第156話 作られる英雄
「さて、話したいことがあり過ぎてどれから話すべきか迷ってしまうな」
そう言って腕を組みながら唸っているロゼリアさんの前では俺、マサムネ、ベルリアの三人が正座をしていた。と言っても本気で説教を受けている訳ではない。
「まぁ、積もる話も大いにあるだろうがまずはその子の紹介をしてくれ。一緒にいる様子を見るに君たちの仲間なのだろう」
数秒間悩んだ末にロゼリアさんが始めに求めて来たのはベルリアの紹介だった。言われてみればクルセイド騎士学園の文化祭には参加していたもののベルリアとロゼリアさんは初対面になる。
ロゼリアさんは恐ろしく勘が鋭い。特に野生的な勘はピカイチだ。故にベルリアがそれなりの人間を殺してきたことはすでに理解している筈だ。それでも、俺から何かフォローすることはない。その必要もないし、俺自身もベルリアとロゼリアさんの会話には興味がある。
「まずは初めましてですね。ボクの名前はベルリア、レイドの理解者でパートナーです」
「ふむ、理解者でパートナーとは?」
「そのままの意味ですよ。貴方よりも、レイちゃんよりも、クルセイド騎士学園に在籍している学友たちよりも、誰よりもレイドのことを理解していて、肉体関係も持っている特別な関係。ボクを殺してボクを見つけてくれた互いを最も信頼しあっているパートナー。それがボクとレイドの関係です」
胸を張り、若干のドヤ顔で言い切ったベルリアはとても満足そうだった。肉体関係とかわざわざいう必要があるかと思わなくもないがベルリアに取っては必要なことなのだろう。後は純粋に面白そうという理由で言った可能性もある。
「なるほど、因みにレイドから否定したい部分はあるか?」
「特にありませんね。思い返してみれば付き合いは一番古いですし命を預けられるくらいには信用も信頼もしています」
「ふふっ」
俺の言葉に反応してベルリアが変な笑い声を上げたが今は無視する。別に、学園に居るみんなを信用していない訳ではないし頼りにすることもあるかもしれない。ただ、ベルリアに関しては紡いで来た時間と実績が違う。
一番初めのレイの護衛依頼から始まった関係は酷くビジネスライクなものだった。けれど、定期報告で会う度に遊びを交えて交流を深め、今ではパートナーと言われても否定する気が起きない程度には深い関係になった。
「そうか、今回の件に助っ人として参加するということは既に霊装解放には至っているのだろう。是非騎士になって欲しいものだな」
そう言ってロゼリアさんはベルリアへと視線を移す。何処の組織も優秀な人材は欲しいもので騎士とて例外ではない。特に、ベルリアのような一撃でも攻撃を当てられれば相手を戦闘不能に出来るタイプは割と騎士に向いている。
「レイドが騎士を続けるならボクも騎士になってみたいかな。でも、レイドが居ないんだったら別にいいや」
「今はそれで十分だ。もし本格的に騎士の道に進みたくなったらクルセイド騎士学園を訪ねてくれ。歓迎しよう」
自己紹介から始まり何故か勧誘の話になってしまったがベルリアが騎士になるのはそれはそれでありかもしれない。
「さて、そろそろ本題に入ろう。レイド、君は英雄になりたいか?」
突然の問いだが予め今後の流れを予想出来ている俺にはその意図が十分に理解できた。
「正直俺は英雄自体はどうでも良いです。地位や名誉にはそこまで興味がないですから。ただ、誰かにとって都合の良い作られた英雄になるのは遠慮したいですね」
父さんは都合良く利用された挙句、英雄にすらなれなかった。英雄にされること自体は構わない。だが、一方的に利用されるのはごめんだ。だから、現状をよく知るであろうロゼリアさんに直接聞いてみることにした。
「ロゼリアさん、実際の所ジャポンは何処まで俺を利用しようとしてるんですか?」
「そうだな、君をジャポンの英雄として祭り上げることで我が国とのパイプを作り五カ国同盟に加わるつもりだろう。ペア帝国が落ちたことでちょうど良い枠も空いているからな」
「他の国の反応は?」
「我が国を含め、どの国もジャポンのことを受け入れるだろう。ルイベルトが居ない今ならジャポンは武力行使ができない。そうでなくともグランドクロスが既にペア帝国を潰している以上使える戦力が多いに越したことはない」
