第23話 無理

「あ、あんこちゃん……、凛音君がカッコいいって……!」

「良かったじゃん向日葵。あんた凛音君のファンだもんね」

「う、うん……!」


 そう言いつつ恥ずかしそうに俯いたのは環向日葵たまきひまわりという少女。レーザーを放って攻撃してきたのは彼女である。深い緑の髪が彼女の視線を遮るように覆っており、その顔を全て見ることはできないが、小さな体とおどおどした態度から、小動物のような守ってあげたいタイプの女子である。


 そんな彼女が凛音のファンだというが、あれはファンとかそういうのじゃないだろ。絶対恋だ。まったくイケメンという人種は生きているだけで人を惑わす邪悪な存在だな。法律で罰するべきだ。


「いいぞー!やれー!殺せー!」

「幸田を血祭りにあげろー!」


 外野では過激派からのヤジが飛んでいる。殺意に満ち満ちている彼女たちもまた、凛音のファンといったところだろう。やはりイケメンは罪。


「これって死ぬんスか?」

「頭に当たれば死ぬよ。制服無いし」


 男子生徒からの質問にあっけらかんと答える担任の言葉に思わず反応する。


「先に言えよ!今まさに死ぬところだったわ!」

「あと同じタイミングで2回ダメージ食らうと死ぬね。防ぐの1回だから」

「この欠陥防衛システム!」


 どうやら技術の粋を詰め込んでも万能ではないらしい。


「あと野蛮な野次止めてもらっていいですかカイトちゃん」

「やる気があっていいだろ」

「やる気ってより殺る気やるきだよね!」


 俺は無事生きて帰れるだろうか……。


「どうする凛音」


 俺は物陰に隠れながら凛音と相談をする。レーザーを飛ばして来る相手にどのように対応するべきか、という内容だ。


「無理だね」


 凛音ははっきりと言い切った。


「僕の【変形ディフォーム】は近距離の暗殺向きだから近づけないと役に立たないよ」

「使えねえな」

「そういう君はどうなのさ。いい案ある?」

「俺は【交換エクスチェンジ】しか使いたくないから無理。近距離の暗殺なら得意」

「使えないね」


 解決策が無く物陰で二人で笑い合う。


「でもやるしかないよな」

「そうだね」

「ナイフ2本貸して」

「いいけど?」


 凛音は腕から2本ナイフを取り出し俺に渡した。


「何本持ってんだよ」

「ナイフはあと3本」

「ナイフは、ね」


 俺は試しにナイフを1本、向日葵へと投げる。奇襲に驚き仰け反る彼女。しかしそのナイフが向日葵に届くことはなかった。大きな金属音と共にナイフは弾かれ地面に叩き落されたのだ。


「あたしの向日葵に手を出そうなんて百年早い!」


 それは向日葵の相方、日本刀を帯刀する五十嵐あんこいがらしあんこの魂言術であった。

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