第10話 治安

「遅かれ早かれ能力はバレるって、カイトちゃんの言う通りだな。こんなすぐとは思わなかったけど……」


 思わず自嘲気味の笑いが溢れる。


「スパイだって認めるのか?」

「いや、認めない」


 俺ははっきりと答えた。そう、俺はスパイなんかじゃない。


「でも教えない」

「何故」

「お前を信用できないから」

「……」


 凛音は黙った。当然だ。俺に秘密があるのと同様に凛音にも秘密があるのだ。そうでなければわざわざ俺の秘密を暴こうとはしないはずだ。


「俺が今言えるのは、能力を隠したのは個人的な理由だってこと、俺はスパイじゃないってこと、俺には特別な目的があるってことだ」


 疑われた以上はある程度情報を開示して信用してもらうしかない。だか、凛音の目的がわからない現状で全てを話すことはできない。


 つまりここまでが俺の妥協ライン。あとは凛音がこれを聞いてどう動くか。


「じゃあ……」


 顎に指をかけ考え込んでいた凛音が再び視線を上げて口を開いた。その表情は先程までの冷たいものではなくなっていた。


「ちょっとついて来てよ」


 凛音はそう言うとまたどこかへと歩き始めた。俺の言葉に納得してくれたのだろうか。それ以上質問はしてこない。


 数分で目的地には着いた。通りに面した建物の前だった。中からは耳障りな音楽と近所迷惑な重低音が漏れ聞こえてくる。


「会わせたい人がいるんだ」


 凛音はそう言って微笑んだ。なるほど完全に理解した。


 実は凛音は治安維持組織に所属していて、俺をスカウトするために調査とテストを実施。合格した俺を上司の元へと連れて来た。そういうことだな。


 まったく思わせぶりな態度を取るやつだ。最初から入ってくださいと頼めばいいものを。これだからイケメンはプライドが高くていけない。


「お邪魔しまーす」


 俺は防音仕様の重いドアを開けた。


 瞬間。ドン、と後ろから背中を蹴られて前方へとつんのめる。勢いよく入室した俺はそのまま誰かにぶつかり、グラスが割れ、怒号が飛ぶ。


「んだテメェこの野郎!」

「誰だこのクソガキィ!!」

「ナメてんのかぶっ殺すぞ!!!」


 中には厳ついお兄さんがいっぱーい。治安わるーい。超こわーい。


 俺は瞬時に180度転身し入り口まで後退。扉の外を確認するが、すでに凛音の姿はなかった。


「ハメられた……」


 背後には十数人の怒り狂うチンピラ。

 あのイケメン絶対に許さない。

 


 

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