ジャポンはこれまでルイベルトさんの力によって他国の干渉を避けて来たが見方を変えれば他国もルイベルトさんの存在によってジャポンとの同盟関係に前向きになれずに居たとも捉えられる。今、ランスロットさんやロゼリアさんのお陰でロイヤル帝国が五カ国同盟の中でも高い発言力を有しているように武力とは政治においても大きな意味を持つ。
要するに、ルイベルトさんの居ないジャポンなら五カ国同盟に加えても手綱を握れるということなのだろう。多くの国民や騎士がグランドクロスの壊滅をゴールに据えているのに対して国の上層部はグランドクロスが壊滅した後の利益や立場を考えて動いている。巻き込まれる側からすれば面倒なことこの上ない。
「あのロゼリアさん。ボクからも聞きたいんですけどこれからのレイドの立場って結局何処に落ち着くんですか?それ次第でボクも立ち回りを考えないといけないんですよ」
ベルリアがロゼリアさんに聞いた内容は俺も気になっていたことだった。そもそも、いくらジャポンが俺を英雄として祭り上げてもロイヤル帝国側は一介の騎士見習いが出しゃばっただけとも判断出来てしまう。現実的な所を考えると囲い込みが無難だが、父さんへの仕打ちを考えると脅迫をして来ても不思議ではない。
「そうだな、最も可能性が高いのはレイドを特別扱いし騎士見習いから一気に聖騎士クラスまで昇格させることだろう。騎士見習いなら拘束力はないが正式な騎士にしてしまえば囲い込む労力を抑えてレイドの武力を利用出来る」
本人の前で堂々とこういうことを言ってくれるのはロゼリアさんの信頼出来る所だ。
「それだと反感を買うんじゃないですか?」
「多少は買うだろうが特別扱いではなくあくまで特別措置にすれば良い。霊装解放へと至り、グランドクロスの六魔剣や四聖剣を倒せる実力を証明し、国家から英雄だと祭り上げられるレベルの功績を残す。それさえ出来れば誰にでも平等に聖騎士になれるチャンスが与えられる。これなら万が一同じようなことが起きても国からすればプラスになる」
まぁ、今回の件を機にそういう制度を作ってしまえばそこまで反感は買わないだろう。嫉妬や劣等感から俺個人が反感を買うことはあるだろうがその程度なら気にならない。
「まぁ、ギルガイズという前例がある以上ある程度拘束はされるしどうしても君を利用する形になってしまうがな。ベルリアもマサムネも今回の功績を持ってすれば特別措置の対象になる可能性はある。私個人としてはまだまだ学生で居て欲しいのだがそうも言ってられないのが現状だ」
力があるなら学生でも、騎士見習いでも利用する。グランドクロスによる被害は国家にそんな選択をさせるくらいには広がっている。ノワールの負傷と六魔剣の喪失は確実にグランドクロスの行動を遅延させることに成功した。何か行動を起こすならこの気を逃す手はない。
「取り敢えず、褒賞をもらったらすぐ学園に戻ります。聖騎士になるにしろならないにしろ今回の件で俺は確実にグランドクロスから敵認定を受けました。新たに得たこの力をもっと使いこなせるようにならないと」
「そういえば、レイドはようやく霊装解放に至ったそうだな」
「はい、それと新たな霊装にも目覚めました」
「それは興味深いな。学園に戻る前に話を聞かせてくれ」
楽しそうに笑うロゼリアさんには悪いがこの話は確実にロゼリアさんの悩みの種になるだろうと俺は確信を持って言える。感覚的な話だが俺の新しい霊装である
だから一瞬戸惑ってしまった。本当のことを伝えるべきか虚実を伝えるべきか。ロゼリアさんは立場上俺の現状を国の上層部へと報告しなければならない。例えそれが俺にとって不利益なことであってもだ。一人の人間と国益を天秤に掛けた時、判断を誤るほどロゼリアさんは愚かではない。俺の認める騎士とは、そういうものだ。
「ままならないものですね。色々と」
「あぁ、そうだな」
もう騎士に対する憧れなんて疾うの昔に捨てている。今もなお背負っている屍の群れが深層心理の奥深くで英雄となり称賛を浴びることを拒絶している。それでも、英雄になることが最善手であると理解出来るからその道を進む以外に選択肢はない。
初めて人を殺したあの日から世界は俺に子供でいることを許しはしない。けれど、それ以上に俺が許さない。
「そういえば、学園に居る皆は元気にしてますか?」
大切なものを守る為なら俺は喜んで騎士になる。
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