。接近戦を挑んだのは俺だけではなかったのだ。


 俺が二人を引き付けている間、凛音は【変形ディフォーム】の魂言術を利用して周囲の建物や外壁、看板や電線に擬態しながら接近。暗殺を遂行するタイミングを見計らっていたのだ。


 そして俺があんこの武器を取り上げ、魂言術を封じると共に襲撃、難なく二人の背中からナイフを突き刺し、勝利を掴んだ。


 この勝負は俺たちの勝ちだった。


 

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