とある田舎にて
NEO
さあ、パーティしようかな
ここはバレス王国の田舎中の田舎。タイラントという町です。
私の名はこの国で『栄光』を意味するカボ、フルネームはカボ・グランデです
今は一ヶ月に一回の楽しみの支度をしていました。
「まだ椅子とテーブルが足りませんね。家から持ってきましょう」
私の家は街道沿いにあり、お楽しみの用意しているのは家の裏手にある草原でした。
「よいしょ……」
私は庭の倉庫から折りたたみ式のテーブルをせっせと運び、屋外用の椅子をありったけ持ち出し、何度も往復して並べた事には、もうヘロヘロになってしまいました。
「ダメです。この程度で動けなくなるなんて……」
私はキッチンで作っておいた、巨大寸胴の料理を気合いで持ち上げようとして、どうやっても持ち上がらないと、大変困ってしまいました。
他のお菓子やお酒、ソフトドリンクはテーブルに並べてあり、屋外用コンロもセット済みです。最後のこの寸胴だけが問題でした。
「やっほー、お手伝いにきたよ!!」
途方に暮れていると、ちょうどよくお隣のスザンヌさんがやってきました。
スザンヌさんは玄関からではなく、直接庭に回ってきました。
テラスに通じている開けっ放しの窓から家に上がると、腕まくりをして寸胴をコンロから持ち上げてしまいました。
「さ、さすがです。この村で一番筋力あると、評判が立つ事はありますね」
私が小さく笑うと、スザンヌさんはふくれ面になってしまいました。
「それ、女の子にいう事じゃないよね。誰がそんな称号をくれたのやら。野郎どもが貧弱なだけだ!!」
スザンヌさんは元気に笑いました。
「さて、これをどうするの?」
「あっ、ごめんなさい。それを、草原のテーブル上において欲しいのです。重くてかさばるから気をつけて」
私はスザンヌさんに声をかけました。
「平気平気!!」
スザンヌさんが軽々と寸胴を持ってテラスに出て、器用に段差を越えて草原に下りて一番大きなテーブルにそれを乗せました。
「ありがとうございます。もう粗熱は取れているので、冷やすだけです」
私は笑みを浮かべ、呪文を唱えました。
寸胴が真っ白に覆われて、触ってみるとそれが霜だと分かります。
この低温なら、あっという間に中身が冷える事でしょう。
私は屋外コンロで他の料理を作りはじめ、みんなが集まるのを楽しみにしました。
そう、これは誰が呼んだか、かぼちゃパーティ。
その名の通り、私の好みでかぼちゃ料理が中心です。
元々、村の人を集めて行う、ささやかなガーデンパーティでしたが、いつの間にか噂が広がってしまったようで、今では草原を使わないといけない程の大規模なパーティに成長しました
「さて、急ぎましょう。スザンヌさん、申し訳ありませんが、料理のお手伝いをお願いしします」
私は笑みを浮かべました。
「あいよ、任せて!!」
スザンヌさんが笑いました。
元気はつらつな男の子ような彼女は、怪力だけではなく料理上手でもあります。
一人ではどうしても手が回らないサラダや煮物など、テキパキとこなしてくれました。
こうして、大体の準備が完了した頃合いになって、まずは村の人たちが集まってきました。
「おう、今年もやってるな」
入ってきたおじさんが声をかけてきました。
「はい、今年も懲りずにやりますよ。これをやらないと夏という気分にならないので」
私は笑いました。
「そうだな。まあ、もうこの村全体がそうじゃないか」
オジサンは笑った。
この村の人口は二十人ほど。なるほど、確かにそうかもしれません。
「毎年の事ですが、今回も村以外の方もお見えになるかもしれません。くれぐれも、変な目で見ないようにして下さいね」
私は笑いました。
「分かってる。さて、今年はどんなヤツがくるかねぇ。そういう楽しみもある」
別のオジサンが笑いました。
「さて、とりあえず村の方々が集まりましたので、パーティを始めます」
私は笑みを浮かべました。
パーティといっても、それぞれが好きなように料理食べ、楽しくお話しをするだけです。
特別な事はなにもないのですが、逆にその方がいいと意外と好評なのです。
これだけで、このパーティを開催している主催者としては、とても嬉しい事でした。
「さて、どんどん作りますよ。スザンヌさん、お手伝いお願いします」
「あいよ!!」
かぼちゃ料理が中心とはいえ、肉料理や魚料理もあります。
