第101話 理不尽な鬼神
「随分と凄いことやってるな二人とも」
みんなを倒して体育館へとやって来た俺を待っていたのはこれ以上ないほどの絶技の応酬だった。
互いに何十手も先を読み見ている限り殆ど理想的な返ししかしていない。タロットの
「やっぱり、経験の差はあるか」
もしこれが剣舞際などの大会だったら二人の実力は互角と評されていただろう。けど、ルール無しの戦闘ならば間違いなくマサムネの方が上だ。現に、マサムネは俺の存在に気付いているようでタロットの位置を俺が見えないように誘導しているがタロットはその意図を図りかねている。
さて、ここからはどうしようか。正直な話ここで二人の戦いに割って入るのは気が進まない。マサムネも楽しんでるようだしタロットの成長の機会を奪うことにだって成りかねない。
「でも、一対一だけ強くなっても意味ないからな」
今俺たちがやっているのは騎士ごっこであり、もし現実で今と同じような場面が出来た場合は間違いなくタロットに奇襲を仕掛けるのが俺にとっての正解だ。
元々この合宿の始まりはタロットに実戦経験を積ませることだったしこの際だから俺はとことん卑怯に行くとしよう。
「良し」
取り敢えず、タロットに気付かれないように敵意を隠しつつ筋肉の動きでマサムネにこれから何をやるのかを伝える。しっかりと俺の意図を汲み取ってくれたマサムネが鍔迫り合いの後一度距離を空けてくれたのでそこで仕掛けることにする。
「韋駄天」
「えっ?」
マサムネに意識が行っていたせいか俺は簡単にタロットの背後が取れたのでそのまま顎に掌底を放ちタロットの意識を刈り取ることに成功した。
「ごめんね、つい楽しくなって長引いちゃった」
「別に構わない。それよりも早く地下室に向かおう」
「そうだね、ロゼリア先生が来たらどうせ宝どころじゃなくなっちゃうし急ごっか」
あと騎士サイドで残ってるのはクロウくんだけか。俺とマサムネならロゼリアさんが来る前に宝を盗み終わることは出来るだろう。
「へぇ、作戦は知ってたけど実際にやられてみると面倒そうだね」
「そうだな、合宿場に居る人間の避難が終わってる前提ならソフィアさんもこっちに回した方が良かったかもしれないが」
「そこら辺は遠距離型の強みだよね」
現在、地下へと繋がる通路を歩いている俺たちは壁や床に張り巡らされている薔薇の茎を見てお互いの感想を言い合っていた。
向こうの作戦としては身動きのし辛い狭い通路の中でクロウくんの霊装と戦わせようという感じだろう。本体を倒さない限り無尽蔵に湧いてくる薔薇の茎を相手にしなければならないのは騎士サイドの安全面を考えても、時間稼ぎという観点からも素晴らしい作戦と言える。
ただ一つ惜しいところがあるとすれば敵の実力を見誤っている点だろうか。
「レイド、そろそろ来るから僕の後ろを歩いてね」
「分かった。ここは任せる」
薔薇の茎による感知なのか俺たちの存在を把握したらしいクロウくんは遠隔で一気に薔薇を暴れさせ始める。
「一応、後ろからのは俺が斬ろう」
「了解。歩くペースはそのままで良いよね」
「そうだな、手間取るようなら走って向かおう」
俺たちが会話をしてる間にもクロウくんの薔薇の茎は俺たちを挟み込むようにして押し寄せてくる。強度的に壁を壊すことは可能だろうし一応三方向の警戒はしておこう。
「神域抜刀」
「剣王連斬」
思いの外薔薇の茎の強度が高いが斬ること自体は出来るので問題なく進める。
「向こうは建物を壊せないから火力不足みたいだね」
「相手が俺たちだからと言いたい所だけどグランドクロスにはもっとヤバい連中がゴロゴロ居るからな」
「そんなにヤバいんだ。なら、もう一度攻めて来てくれないかな」
不謹慎を軽く飛び越えた発言だがマサムネが解決してくれるのなら文句はない。
「神器がないと標的にはされなさそうだな」
「あぁ、学園にあったあの杖ね。けどさぁ、あれに世界を征服出来る力なんて感じなかったんだけどなぁ」
