第161話 学園生活再開
「剣王連斬、やっぱり良い感触だな」
クルセイド騎士学園へと帰還し翌日、俺は早朝から新しい剣を使い素振りをしていた。インサニアシリーズにされてしまった父さんとの戦闘でボロボロになった状態で死霊のアマンダに奇襲を掛けたことで陽無月は完全に壊れてしまったので俺はその代わりとなる剣をジャポンに依頼していた。
その結果生まれたのがこの夜桜という剣だ。なんでも、ジャポン独自の鍛治技術を使い今の俺の全力にも耐え切れるように作られているらしい。扱いやすさに癖はなく、重量も申し分ない。
陽無月を壊してしまった件に関しては今度の休日にタロットの所に行って謝罪と何かしらの罪滅ぼしをするつもりだ。きっと本人は気にしないと言ってくれるだろうがそれでは俺の気が収まらない。何より、アマンダを倒すまで保ってくれた剣のお礼も言っておきたい。
「剣王斬」
今回グランドクロスと戦ったことで俺は以前よりも確実に強くなった。それは
そうなった時、俺は自分が負ける可能性が高いと考えている。よく考えてみれば俺が苦戦してギルガイズの助力がなければ右腕を欠損していた父さんも死霊のアマンダの駒の一つに過ぎないのだ。当時の状況を俺も聞くことが出来たがジャポン襲撃時に保有していたアマンダの霊装解放の戦力はインサニアシリーズ化した父さんと初代騎士王コウレン、三代目騎士王セリウスの三人だ。皆霊装解放に至っている上に霊装の扱いも熟達している。
それに加えジャポンの通常戦力と互角の死霊の軍勢を一人で相手することになればやり方次第では勝てなくもないが負ける可能性の方が高い気がする。少なくとも、確実に勝てると断言は出来ない。
「まぁ、結局やることは変わらないな」
色々と考えてはみたものの結局は強くなるしかない。それが真理で大切なものを守りたいと思う俺にとっての必須事項だ。
「ふぅ、霊装解放
今の状態でも青いオーラを纏うことは出来るが出力が弱過ぎて本来の能力である全てに対して優位を取るという効果は実感出来ない。これを使いこなすことが出来れば万能の防御と貫通攻撃が習得出来る筈だが先は少し遠そうだ。
「もっと頑張らないとな」
自嘲気味にそう呟いてから霊装解放を解いて俺は寮の自室へと向かう。実は朝練でフレアさんの遭遇するのではないかと考えもしたのだが偶然にも会うことはなかった。今日は教室に入ってから騒がしくなるだろうし、迷惑を掛けた皆にも謝罪をしないといけないので忙しくなることだろう。
「どう埋め合わせをしたものか」
まだベルリアに対する報酬も払ってないというのにやることばかりが増えてしまう。それからシャワーを浴び制服に着替えてから教室に向かうとその道中で既に大量の視線を集めることになってしまった。こうなることを見越してかサクヤは先に登校してしまったので今は話し相手もいない。
「マサムネはどうしてるんだ?」
聞こえてくるヒソヒソ話をなるべく耳に入れないようにして俺は昨日別れたきりのマサムネのことを考える。俺ほど大々的に祭り上げられている訳ではないにしろ表向きは霊装解放を習得しているからと極秘任務を受けた扱いになっているマサムネが注目を浴びない訳がない。
入学当初からの問題行動が多かったこともあって嫌われてはいたが学園襲撃時の活躍や今回の件もあってマサムネだってそれなりには人気になっている筈だ。まぁ、マサムネなら周囲の反応なんて無視していつも通り過ごしていそうではあるが。
現実逃避気味にそんなことを考えながら歩いていると無情にも無事Aクラスの教室まで辿り着いてしまった。一度息を吐き意を決して扉を開けると教室内に居た生徒全員の視線が一斉に俺へと向けられる。扉越しに小さく聞こえていた話し声も消え去り無音の空間だけが俺を出迎える。
「おはよう皆んな、元気してた?」
気まずい雰囲気の中、精一杯の作り笑いを浮かべ挨拶をしてみるもやはり帰って来る言葉はない。もしかして嫌われてしまったのかという考えが一瞬脳裏をよぎった所でようやく教室の中から返答が返された。
「おはようございます、レイドさん。まずは任務お疲れ様でした。同じクルセイド騎士学園の生徒として、私は貴方のことを誇りに思っています」
予想していた通り、一番初めに口を開いたのはフレアさんだった。本当は任務なんてないのに労いの言葉をもらってしまうと騙しているようで気が引けるがフレアさんの口調や雰囲気から素直に喜んではいないことが伝わって来る。
同級生がいきなり姿を消したと思ったら他国で英雄扱いされるほどの大活躍をしたなんて誰でも複雑な気持ちになるだろう。本気で騎士を目指しているフレアさんなら尚更だ。
