第6話 大切な1日

「って事でお前ら、明日から研鑽頑張れよ。解散」


 担任からの一通りの解説とありがた~い他人事のようなお言葉をもって高校初日は終了し、これから入寮ということで多くの生徒が駄弁るわけでもなく教室の外へと流れ出ていく。


 俺も早く自分の部屋を確認して本土から届いた荷物を整理しなくては、と席を立とうとした時、担任に名前を呼ばれた。


たから。代わりの制服渡すから職員室まで来いよ」

「了解っす」


 担任のモジャモジャ頭を後ろから眺めながら廊下を歩く。通り魔の件でボロボロになった制服が無料で交換できるなんてラッキーなどと最初は思っていたが、この間に俺以外のクラスメイトが仲良くなってたらどうしよう。ぼっちまっしぐらじゃん。


 そんな俺を見かねたのかモジャメガネが話しかけてきた。


「そんなに心配か?」

「まあ、一応。思春期なんで……」

「そう気にするなよ。3年のうちのたった1日だぞ」

「そう、ですね……。ありがとう先生」


 意外といいとこあるじゃん。


「きっと3年のうち1番大切な1日だけどな!!」

「どっちなんだよ!」


 いつの間にやら目的地に着いていたようで担任は足を止めた。どうやら職員には個別に部屋があるようだ。部屋の前には名前が書かれた板がかけられている。


「い、いんばん……ナニコレ?」

因幡果糸いなばかいと。そうか、遅刻してきたから俺の名前知らないのか。気軽に因幡大先生様って呼んでくれよ」

「わかったよカイトちゃん」

「お前なあ……」


 先生は呆れるような声を出したが、その後やめるようには言われなかった。そして俺たちは部屋に入って、どこに行ったか分からない予備の制服を探してあちこちをひっくり返した。


 ただでさえ汚い部屋だったからまったく罪悪感はなかった。

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