「そこは俺も疑問に思ってた。ギルガイズを送ってくるあたり神器の回収は割と本気だろうがその使い道までは見えて来ない」
純粋な戦力アップの為の武器なのか、あるいは何かの儀式に使われるものなのか、現段階では判断が付かない。
「おっ、そろそろ地下室みたいだね」
「もう着いたのか。なら、韋駄天」
地下室はバラの茎を伸ばすためか初めから扉が開いてたので俺は韋駄天ですぐさま部屋に侵入してタロットさんと同じ要領でクロウくんの意識を落とすことにした。
「手慣れた手際だね。暗殺者の方が向いてそう」
「本職と比べたらまだまだ見劣りするさ」
少なくともベルリアに比べればまだまだ甘い。
「それで、宝を奪った後はどうする?俺としては罠の一つでも仕掛けて置きたい所だけど」
「この短時間で罠となると人質を取るか、ロゼリア先生が入ってきた瞬間にこの合宿場を壊すとかくらいかな」
「後者は流石にやめとこう。どうせ無傷だろうし意味がない」
「だね。取り敢えず屋上からロゼリア先生が来るのを待とうか」
それからしばらくロゼリアさんへの対策を講じていた俺たちは明らかにヤバいオーラを放っている人物の接近に時間が来たことを察した。
「初めから霊装を使用してるのか」
「まぁ、当然の反応だよね」
設定上とはいえ俺たち二人はここを襲撃して宝を奪った犯罪者だ。何が起こるか分からない現状で霊装を使用したまま来てもなんらおかしいことはない。
「マサムネ、あれを」
「了解。派手に飛ばしちゃってね」
「もちろん、全力でやるさ」
そう言って俺がマサムネから受け取ったのは人間の首くらいの太さがある三メートルくらいの棒だ。棒は屋上に刺してあったやつでマサムネにより先端は鋭く加工済みだ。
中まで鉄が詰まってるのか握り込むとミシミシと音がするが気にせず俺は棒にも
「行くぞ、投擲!」
文字通りの全力で一見回避不可能に見える投擲に対してロゼリアさんは確かに回避をしなかった。そう、出来なかったのではなくしなかったのだ。
「随分な挨拶だなレイド。だが、私にその距離から攻撃をするなら最低でも亜音速は必要だぞ」
その気になれば音速でも余裕で回避出来るくせに良く言う。だけど、本番はここからだ。
「そうみたいですね。真斬!」
「良い斬撃だな。柏手」
「うわ〜、レイドの真斬を拍手の衝撃波だけで消すとか」
真剣白刃取りの要領で俺の真斬に拍手を合わせロゼリアさんはそれだけで真斬を掻き消してしまう。
「あれに近づきたくはないな」
「同意だね。しばらくは遠距離攻撃に徹する?僕は役に立たないけど」
確かにマサムネの作戦も悪くない。あれに近づくくらいならまだ遠距離戦に徹した方が利口と言えよう。けど、その場合は俺たちも有効だがないし何よりロゼリアさんが遠距離戦の対策をしてないとは思えない。
「どうした?来ないなら今度はこちらから攻撃するぞ?」
そう言うとロゼリアさんは右手を上げ掌を少し丸めて何かを掴むような動作を見せる。
「ッ!レイド一旦退避しよう。空気の弾が飛んで来る」
「分かった」
「良い判断だ。だが、この私から逃げられるとでも思っているのか?空気弾」
ドカァン
ロゼリアさんの攻撃を察してすぐに後ろへと後退した俺たちが目にしたのはさっきまで居た場所の地面が吹き飛んだ光景だった。
「やはり、空気は二次被害が出なくて良いな。さぁ、どんどん行くぞ」
「ねぇレイド、あの人合宿場への被害とか考えてると思う?」
「割と人命優先な人だからな。逆に建物なんかは建て直せば良いだろうとか思ってるんだろ」
「これは大人しく外で戦った方が良さそうだね」
「あぁ、だが今は逃げることだけ考えよう」
それから俺たちは騎士ごっこというよりも鬼ごっこのように合宿場内を走り回ることになった。
当然普通に走るだけでは追いつかれてしまうので床を踏み砕いたり壁を叩き壊したりと割とやりたい放題やってなんとか逃げ回っている。
「レイド、次に床を砕いたらダミーでもう一度真下に床を踏み砕いてその音に紛れて外に逃げよう」
