第150話 ノワールの霊装
「
「やはり妙だな」
互いに霊装を使用して攻防を始めること十分。ノワールから放たれた漆黒の槍を叩き落とし儂はノワールの霊装について考察を続ける。
霊装の能力自体は闇を操るというシンプルなものであり、それゆえ汎用性が高く攻防どちらともに優れている。奴が扱う際には必ず圧縮して硬度を上げているため儂の霊装でも真っ二つにすることは出来ない。
「
「ふんっ!」
それでも、儂からすれば一切の脅威たり得ない。例え数キロ先の地面を抉るような斬撃でも打ち消すことくらいは出来る。いや、出来てしまう。
「ノワール、お主本来の霊装を使っていないな」
「何故そう思う?」
「ただの勘と言いたい所だがそれだけじゃない。そもそもお主が百を優に超える年月を生きているのも霊装の力。ならば、それ以外にも複数の霊装を持っていても何ら不思議ではない」
特に隠す気もなかったのだろう。ノワールとの会話を思い出せばノワールが複数霊装の持ち主であることが容易に推察できる。だが、儂が気に掛かった理由はやはり勘だ。
どうにも
「正解だ。よく分かったな」
「この程度なら造作もない。それで、お主は本来の霊装を使う気があるのか?」
「ないな。だが、お前相手に隠し通せるとは思っていない」
ノワールの口調からはどちらも本心なことが感じ取れる。儂を相手に本来の霊装なしで、つまり霊装解放や神装開放なしでやり合えると考えるほど楽観視はしていない。とはいえ、出来ることなら本来の霊装の使用は控えたい。
儂はノワールの考えを責めるつもりはない。向こうの立場からすれば手の内を明かさずに儂を殺せるのならそれに越したことはないし、何かしらの誓約のある霊装かもしれない。
だが、不愉快なのもまた確かだ。
「儂を舐めたツケはその霊装で払ってもらおうか」
「何?」
「霊装解放、
「ッ!これは、」
本気の儂の斬撃をくらい今日初めての動揺を見せるノワールを見て儂は気分が良くなるのを感じる。
「お主ほどの手練れなら死闘の数も計り知れない。それ故に殺意も殺気もない、ましてや傷すら付かない斬撃には一瞬対処が遅れてしまう。儂の前でそれは致命的が過ぎる」
ノワールの実力なら儂の一撃を避けることなど容易い。本気で致命傷を与えようとするなら数十手先を読んだ攻防が必要となる。しかし、実戦の場で鍛え上げられたノワールはそれ故に致命傷になり得る攻撃以外に対する警戒心が低い。
薄皮一枚でも儂の
「やってくれたな。ルイベルト」
儂に対する警戒心を数段上げたことを言葉よりも鮮明にその瞳が物語っている。逆鱗に触れたとまでは行かずとも掠めることには成功したらしい。
「なるほど、こうなることを予見していたからこそ別の霊装を用意していたという訳か。だが、それだけではないな」
複数の霊装を所有しているノワールならインサニアシリーズの様に最適な霊装を自由に選べる筈。まだ真意を読み取れるほどに理解した訳ではないがノワールが無駄なことをしないタイプであることは分かった。
今ノワールが最も警戒しているのは奴本来の霊装を消滅させられること。儂の神装解放を先読みしたのなら未来視系統の霊装を保有している可能性は十分に考えられる。つまり、奴に本気を出させるには本命以外の霊装を全て消滅させれば良いという訳か。
「分かってはいたが、やはり一筋縄では行かないようだな」
「賞賛するのはまだ早いぞ。霊装解放、
「面倒だな、
再び
「こうして実際に対峙してみれば、お前が各国から警戒されている理由が良く分かる。今の時代は霊装の強さで序列が決まると言っても過言ではない。その霊装を消滅させられるなど悪夢でしかない」
「複数の霊装を準備したのはその対策か?先程の
「
他に大切な霊装があるのか。そう言おうとした瞬間、地面から木々が生え儂とノワールが居た場所は完全な樹海へと様変わりを遂げていた。回避行動と共に上へと登りノワールを補足した儂と奴の目が合う。
「一つ補足をしておこう。俺が二度目の
「だろうな、儂も三度は無理だろうと考えていた所だ」
回避され当てる手間が増えることを考えれば霊核ではなく命そのものを奪った方が早いがあのノワールが自身の死に何の対策もしてないとは考え辛い。となれば、霊装を確実に削る方が有効な可能性すらある。それに、本命の霊装を消滅させることが出来れば儂の勝ちは決まる。
「まぁ、どうせ他人の霊装では儂の心臓にまでは届かない。じっくりと削らせてもらおうか」
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。残念だが、お前は一つ誤解をしている」
「ほぉ、それは?」
「他人の霊装であろうと使いこなすことは可能だ。
「複数の霊装を有していながら狂ってないのはその霊装のお陰ということか」
儂の霊装に干渉して妨害してこない所を見るにノワール本来の霊装でない
「さて、どう斬撃を当てたものか」
四方八方から襲い掛かって来る樹木の根や枝を
何より厄介なのは霊装解放の数の多さだろう。本気の儂なら確実に本来の霊装を引き出すまでには辿り着くが己の死と引き換えでは意味がない。何としてもノワールの隙を見つけこの手で両断して見せる。
「まずはこの樹海を消すか。
樹木の攻撃を裁くのは余裕だがノワール相手には無駄な体力の消耗はするべきではない。そう判断して
「神装解放を簡単に使ってくれるな。
「ほう、再生能力を斬ったつもりだが他の霊装で回復するのか。それなら、今度は生命力を斬ってやろう」
「そうか、なら生命力のない物質も追加しよう。お前の神装解放は確かに強いが斬れる概念は一つだろう。
そう言ってノワールが別の霊装を使用した瞬間、地面から凄まじい量の槍が生えて来る。試しに切ってみた感覚からして素材は鋼鉄辺りだろう。だが、
「この程度なら神装解放をせずとも容易に斬れるぞ」
「あぁ、そのようだな。例え神装解放がなくともお前はこの世界に存在する物質なら霊装一本で斬れる。ならば、この世界に存在しない物質を作り出せば良い。霊装解放、
「斬撃耐性か」
「対斬撃に特化した最高高度の鋼だ。構造を考えるのに少し苦労したがどうやら有効なようだな」
やり難い、強い人間と戦う時はいつも思う感情だがノワールの場合はその上を行く。事前に儂のことを調べしっかりとした準備をして来たことが窺える戦術と戦略。世界全体で見ても間違いなく五本の指には入る、下手をすれば本当に世界最強かもしれない。
何より、それほどの実力を持っていながら油断や慢心、過信といった類の感情が見られないのが一番厄介だ。
「これだけの攻撃を無傷で捌くのは流石だな。これなら、もう一つ追加しても大丈夫だろう。霊装解放、
「
持続力があるタイプではなく一撃必殺タイプの霊装解放に儂は警戒度を最大限まで上げ
「霊装解放、
ノワールがそう口にした瞬間、世界から色が消えた。
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