まさかの雨に備えて、白くて足が長いテントをいくつも並べ、その下で調理やお喋りをしてもらっています。
「遅れた、ゴメンね!!」
自転車でやってきた女の子が、笑いながら庭に回ってきた女の子が元気に笑いました。
「あれ、お一人ですか。彼氏も連れてくると……」
「うん、昨日別れた!!」
女の子が笑いました
「またですか。今度は十五日ですね。長くもった方です」
私は思わず笑ってしまいました。
彼女……ナターシャさんは、飽きっぽいところが玉に瑕ですが、とても優しくていい人です。
私のお隣さんですが、この界隈の家は歩いて二十五分程度かかるほど離れています。
私にもいえる事ですが、離れているということは広い庭もあり、それぞれがガーデニングしたり野菜や果物を育てたりして、庭を楽しんでいます。
私は雑草を取る程度で、特になにもしていません。折を見てパーティを開こうと思っていたので、あえてなにもしなかったのです。
「おーい、私はなにをすればいいの?」
ナターシャさんが聞いてきました。
「そうですね。スザンヌさんと一緒に、料理をお願いします。寸胴一杯の冷製かぼちゃクリームスープを作っていたので、他が手薄になってしまって」
私は思わず苦笑してしまいました。
そう、あの寸胴の中にはスープが入っていたのです。
少し量を間違えてしまいましたが、私の自信作の一つです。
「分かった。スザンヌが魚料理をやってるから、私は肉料理をやるよ。それにしても、毎年食材が増えるね」
ナターシャさんが笑い、そのまま屋外用キッチンに向かっていった。
その言葉どおり、回を重ねるごとに皆さんが持ち寄ってくれる食材が増え、そのうち残りが出てしまわないか心配です。
今まで作った料理を食べきれずに、廃棄処分にしてしまった事はありませんが、少し心配です。
私はパーティに集まってくれたお客さんに話しかけつつ、味見のためにお酒とかぼちゃの煮付けを少し食べました。
さすがに慣れているだけの事はあって、かぼちゃの煮付けは程よく醤油の塩味が効いた美味しいものでした。
「相変わらず美味しいです。あっ、どなたか見えましたね」
玄関のチャイムが鳴ったあと、ピシッとした制服姿の一団が裏庭の方に回ってきました。
「カボ殿、今年もきてしまったぞ。街道パトロール隊の仕事も、いつもこれならいいのだがな」
もはや顔なじみの、パトロール隊隊長が笑いました。
「お待ちしていました。あちらに料理とお酒がありますので、ゆっくりしていって下さい」
私は笑みを浮かべ、一団を案内しました。
それからしばらくして、ボロボロの車が数台草原の向こうからやってきて、全車白旗を揚げ、先頭の車からお世辞にも柄がいいとはいえない姿をしたオジサンが降りてきました。
「よお、今年もまたきちまったぜ。たまには息抜きしなきゃな!!」
オジサンはニカッと笑みを浮かべ、全員下車を指示しました。
「ぱ、パトロール隊もいる。だ、大丈夫なんですか……」
まだ若い新人と思しきお兄さんを、先程のオジサンが車から引きずり降ろし、思い切りゲンコツを落としました。
「大丈夫だっていってるだろ。ほれ、パトロール隊のいい笑いものになっちまったぞ」
オジサンが大笑いしました。
彼らはいわずとしれた盗賊の一団で、最初にきたのは三年目だった気がします。
町を襲うつもりだったと聞いていますが、たまたま家の裏側にある草原から町に接近してみたようです。
そこに偶然にも私がぼちゃパーティをやっていたので、まずはアイツだと狙いを私に定めたようですが、料理の香りに毒気が抜けしまい、パーティの仲間に入れてくれ、空腹を満たす方が先だという事になったらしく、以降は毎年やってくる常連様になっていました。
「よし、今日はパトロール隊と休戦協定があるから問題ねぇ。おめぇら、存分に楽しむぞ!!」
盗賊のみなさんのテンションが上がり、さっそくお酒や料理を食べはじめました。
「かなり賑やかになりましたね。あら」
私は家の陰に隠れるようにしていた、村の住人ではない子供を二人見つけました。
「どうしましたか。私はカボ。あなた方は?」
私は笑みを浮かべました。
「……お腹が空いて。僕はアレン、妹はアリス。お父さんが死んじゃって、お母さんはどこかに逃げちゃった。なにか食べ物を下さい。お願いします」
ペコリと頭を下げた二人に、私は手招きしました。
