第7話 話したい事

「失礼しやしたー」


 新しい制服を手に入れて担任の部屋をあとにする頃には廊下に喧騒はなく、代わりに見覚えのある人影がひとつあるだけだった。


「やあ、待ってたよ」

「お前は……」


 鳴瀬凛音なるせりおん。窓際の壁にもたれ腕を組む彼の姿はまるで1枚の絵画のように様になっていた。


 窓から指す光に照らされた銀色の髪は風に揺れる水面のようにキラキラと輝いていて、長身とまではいかないその華奢な体と細い指、そして中性的な整った顔立ちは男でも惚れてしまいそうなほど美しい。


 そんな美少年という言葉を体現した彼が一体何の用だろう。


「先生に用事か?」

「違うよ」


 担任に話があるのではという俺の予想は柔らかな微笑とともに簡単に否定されてしまった。


「君に用があったんだ、たから

「俺に?」

「君、この島に来たばっかりなんだろ?だったら帰りに島内を案内してあげようかなって」


 なんてイイやつなのだろう。初日からぼっち街道まっしぐらかと思いきや遅刻仲間の美少年が一緒に帰ってくれるなんて……。マジ天使。


「ありがとう。助かる」

「どういたしまして。君とは話したい事があったから僕としても助かるよ」

「どうせなら女の子に言われたいセリフだ」

「残念でした」


 イタズラっぽく笑う凛音に危うくときめきそうになるが俺にそういった趣味はない。俺はスリットから覗く足がセクシーなチャイナドレスのお姉さんの姿を妄想し、自身の性癖を再確認した。


「どうしてしゃがんでるの?」

「俺の名誉を守るためだ」

「はあ……?」


 今立ち上がれば色々とややこしいことになる。俺は心に平穏が訪れるまで、心を無にして廊下でしゃがみ続けた。




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