第12話 桃源郷
「やあ。君がルームメイトなんだね、
痩身中背、銀のマッシュショート。首にかけられたタオルの影には厚みはないが引き締まった胸筋が見え隠れしている。どこからどう見ても男だ。
「お前、さっきまで美少女だったはずじゃ……」
「モテなすぎて幻覚でも見た?」
凛音は表情を変えずに否定した。
幻覚?幻覚だって?確かにあの光景は桃源郷ではあった。たわわな果実をその身に宿した全裸の美少女が目の前にいたのだ。その姿は今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。
その幻想を確かめるように、俺はいつの間にやら手を伸ばしていた。ここに確かに大きな桃があったのだと思いながら、上裸の凛音の胸板に触れる。
ない。本当にないのだ。砂漠に浮かぶオアシスが蜃気楼であるが如く、脳裏の映像と異なる平坦な胸が俺に現実を突きつける。
「そんな……」
意気消沈。俺は一体何をしているのだろう。目の前の美少年の胸を触りながら妄想の美少女の巨乳、いや、虚乳に思いを馳せる15の春。こんなに虚しいことはない。
「いきなり触ったりしてゴメン」
「全くだ。僕が本当に女の子なら心臓が飛び出すところだよ」
呆れたようにそう言った凛音は、傍らに置いてあったデバイスを左手首に装着した。通信、記録、支払いなど、多様な用途を持つそれを学園は常時着用するよう推奨している。
そして、使用者の健康状態の管理もその1つだ。
「心拍異常、心拍異常」
「あ、ちょっ――」
室内に響き渡るけたたましい警告音とともに凛音のポーカーフェイスが崩れた。慌ててデバイスを止めようとするも使い方が分からず、焦りの果てに手首から外して床に叩きつける姿は、凛音の本性が透けて見えるようだった。
「なに興奮してんだよ」
「興奮!?してないしっ!!」
自分よりも焦っている者がいると人は冷静になるらしい。明らかに動揺している凛音を見て、俺の思考回路はいつも以上に機能した。
「凛音、ちょっと待て」
「絶対に嫌だね!」
俺の静止を無視し背を向けながら急いでシャツを着る凛音へ、俺は確信を持った言葉で襲いかかった。
「凛音。お前、女だろ」
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