第147話 突然の乱入者
「
「これは長期戦は無理そうだな」
その反面、
「
「英雄斬、手応えはあるな」
周囲に残った瓦礫を吹き飛ばし暴風を巻き起こしながら俺と父さんは互いの武器をぶつけ合う。力は互いに拮抗していて、それが今の父さんがどれだけ規格外な存在にされたのかを物語っていた。
無理をして力を引き出している俺に対して長期戦にも対応して作られたであろう父さんの霊装の組み合わせは一見すると相性が悪い。事実、何度も武器を交えているがこのまま行けば先に体力を使い果たすのは俺の方だ。
「霊装にも優位が取れるなら先に限界が来るのは俺でも父さんでもない。その斧だ」
真価の一端を発揮した
「英雄連斬」
「
「五十六回の斬撃の内命中が五回、やっぱりそう簡単には行かせてくれないか。けど、剣の方は壊れてくれた」
俺が英雄連斬で放った五十六回の斬撃の内、父さんに命中したのはたったの五回でそれ以外の攻撃は全て剣によって防がれてしまった。その点は流石と言わざるを得ないが、これで剣も完全に使い物にならなくなったのは大きい。それに、
「傷口が塞がってない所を見るにこのオーラは再生の阻害と防御貫通効果もある感じか」
未だ俺が付けた斬撃の傷が塞がっていないあたり、この青いオーラの全ての優位を取るという性質には一部の霊装の能力を無効化する力も備わっているらしい。そこまでの思考に至った所で俺は即座に思い付いた最適解を試みた。
「武器がなくても防ぐくらいは出来るでしょ。英雄拳」
「
「予想通り、直接オーラを流せばダメージ箇所の再生は妨害出来る」
両腕を交差させ複数の霊装を併用し防御体制を取る父さんに俺の青いオーラを込めた拳が炸裂する。流石に腕をもぎ取ることは出来ないし、身体能力の高さ故か大きく吹き飛ばされる様子もない。だが、打撃箇所への一時的な再生能力の阻害には成功していた。
その証拠に攻撃直後には外傷が見られなかった腕が時間経過と共に徐々に崩壊し始めている。
「その身体能力を支えているのは自壊速度を上回る再生能力。なら、その再生能力を阻害すれば先に体が壊れるのは自明の理だ」
「
「逃すと思う?英雄連撃」
背中からオーラの翼を生やして逃げようとした父さんに対して一瞬で距離を詰めた俺は体術による連撃を仕掛ける。父さんの自壊を狙うなら線での攻撃が主体となる剣術よりも面での攻撃が出来る体術の方が有効的だ。それに、他にも有利な点がある
「この距離なら武器の展開は出来ない。それに父さん、実は体術の方は得意じゃないでしょ」
ここに来て戦闘の中から発見出来た父さんの弱点。それは最も厄介だった父さん本来の霊装解放である
「俺の英雄連斬と打ち合った剣術は素晴らしいの一言に尽きた。剣術なら
斧の方が十数回の衝突で壊れたのに対して剣の方は五十回以上の攻撃を防いでいた。これは武器の耐久値による差ではなく攻撃の受け流しや捌きの技術によるものだ。武器の質量や形状によって多少左右されることはあってもここまでの差が生まれるのは技術の差が大きい。
「腕の崩壊は既に深刻で例え武器を出しても本来の力は発揮出来ない。それでも、崩壊速度からして先に力尽きるのは俺の方か」
再生能力の阻害には成功しているがそれでも完全無効化ではない以上打撃回数の少ない箇所は徐々に再生を始めている。何より、負債を反転させる霊装の能力によって自壊が緩和されているのが地味に痛い。それさえなければ父さんの体の方が先に崩壊する。
「やっぱり、霊核を壊さないことには始まらないか」
「
「くっ、流石に防戦一方にはなってくれないか」
面倒な他の潰しやすい霊装から潰すという選択肢も無い訳ではないが相手に深傷を負わせる攻撃をするということはそれだけこちらも隙を晒すということだ。この優位に進めれている現状を壊してまでやることではない。
「狙うは左肺、身体強度からして打撃系は有効打にならない。けど、剣を抜くために距離を離せば今の優位は消える」
距離を離すのは得策とはいえない。そうなると取れる選択肢は自然と絞られていく。
「悪いけど、今の俺の手刀なら霊装さえも貫ける」
攻防の中で動きを誘導し隙を作ってから俺は完璧なタイミングでの手刀による突きを決める。鋼のような頑強さを誇っていた肉体はあっさりと貫かれ俺の右手からは霊核が消滅した感覚が確かに伝わって来た。
「度重なる打撃の蓄積によって既に再生能力は半分も機能していない。その状態で負の効果の反転が無くなれば崩壊まで一分と持たない」
これで決着は付いた。その確信と共に父さんの左肺を貫いている腕を引き抜こうとした所で俺はここに来て自分が犯したミスを悟る。
「くっ、抜けない」
「
恐ろしいほどの身体能力を総動員した締め付けによって俺の右腕が完全に拘束されてしまう。伝わってくる力の感じからして今の身体能力ではどう足掻いても抜け出すことは出来ない。
そうして俺が
「俺を道連れにするつもりか。最後の最後で騎士らしい行動を取るなんて本当に皮肉が効いてる」
そう言いながら俺は再び展開された斧が振り上げされるのと同時に空いている左手に力を込め手を手刀の形にする。少し勿体ないが即座に右腕を切断して父さんを蹴りこの場を離脱すればそれで俺の勝ちになる。
「
父さんの斧が振り下ろされるよりも早く俺が腕を振り下ろそうとした時、俺は少し離れた場所から突然感じたことのある霊力を探知したことで振り下ろそうとしていた左手を止めた。
「霊装解放、
「これは、ギルガイズの霊装解放」
見覚えのある、嘗て俺の左腕を消し飛ばした漆黒の球体が今度は父さんの左腕を霊装ごと消滅させた。それが留めとなったのかは分からないが俺の右腕を拘束していた力が弱まり父さんの体が本格的に崩壊し始めたのが分かった。
ボロボロとなって崩れ去る自身の肉体を見ても父さんは声の一つも発しない。最後まで俺を息子として認識することなくグランドクロスの操り人形として二度目の死を迎えた。
「どういうつもりだ?ギルガイズ」
完全に消滅した父さんから視線を外し俺はギルガイズの方に向き直り、そう問いを投げた。
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