第3話 これまでの人とは違うのかもしれない

 時は過ぎ、放課後。


 少年は、またもや少女のクラスの前で待っていた。これからやろうとすることは昼とは違うが、目的は同じだった。付き合っているアピールである。


 暇つぶしに読んでいた本を読み終えると、目の前には小説のヒロインに負けず劣らずの美少女が立っていた。本を鞄に仕舞うのを確認すると、白い髪を振り乱しながら歩き出した。先程まで本を読んでいた男も彼女の歩幅に合わせながら歩きだす。


 「何読んでたの?」


 「彼女は約束を守らないっていう青春小説だよ」


 「戦争物?」


 「今、青春小説っていったよね!?」


 「舞台は?」


 「過疎化の進んだとある田舎の高校が舞台」


 「そこから異世界に飛ばされるの?」


 「確かにありがちだけども!普通の恋愛小説だよ」


 「面白い?」


 「ああ、面白かったよ」


 「読んでみたい」


 「じゃあ、貸すよ。もう読み終わったし、いつ返しても良いから」


 「分かった、ありがとう」


 そんな日常会話を繰り広げているうちに、周りの景色は校内から桜舞い散る外へと移る。


 「桜、散ってる」


 「そうだな」


 「もう同じ景色が見れないかと思うと、少し寂しい。」


 「そうだな。・・・・・・でも、だからこそ咲き誇る桜を綺麗だと思えるんだ。それに、確かに来年の桜は去年と同じ花弁を持ってはいないかもしれない。だけど、その違う部分を探すことが出来る。それは、桜を見る楽しみが一つ増えるということだ。だから、舞い散る桜というのも案外悪くないと思う。」


 「・・・・・・そうかも。違う景色にも魅力はあるんだと思う。でも、同じ景色を見続けるというのも案外悪くない」


 「そうか?」


 「そう」


 少しはにかんだ笑顔を見せながら、そう言った。


 「ねえ、行かないの?」


 いつに間にか周りに景色は木々から高層マンションへと姿を変えていた。そして、彼女が指差した先には桜があった。桜ホテルが。どう見てもラブホテルである。


 「行かなかねーよ!?」


 「何で?」


 「何でって・・・行く理由が無いだろ」


 言った瞬間、少し言い方を間違えたかと思う。今の言い方だと、彼女が魅力が無いからと捉えられてしまうかもしれない。


 「それにそういうのは、もう少し関係を深めてからやるものだしな」


 「どうして関係を深めてからなの?」


 「そういう行為というのは、行為そのものが目的じゃないんだと思う。行為を通じて、どれだけ相手に[好き]という気持ちを伝えられるか。それがきっと一番大事なことだ。せっかく好きって気持ちを伝えるなら、あるいは伝わられるなら、積もって積もって積もって積もって零れそうな溢れてくる。そういう想いの方が嬉しいだろ?」


 「・・・・・・」


 確かに、そうなのかもしれない。今までそういう行為というのは快楽を得るためだけの行為で、それ以下でも以上でもないと思っていた。だから、明らかに行為目的で告白してくる男を見ても、ああ、快楽が欲しいのだなという感想しか出なかった。しかし、もし行為に求めるものが快楽ではなく愛なのだとしたら。・・・・・・とても、とても素敵な考え方だ。そう思える人との行為も、きっと佳麗なものになるのかもしれないな。


 少し不思議そうな顔で隣に居る男の顔を見る。


 この人は少し変わってるな。今有に関する感想はこのくらいである。しかし、ではより深い所ではもしかしたらこの男は今まできた者達とは何か違うのかもしれないと感覚的に感じていた。

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