第155話 予想外の来訪者

 目を覚ましてから三日が経過した現在、俺は普通に歩けるほどには回復していた。霊人になったことで次元昇華アセンションの出力が強化されたことが一番の要因だと思うが我ながら本当に便利な霊装だと実感する。



 未だにジャポン側からの接触はないがその理由に関しては何となく予想が付く。



「さて、朝食でも食べるか」



 今俺が住んでいるルイベルトさんの使っていた小屋には俺の他にマサムネ、ベルリア、サクラさん、モミジちゃんの四人が住んでいる。主に食料調達をマサムネとベルリアが行い料理をサクラさんとモミジちゃんがやっているがいい加減俺も何かしないと居心地が悪い。



 とは言え、散々無茶をしたせいで皿洗いすらまともにさせてもらえないのが現状だ。素振りをしようにも剣は壊れているし破極流の鍛錬に関しては一度サクラさんに見つかって禁止令が出されたので結局やることがない。



 焼き魚の匂いに誘われ皆が集まっている居間に向かうと既に食事の準備が整っていた。



「おはよう」


「おはようございます。レイドさん」


「おはようレイド」



 グランドクロスの襲撃が終わったお陰か以前よりも皆の雰囲気が和らいでいる気がする。俺やベルリアはそこまででもなかったがやはり故郷が壊滅するかもしれないという情報は例えマサムネであっても身構えるものがあったようだ。



「そういえば、昨日各地の復興の様子を見て来たけどレイド凄い人気だったよ」


「そうなんです。みんなレイドさんの活躍をたくさん語ってたんですよ」



 実情を察して少しニヤけながら昨日の出来事を話すマサムネとは対照的にサクラさんは嬉しそうに俺の噂話を語ってくれる。



「単体でジャポンを壊滅させられた敵を相手に一人で戦い勝ったっとか、死霊たちを操っていた元凶を倒したとか、みんな色々な話をしていましたがやっぱり一番はルイベルトさんの最後の意思を繋いだことです。私を含めてジャポンのみんながレイドさんに感謝しているんですよ」



 やはり予想していたことではあるが今回のグランドクロスによる襲撃事件に関してジャポンは一切の緘口令を敷いていないらしい。まぁ、元から全面戦争的な雰囲気はあったしそこに対して俺から言えることはないのだが確実に外堀を埋められている。



「それにサムライからも忍者からも支持されてるから本当に逃げ場がないんだよね」


「どういうことだマサムネ?」


「ジャポンは割と実力主義な部分が大きいから、バサラ・インサニア相手に正面から殺り合ったレイドに対するサムライの評価はかなり高い。それに加えてアマンダの殺し方は最高レベルの暗殺だと忍者からは大絶賛されてる。加えて一般人は師匠の最後の抵抗を活かしてくれたことと国への被害を抑えてくれたことへの感謝でレイドのことを大絶賛。すっかりこの国の英雄だよ」


「あからさまな捏ち上げだったらボクも否定出来たんだけど全部事実だからね。今回は諦めた方が良いよ」


「そうだな」



 俺は割り切れるタイプの人間だ。だから、終わってしまったことやどうしようもないことに対して無駄な労力を使うような愚行はしない。だが、厄介ごとに対する対処を怠るほど愚かでもない。



「ジャポンの英雄になるのはこの際仕方がないとしてマサムネから見てジャポンはこの先俺に降りかかる厄介ごとに対処してくれると思うか?」



 マサムネには伝えるまでもない事だがこの場合の厄介事とは当然俺がジャポンの英雄になることで生じる厄介事を指している。冒険者ブランとして狙われたり、個人的にグランドクロスに巻き込まれる分には仕方がないと割り切れるがジャポン関連で巻き込まれた時に後ろ盾があるのとないのとでは天と地ほどの差が生まれる。



「今の現状だと国の復興が優先されるからそれなりの褒賞を渡して終わりなんじゃないかな。ジャポン側がどこまでレイドを利用する気か分からないから何とも言えないけど今後レイド側が協力してほしいことが出来た時はジャポンが協力した形じゃなくて、レイドが協力して貰った形になると思うよ」



