第149話 ノワール
「全く、物騒な連中だな。儂でなければ手に余る」
二つの強者の気配を感じ取り小屋の外へで待ち構えていた儂の元へとその二名の騎士は姿を現した。あまり生気を感じないところを見るに死霊のアマンダの霊装に操られた死体なのだろうが死体にしては生きが良い。
「その格好は騎士だろう?名前ぐらいは名乗るのが礼儀ではないか」
折角こちらから話し掛けてやったのに返答はなしか。これは本格的に意思の介在しない操り人形のようだな。
「
「
一眼見ただけで業物だと分かる名剣と共に二人の騎士は霊装を顕現させる。事前にレイドくんから聞いた話だと
「騎士王の地位も落ちたものだな」
「
「音速は優に超えているか。だが、光の速度には到達していない」
それなりにあった距離は一瞬で詰めて来たのは流石に騎士王なだけはある。体の起こりの最小限で正面からの一撃にも関わらず不意打ちよりも奇襲の精度が高い。だが、儂の経験には届かない。
「
「目では捉えられんが気配は追えるな。やはり経験が浅い」
確かにしっかりと強いがそれでも儂なら普通に捌けるレベル。霊装解放を見ないことには判断が付かないが今の所脅威という程ではない。
「
「拘束技か」
このタイミングで拘束するということはもう一人の攻撃が来るな。一見意思がないように見えて連携は取れている。恐らく、自我がなく単純な命令なら聞ける感じか。
「
初代騎士王の霊装は確か霊装を破壊することで相手の霊装の弱体化及び自身の強化を行うものだったな。弱体化の方は時間経過で元に戻るが戦闘中にはまず戻らない。加えて自己強化は永続的に続く為死後であってもそれは健在。
「
拘束して正面と背後からの挟み撃ちか。悪くはないんだがなぁ。
「騎士王にしては弱いな。お主ら、儂を舐めてるのか?霊装解放、
敢えて拘束されてみたもののやはり物足りなさを感じてしまう。儂の
「これくらいは無傷で防いで欲しかったな。それなりに優秀な霊装解放ではあるが扱う死者が強者であるほど劣化は大きくなるか」
死霊のアマンダの霊装解放は恐らく、霊装解放が使える程度の強者に使用すれば生前の力を発揮出来るだろう。だが、騎士王や四聖剣のような霊装解放を完全に使いこなしている真の強者は弱体化して見える。
「来い、もう少し遊んでやろう」
「
「
異なる霊装だがどちらも身体能力を飛躍的に向上させる効果を持つようでそれなりには楽しめる。だが、技量に差があり過ぎて受け流しと捌きで普通に渡り合えてしまえる。
「どうした、儂は切れ味の良い刀しか使ってないぞ」
鋭く、重く、速い。基礎能力は満点を挙げても良いくらいだが突出した才が見えない。
「
「その技はもう見たぞ?」
三代目騎士王の連撃に対して剣の同じ場所を的確に狙い撃ち攻防を繰り返すとやがて負荷に耐えられなくなったのか先に相手の剣が折れてしまった。
「
「お主のそれも一度見たぞ」
儂の背後を取り先程と同じ技を繰り出してくる初代騎士王だがいささか大振り過ぎる。それを指摘してやるように刀を一閃させ両腕ごと霊装を切り飛ばす。
「もう良い、お主らが本命でないことはよく分かった」
マサムネの話では今回のジャポン襲撃で儂を殺し得る存在が現れるという話だった。それは即ち、国家を相手取れる存在がグランドクロス側にいることを意味している。
その為、敵戦力を探る意味も込めて様子見に徹していたがそれがこの二人でないことは良く分かった。
「ッ!霊装解放、
「霊装解放、
「ジャポンを壊す気か?死者は大人しくあの世へ帰れ。霊装解放、
決着は一瞬で着いた。ジャポンに甚大な被害を与えかねない大規模な霊装解放を発動しようとした二人だったがその前に切り刻んでしまえば意味はない。
「さて、本命はどんな化け物なのだろうな」
今回は儂に対して当てられたから良かったもののこの二人だけでも使い方によってはジャポンのサムライを大量に殺すことが出来た。それこそ、察知される前に霊装解放を使われていたらジャポンへの被害は尋常ではなかった筈だ。
「此奴らが前座なら本命はどれほど強いのか。興味が尽きんな」
最強と呼ばれて久しいが己の命が脅かされる戦闘なんてここ最近はなかった。年甲斐もなく胸が躍ってしまう。
「前座とは酷い言いようだな、これでも勝算あっての作戦だったのだが」
「なるほど、お主が本命か」
気配もなく、儂の間合いの外ギリギリに現れたその男を見て儂はその男こそが本命であると直ぐに察した。これはモノが違う。
「儂はルイベルトだ。一応ジャポン最強と呼ばれておる」
「俺はノワールだ。グランドクロスのリーダーをしている」
落ち着いた物腰で喋るノワールからは底知れない気配と儂以上の貫禄を感じる。見た目の年齢は三十と言ったところだが中身は恐らく別物だな。
「グランドクロスのリーダーが直々に出向いて来るとはな。そんなにこの刀が欲しいのか?」
そう言って儂は腰に差してあった神器を少しだけ前に突き出す。グランドクロスの目的が神器の回収であることは知っている。だが、儂の目を持ってしてもこの刀にそれほどの力があるとは見抜けない。
