第152話 頂上決戦
「あれが世界最高峰か。今の俺なんて足元にも及ばないな」
父さんとの戦闘でそれなりに消耗した俺は木に背中を預けながらルイベルトさんとグランドクロスのボスであるノワールの戦闘を眺めていた。
俺がこの場所に着いたのは丁度ノワールが姿を現した時で聴覚を強化していたお陰で二人の会話はよく聞き取ることが出来た。だからこそ、現状もある程度理解している。
霊装解放を習得したことで喜んでいた自分が惨めに思えるほどには目の前で行われている戦闘は次元の違うものだった。例えギルガイズでも、各国が誇る四聖剣でも足手纏いと切り捨てられるレベルの攻防。
互いに神装解放を使用した殺し合いは全てが一撃必殺でありながら戦闘として成立している。ルイベルトさんの
ノワールは神装解放である
原理は不明だが空を駆け回り、四聖剣クラスを一撃で殺し得る攻撃を互いに連発している二人の光景はここが現実の世界であることを疑いたくなる。戦況は右腕がないこともありややルイベルトさんの方が優勢だが二人の実力を考えても誤差の範囲だろう。何より、今の俺程度ではあの二人の戦闘を正しく評価出来るのかも怪しい。
「先は長いな」
父さんに引導を渡すことが出来た以上、もう俺が生に執着する理由はない。それでも、増えた大切なものを守りたいという気持ちはあるし、そのために力が必要なことも分かっている。その理想系が目の前で戦闘を繰り広げているのは果たして運が良いのか悪いのか。
国家を相手にたった一人で勝利するなんていう子供の妄想のような強さも、実際に見せられれば欲しくなる。力に溺れる気はないが失うことを理解している身からすれば国家を相手にしても大切な人を守り抜けそうな力はやはり羨ましい。
そんな勝手な羨望を向けている間にも戦闘は進み、互いに神装解放を使用してから初めて明確な負傷が発生した。
「本気を出しても尚傷を付けられるとは流石に想定外だったな」
「それはまた、随分と読みが浅い」
軽口を叩き合いながらもノワールは残った左手で右目を押さえる。霊眼のお陰で何かしらの霊装を発動させているのは理解出来たがそれでも左目の傷に変化はない。あの傷の深さなら完全に失明している筈だ。
「やはり治らないか。本当に厄介だな、お前の霊装は」
「儂の
一瞬、二人の会話を聞いて俺の
「恐らく、このまま行けばルイベルトさんが勝っても負けてもジャポンは無事で済む」
この戦闘で万が一ルイベルトさんが負けてもノワールのダメージからしてほぼ間違いなく目当ての神器さえ手に入ればノワールはこの場から姿を消す。一方でルイベルトさんがノワールに勝てばジャポンの完全勝利という形で今回の襲撃事件は幕を下ろすだろう。そうでなくても、ノワールの傷が再生しないことを考えてもルイベルトさんの功績は大きい。
「戦闘後の不意打ちはまず無理だろうな」
これだけの激戦を繰り広げていれば戦闘終了直後の隙を突いて一撃でも入れられないかと一瞬思考するがすぐに無理だと結論付ける。折角新しい力に目覚めることが出来たのにそれが一切通用しない現状はやはり少しばかり堪える。
「けど、やれないことがない訳ではない」
ノワールに関しては今の俺ではどうしようもないので触れないのが一番得策と言える。だが、千変の魔女ザリアや死霊のアマンダとなれば話は変わって来る。この戦いでもしノワールが勝ったら千変の魔女ザリアと死霊のアマンダの二人はノワールに接触して来る可能性が高い。
特に、ルイベルトさんの
厄介さで言えば二人とも同程度だがルイベルトさんが敗北したケースを考えると死霊のアマンダを優先して殺す方が良い。ルイベルトさんが神装解放を使える状態で敵側として現れたのならそれこそ悪夢だ。
そうして、俺が戦闘後のことを考えている間にもまた一つ、ルイベルトさんの
「なるほど、もう霊装は壊せないのか」
次元の違う戦闘であってもこれまでに培って来た観察眼を持ってすればある程度の考察は出来る。ルイベルトさんの斬撃がノワールに届いているのにも関わらず霊装を破壊出来ていないのはノワールが身に纏っている漆黒のオーラのせいだ。
あのオーラがある限りルイベルトさんの
右腕と左目がない分、戦況はルイベルトさんの優勢気味だがジャポンに直接的な被害が及びそうな攻撃を
一瞬でも目を離せば終わってしまいそうなのに、終わる気配を見せない綱渡りのような攻防。その幕引きはあまりにも唐突に訪れた。
「これは使いたくなかったが仕方ない。
「なっ、」
「終わりだ」
ノワールが使用したのは恐らく何の変哲もないただの霊装だろう。しかし、その霊装が使用された瞬間ルイベルトさんがこれまで使っていた
「ぐはっ」
ギリギリで刀を滑り込ませることによって即死は真似がれたものの致命傷を受けたルイベルトさんは仰向けに地面へと倒れてしまう。即座に体勢を立て直そうとするがそれよりも早くノワールの放つ二振りの斬撃がルイベルトさんの両腕を切り飛ばす。
「儂もここまでか」
「俺にここまでの傷を負わせたのはお前が初めてだ。誇って死ぬと良い」
穏やかに死期を悟ったルイベルトさんを助けようとは思わない。今の俺が助けに入ったところでノワールに殺されるのがオチだ。それに、ここで感情的になって動くほど愚かでもない。
「ノワール、約束通り神器は持って行け」
「あぁ、言われずともそうするつもりだ。お前が死んでからな」
「全く、用心深い男め」
その言葉を最後にルイベルトさんは息を引き取った。彼なりに満足の行く死に方だったのだろう。どんな顔をしているのかまでは分からないが聴覚強化で聞き取れる声音は酷く穏やかだった。
そうしてルイベルトさんの死を確認したノワールが漆黒のオーラを消しルイベルトさんの持っていた神器へと手を掛けた瞬間、不可視の斬撃がノワールの頬に赤い一筋の線を描いた。
「本当に、最後の最後でやってくれる」
忌々しそうに、それでいて何処か楽しそうな声でノワールはそう呟く。どんな概念を切断したのかは理解出来ないがアレがルイベルトさんの最後の置き土産ということは理解出来る。
「ノワール様。お迎えに上がりました」
それから千変の魔女ザリアと死霊のアマンダが現れたのはすぐ後の事だった。
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