 なんとなく予想は出来ていたがやはりそんなものなのだろう。まぁ、そもそもの話俺が気にしているのは今回の騒動を受けてレイに何かしらの不利益が発生しないかという一点だけでそれ以外はそこまで重要じゃない。



 そもそも、ベルリアやマサムネにいつでも協力してもらえる立場に居る俺からすればジャポンの戦力自体初めから当てにはしていない。それでも、今後何かしらの交渉を行う際に国の名前を借りられるのは大きい。



「ボクとしては向こうがどんな態度で来るのかの方が不安かな」


「それは僕も思ってたよ、自国のトップがそこまで馬鹿とも思えないけど老害が居るのは事実だから変な利権争いでレイドやベルリアさんのことをただの子供だと思って接して来たらどうなることか」


「確かに、ボクは別に地雷はないけどレイドにはレイちゃんっていう特大の地雷があるからね。もしレイドがレイちゃんを材料に脅されたらどうする?」



 物騒な会話を他人事のように聞いていると突然ベルリアから話を振られる。とは言え、答えなど既に決まっている。



「殺す」


「あ〜、本気の目だ。相手が冗談のつもりでも確実に首を刎ねる未来が見える」


「失うものがない訳でもないのに本気で世界を敵に回せるのがレイドだからね。確実にグランドクロスの襲撃の時よりも被害は大きくなるじゃない」



 楽しそうに会話をしているベルリアとマサムネから顔を逸らすと今度は朝食を運んでいたサクラさんと目が合った。



「レイドさんって本当に妹さんのことが好きなんですね」


「はい、好きですよ」



 優先順位は以前よりも下がってしまったのかもしれないがそれでも俺の中でレイが大切な人であることに変わりはない。だから、保険を用意することにした。



「ベルリア、しばらくの間前みたいにレイの護衛をお願い出来ないか?」


「もちろん良いよ。その代わり報酬は弾んでね」


「あぁ、約束する」



 今回ベルリアをジャポンに連れて来るのに俺は払った報酬はベルリアの要求をどんなものでも飲むというものだったが果たして次は何を要求させるのか。まぁ、ベルリアになら何をされても文句はない。



 それから五人でわいわいと雑談をしながら朝食を食べ終えモミジちゃんとサクラさんが後片付けをしに居間を出たタイミングでマサムネの雰囲気が変わった。



「マサムネ、もしかして来客か?」



 マサムネの雰囲気が変わった理由はなんとなく察せられた。今の状況でマサムネが反応を示す相手は予期せぬ来客者くらいしか思い付かない。



「そのまさかだよ。ただ、予想外の人物が一人居てさ。まぁ、これでレイドの地雷が踏み抜かれることはなくなったかな」


「あぁ、あの人か。確かに居てもおかしくないな」



 マサムネの発言だけで俺は今こちらに向かって来ている人物に当たりをつけた。俺とレイの関係性を深く知り、尚且つ俺の実力まで知っている人物となるとそう多くはいない。



 だが、一人だけ当てはまる人が居るのだ。俺とマサムネがジャポンに来ていることを知っているあの人なら、話が拗れないようにジャポンに居てもおかしくない。



「二人ともさっきから誰の話をしてるの?ボクだけ仲間外れは良くないと思うな」



 俺やマサムネとは違いこれから訪ねてくる人物が分からない様子で聞いてくるベルリアだが俺たちが答えるよりも早くその人物が小屋へと辿り着いた。



「レイド、マサムネ、約束通り説教しに来てやったぞ」



 実に元気そうな張りのある声に少しの安堵を覚えながらも無視する訳に行かないので率先して俺が扉を開けて出迎えることにした。



「お久しぶりです。ロゼリアさん」



 扉を開けるとスーツ姿で笑みを浮かべるロゼリアさんがそこに立っていた。

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