「分かった」
こういう時マサムネの霊装は便利で助かるな。身体強化系のロゼリアさんでは俺たちの正確な位置を把握することは出来ない。だが、マサムネの霊装ならこちらが一方的に情報アドバンテージを握ることが出来る。
「レイド、建物に掛けてある金剛は解いて良いよ。あれだけやれば崩壊するだろうから」
その言葉だけで俺はマサムネの作戦を瞬時に理解した。実は鬼ごっこで壁や床を壊した時に万が一にでも建物が崩れないようにと予め金剛を合宿場全体に掛けておいたのだ。
そしてマサムネの見立てでは金剛を解いた瞬間にこの建物は崩壊するのだろう。だが、一つ問題がある。
「クロウくんとタロットは置いたままだけどどうする?」
「それは騎士の役目でしょ。僕たちは犯罪者なんだから気にしなくて良いよ」
「それもそうか。なら、足止め目的ということで一応警告はしておくか」
流石に初めの合同合宿で相手学園の生徒が死亡したとなっては不味いので忠告だけはしておこう。
「ロゼリア先生。これから建物が崩壊します。宝物が置いてあった地下室にクロウくんが居て、体育館にはタロットが居るので助けてあげてくださいね。金剛解除」
俺が金剛を解除するのとほぼ同時に合宿場は音を立てて崩壊した。
「マサムネ、中の様子はどうなってる?」
「レイド、向こう見て」
「マジか」
ちゃんと生き埋めになっているのかという確認のつもりでマサムネに問い掛けてみたのだがマサムネの指差した方向にはまさにその答えがあった。
今さっき建物が崩壊したばかりだというのに中に居た筈のロゼリアさんは少し服が汚れているものの無傷でクロウくんとタロットの二人を脇に抱えて既に脱出している。
「随分と派手なことをしてくれるな。私を信頼してくれているようで何よりだ」
そう言うとロゼリアさんは二人のことを床に置いて大きく深呼吸をする。この感じは凄く嫌な予感がする。
「そういえば、マサムネは既に霊装解放を使っているようだな。それに加えて二対一とはいささか部が悪いかもしれないな」
「レイド、対処間違えたら死ぬから気を張ってね」
「そっちこそ、身体強化ないんだから一撃も喰らうなよ」
軽口を叩き合いながら俺とマサムネはロゼリアさんから距離を取る。もちろん、霊人化を使うことも忘れない。
「やる気があるようで大変よろしい。霊装解放、
そうして顕現したのは三本角の鬼神。纏うオーラは破壊神のそれだがどこか神聖さも感じさせる。だが、呑気に観察してる暇なんてある訳がない。
「韋駄天、破極流奥義、
先手必勝と言わんばかりに一瞬でロゼリアさんとの距離を詰めた俺はどうせ斬撃は効かないだろうと破極流の奥義を全力で放つ。
だが、手から伝わってくる肉の感触が目の前の化け物が化け物たる所以を嫌と言うほど伝えてくる。
「なかなか良い連打だな」
「内部破壊も聞かないのか」
「私の内臓はそんなに脆くはないぞ」
レイラさんの場合は動物と同じで皮膚が強化されていたから内部破壊は有効打たり得た。だが、ロゼリアさんの場合は内臓まで強化されてるせいか内部破壊が全く効いていない。
「レイド」
「分かった」
今更考えてる暇なんてない。マサムネの声で次の行動を予測した俺はロゼリアさんの背後へと回り腰に刺してあった陽無月を抜く。
「明解」
「絶剣」
マサムネは右脇腹を、俺は左肩をそれぞれが放てる最高の斬撃で攻撃するもロゼリアさんは無抵抗のままそれらの攻撃を受け入れた。
そして、
「まぁまぁだな、僅かにでも私に傷を付けたことは賞賛に値する。まぁ、斬られたのとほぼ同時に再生してしまったがな」
実質無傷で俺たちの攻撃を受け止められた。それも一切の防御動作を取ることもなく腕組みをしたまま。
「そろそろ終わりにするか。宝物は返してもらうぞ」
その後、デコピン二発で戦闘不能にされた俺たちは世界の広さを思い知ったのだった。
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