「ですが、いくら極秘任務とはいえ剣舞際を放棄し私たちに何も言わずに出て行ったレイドさんを素直に賞賛することは残念ながら今の未熟な私には出来ません。情けない話ですが、私は貴方に嫉妬しています」
その言葉に俺は少しだけ驚いた。フレアさんの気持ち自体は理解していた。本気で俺のことを尊敬してくれていることも、複雑な内心の中で焦りや嫉妬を抱えていたことも分かっていた。それでも、フレアさんの性格上この場で素直にその気持ちを吐き出すことは予想外だった。
「ジャポンを救い六魔剣の一人を討ち取った貴方は私にとっての憧れで、だからこそ、ライバルとは呼べなくなってしまいました。ですが、私のやるべきことは変わりません。これからも理想の騎士を目指し一歩ずつ歩み続けます。ですから、今度こそ近くで見ていて頂けませんか?」
「もちろん、これからもお互いに頑張っていこうね。フレアさん」
「はい」
どれだけ嫉妬や焦りを感じても決して道を踏み外すことなく現実と向き合い一歩ずつ歩もうとするフレアさんの姿勢に俺は内心で尊敬の念を抱く。武力という意味ではなくこういう内面の強さこそ彼女の魅力なのだろう。そんなことを思っていると今度は席に座っていたソフィアさんが俺の目の前へと歩いて来た。
「お帰りなさい、レイド」
「ただいまソフィアさん。昨日聞いたけど、剣舞際で霊装解放に至ったんだってね。おめでとう」
昨日俺が居ない間に起きた学園での出来事をサクヤに聞いた時、剣舞際でソフィアさんが霊装解放に至ったことを聞いた。なので、賞賛する意味を込めてそのことを言ったのだがソフィアさんの表情はどこか暗い。
「ありがとう、レイド。それとごめんなさい」
「ソフィアさんが謝るようなことはないと思うけど?寧ろ俺の方こそ勝手に居なくなってごめんね」
ソフィアさんには学園祭の打ち上げの時に俺の本質について話している。今は少し変わってしまったけど、その時に学園を去るようなことを
「それについては後で埋め合わせしてもらう。でも、今は私の謝罪を受け取ってほしい。私は間に合わなかった。霊装解放を身に付けて誰にも殺させない騎士道に近づいた気になってた。でも、私が間に合わなかったせいでレイドにまた背負わせちゃった」
ソフィアさんの言っていることの意味を俺とマサムネ以外のクラスメイトは恐らく理解出来ていないだろう。このクラスでジャポンに行った俺とマサムネの共通点は純粋な強さであり、ソフィアさんは霊装解放を身に付けた今の自分なら同伴出来たかもしれないと思っている。それは他のクラスメイトも同様で霊装が使えるフレアさんとリリムさんも気持ちは同じ筈だ。
だが、二人が俺を英雄視している一方でソフィアさんは違った。過去に復習を動機としていたソフィアさんだからこそ、ペインの殺害を不本意な形で俺に依頼してしまったソフィアさんだからこそ、誰にも殺させない騎士道を掲げる決意をしたソフィアさんだからこそ、俺が死霊のアマンダを殺したことの重さをしっかりと認識出来ている。
多くの人間を殺し、その死体を弄んだ死霊のアマンダに同情を向けるものはおらず、例え殺そうとも誰も俺を責めはしない。だが、ペインという犯罪者の命の重さを俺に背負わせたソフィアさんだけは俺の殺人を見逃さない。
「だから、もし次があるなら私も連れて行って。お願い、レイド」
「善処するよ。埋め合わせも考えないとね」
もし次があるならそれは聖騎士協会や国の上層部からの正式な依頼になるだろう。だから、確約することは出来ない。戦力になることは認めるけど、ソフィアさんが俺の守りたい対象であることに変わりはない。
「埋め合わせの内容は二人で決めようね。後、もう時間がないけどリリムの話も聞いてあげて」
「もちろん。それでリリムさんは俺に何か言いたいことある?説教でも大歓迎だけど?」
ソフィアさんに話を振られ俺はなるべくリリムさんが話しやすいようにこちらから話を振る。
「えっと、その、剣舞際で勝ったので、ご褒美が欲しいです!」
リリムさんから発された予想外の言葉に少し固まってしまったがどの道、俺の代わりに剣舞際に出てくれたことへのお礼はしたかったので俺はそれを了承することにした。
「分かった。剣舞際の件で迷惑も掛けたから望む物をあげるよ」
それからクラスメイトたちにもそれぞれ言葉をもらい賑やかな中、久しぶりの学園生活が始まった。
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