「欲しいのではない、俺はただ取り返したいだけだ。多くの者にとって飾りでしかないそれの正しい使い方は俺だけが知っている。だから、すぐにそれをこちらへ渡せ、ルイベルト」
正しい使い方か。それが何を意味しているのかは知らないがノワールの目が本気なのは確かだ。久しく見ていない強い瞳、この刀の為ならノワールは間違いなく儂を殺す気だ。
「儂個人としてはくれてやっても構わないが、それはそれとしてグランドクロスのリーダーを見逃すことも立場上難しい。故に、この刀が欲しいのなら儂を倒して奪ってみよ」
「老い先短い身で死に急ぐ必要はないだろう。俺も老人を痛め付ける趣味はない。さっさとその神器を寄越せ」
「話の通じない奴め。神器が欲しければ勝って奪えと言っている。それとも、お主の野望を阻止する為に今ここで神器を壊してしまおうか?」
ノワールとて戦闘になることは理解している筈だ。それなのに、本当に話し合いで済めばそれで良いという雰囲気を感じる。まぁ、ジャポンに襲撃を仕掛けて来た以上は見逃すつもりはない。
「安い挑発だな。お前ほどのサムライが私欲で刀を壊す訳がない。だが、俺に対する挑発の仕方としては満点をやろう」
「そうこなくてはな」
やはりこの程度の挑発では感情の揺れは見せんか。だが、一度刀を交えればその厚みも多少は分かる。一体何時ぶりだろうか、死の危険性を孕んだ戦闘は。
「まずは一太刀。受け止めて見せよ」
特殊なことはしない。霊装解放も神装解放もなしの単純な一太刀。だが、この一太刀に込めるのは儂がこれまで培ってきた研鑽の全て。例え霊装解放を使用したマサムネであろうとも無傷で受け切ることは出来ないだろう。
だが、儂の直感がこの男なら難なく対処してくれると訴えてくる。
「良い一撃だな。最強のサムライと評されているだけはある」
「やはり防ぐか」
儂の渾身の一太刀を受け止め平然としているノワールを見て確信する。この男こそ、儂が求めていた相手であると。
「その剣は人造霊装か?」
「あぁ、人逸剣エルヴァンスという人造霊装だ。だが、神器に比べれば何の価値もない剣だ」
「その名剣を手にして無価値とは、贅沢を言うな」
ノワールが儂の刀を受け止めた剣は今は行方不明となっていると聞く最高峰の人造霊装だった。これなら、武器が壊れる心配はいらない。
「少しペースを上げるぞ」
「好きにしろ」
好きにしろと言われ儂が繰り出すのは一呼吸の隙さえ与えない高速連撃。普通なら数秒保てば達人のレベルだがノワールは儂の連撃を完璧に対処して見せる。
だが、そんなことは初めから分かっていた。驚くべきはその剣技の方だ。
「その剣技、お主は我流だな?」
「あぁ、生憎と良い師には恵まれなかったからな」
「お主、何年生きている?」
「何故そんなことを聞く?」
儂の問い掛けに首を傾げるノワールだったがこんな剣技を見せられては年齢くらい聞きたくなると言うものだ。本来、我流の剣とは派生や複合であることが多い。
剣には様々な流派があり流派ごとに違った思想と技がある。我流とは、既存の流派に囚われない、或いは上手く適合出来ずに原型となる部分だけ取り入れて自分なりに進化させることが殆どになる。
たまに実戦でのみ磨かれた本物の我流も見かけることがあるがそれも戦った相手の技を模倣することが多く、様々な流派を知る者から見れば歪な流派の複合型で終わるケースが大半だ。
それなのに、ノワールの剣技は我流として完成されている。ノワールの剣技から感じ取れるのは歴史と研鑽ではなく、ノワールの戦歴そのもの。少なくとも、三百年は生きてないとこんな我流は生まれない。
「お主の剣から感じる厚みが儂以上にあったのでな。少なく見積もっても三百年は生きてるのではないか?」
「恐ろしい程の感性だな。まぁ、否定はしない」
互いの剣と刀が衝突を繰り返し一進一退の攻防を続ける中で儂とノワールは言葉を交わす。戦闘という一側面だけを見るなら不要なやり取りだが互いを知るには悪くない。
もっと続けていたいと思える程に心地の良い剣戟だったが、儂もノワールも目的を忘れた訳ではない。互いが敵である以上、引き際を見誤ることはしない。
「そろそろ潮時か」
「そうだな、既に他の戦場は決着が着きつつある。こちらも遊びは終わりにしよう」
遊びは終わり、となれば後は霊装同士のぶつかり合いになる。刀を交えた儂の直感を信じるならノワールは霊装解放の先、神装解放を使える。そうでなければ、グランドクロスなどという組織をまとめ上げることなど出来ない。
恐怖による支配などという陳腐なことをする奴でないことは分かっている。それでも、グランドクロスのリーダーが霊装解放レベルで収まる器な筈もない。
「儂の霊装はこの刀で能力もよく切れるだけのものだ。お主は?」
霊装には種類があるが神装解放へと至っているのなら間違いなく超大規模な集合型の霊装の持ち主なのが察せられる。つまり、歴史の中で多くの人間が死の間際に祈った願い。
「
互いが霊装を使用したことで、儂とノワールの攻防はさらに激しさを増していった。
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