「遠慮しないでパーティに参加していって。お金を取ったりしないから」
私が笑みを浮かべると、二人は恐る恐るという感じでテーブルの方にいき、さっそく盗賊の一団が構いはじめました。
「あの子たちは盗賊団でいいのでしょうか。パトロール隊としては、保護して孤児院に預けるという流れを取りたいのですが」
パトロール隊隊長が、私にそっと耳打ちしてきました。
「どうあっても、盗賊団に入れるような事はないと思いますよ。ほら、きた」
先程と違って元気になった兄妹は、パトロール隊の隊員が集まっている場所に移動していきました。
「ほらね」
「なるほど、杞憂だったようです」
私は小さく笑い、隊長が細かい話しを聞き始めた。
「これでよし。まだお客さんがくる予感がしますね」
私は笑いました。
昼過ぎにはじめたパーティーも夜になり、魔法の明かりが照らす、なかなかいい雰囲気になってきました。
この頃になると、昼間とは違って少し落ち着いた空気になり、まだ誰も帰ろうとしないお客さんたちが、和やかな時間を過ごしていました。
「だいぶ落ち着きましたね。私も少しお酒を飲みましょう」
私はグラスを取ってお酒を注ぎ、そっと飲みはじめました。
ちなみに、スザンヌさんとナターシャさんはとうに料理の手を休めてお酒を飲んでいて、パーティを存分に楽しんでいるようでした。
「さてと……おや」
家の陰からこちらに出てきたのは、コボルトの皆さんでした。
「あの、噂を聞いてやっていたのですが……。五十人にも人数が膨れ上がってしまいました。よろしいですか?」
コボルトとは、犬を二足歩行にしたような姿をした魔物扱いされている種族です。
しかし、人とコミュニケーションが取れ、温厚な性格なので人間社会でも普通に溶け込んでいて、決して害がある存在ではありません。
「はい、五十人でも大丈夫ですよ。料理もお酒もまだまだたくさんありますから。どうぞ」
私が案内すると、コボルトの皆さんが会場に入ってきて、また一騒ぎが始まりました。
「噂って、どこまで広がっているのでしょうか。なにか、特別な事をやるわけではないのですが……」
私は笑みを浮かべました。
もう何回目が忘れてしまいましたが、少しでもみんなが楽しんでいってくれればいい。それが、私の願いです。
「もう、このパーティを開くのは一生でしょうね」
私は小さく笑いました。
夜の部といったところでしょうか。
エルフのみなさんや、なんと絶対に地上に出ないで採掘を続けるというドワーフのみなさんまでやってきて、落ちいていた雰囲気がまた賑やかなものになりました。
みんなで盛り上がっていると、いかにも旅の途中という感じのいわゆる冒険者が二名顔を覗かせました。
「あら、どうしました?」
「ああ、楽しそうな声が聞こえたから、ちょっと様子をみにきたんだ。普通はあり得ない種族の集まりだな」
冒険者の男性が小さく漏らしまいた。
「よろしかったら、どうぞ休んでいって下さい。お金は不要です」
「い、いいのか。でも、うちは八人パーティだし、それなりに大食らいが多くてな」
男性がバツの悪そうな顔をしました。
「構いません。料理はまだあります。どうぞ」
いつまでもスザンヌさんとナターシャさんに迷惑を掛けられないので、私が自ら調理を開始しました。
さすがに、かぼちゃ料理ばかりというわけにはいきません。
ジャーマンポテトに鶏の唐揚げなどに加え、カレーや牛丼に海鮮丼。
あまり上手いとはいえませんが、そこそこの味が出ていると確信している料理ばかりを次々に作っていると、スザンヌさんとナターシャさんが料理をテーブルに運んでくれました。
「大変ですが、お客さんが多い事はいいことですね」
なんとなく呟いた時、肩の上に金色の小さいなにかが下りてきました。
「あっ、かぼちゃの精霊さんですね。あなたもゆっくりしていきなさい」
この世の中、あらゆるものに精霊が宿っています。
しかし、こうして可視化できるほど仲良くなれる例は、あまり聞いた事がありません。
金色の精霊がスッと消えると、私は小さく笑みを浮かべました。
「はぁ、いい一日でしたね。また来月です」
私は夜空を見上げ、どう考えても朝まで終わらないパーティを楽しむため、お酒をグラスに注いだのでした。
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