第100話 マサムネVSタロット
「レイドの方は面白いことになってそうだなぁ。僕も楽しめると良いんだけど」
レイドと別れてから僕はタロットさんの元へと向かった。向こうの作戦では僕のことをタロットさんが足止めをしてその間にレイドを全員で足止めするらしい。
この作戦を考えたのはフレアさんみたいだけどなかなか良い配置だと思う。今現在、僕のことを足止め出来るのはレイドかタロットさんだけだしレイドは露骨な手加減はしないけど格下に対する様子見の時間が長いから万が一にでも僕が負ければ形成はひっくり返るかもしれない。
「まぁ、あり得ないか。そんなこと」
初見だったのならともかく僕の前でレイドと戦ったのは致命的だった。既にタロットさんの分析は済ませてある。自我を持ったことで多少の差異はあるだろうけど誤差の範囲だ。
「お待たせタロットさん」
「いえ、わざわざこちらの誘いに乗っていただき感謝します」
レイドとレイラ先生の戦いによってボロボロになっている体育館の中央でタロットさんは正座していた。グランドクロスなら姿すら見せずに体育館ごと壊すだろうけど僕はそんな無粋な真似はしない。
「もしかして、リベンジマッチのつもり?」
「そうですね、霊装解放に目覚めた今の私なら貴方を抑えられます。存分に斬り合いましょう」
僕みたいに使いこなせるならまだしも、ただ使えるっていうだけで同格になったみたいな言い方はやめてほしいなぁ。使いこなすの意味くらいレイドを見てれば分かるだろうに。
「レイドのライバルである僕に勝てるとでも?」
「師匠を超えるのが弟子の役目。ならば、貴方を倒すのも必定です」
「そう、まぁ頑張ってね」
一度挫折を味わい霊装解放へと至った君に再び挫折を与えたらどう成長するのか少しだけ楽しみではある。剣の才能だけを見るなら格上の存在、そんな相手に勝ってこそサムライの強さが証明出来るというものだ。
「では、行きます。
「僕は既に霊装を展開してるからいつでもどうぞ」
「はい、そのつもりです」
霊装解放を使ってこないところを見ると本当にリベンジマッチをしたいらしい。でも、それはそれとして確かにタロットさんからは成長を感じられる。
「道刃」
「良い一撃だね、それに今のは霊装の能力じゃないでしょ」
「流石ですね。正解です」
斬撃を飛ばす技、それは本来なら霊装の能力として存在すべきもののはずだけどここは素直にタロットさんの実力を褒めるべきだろう。
レイドの場合は
イメージとしては剣の刃で空気を掴みそれを投げつける感じだろうか。流石に俺でも即興で真似出来るかどうかは分からない。俺の霊装の能力はあくまで分析と理解でありその延長として体を自在に扱うことが出来るというものだ。完全にセンスがものを言う技は再現が厳しい。
「霊人になって私は一つ気付いたことがあります。それは私の霊装の能力が歴代の剣士たちの技の再現ではなくあくまでも劣化コピーだということ」
「へぇ、あれで劣化なんだ」
タロットさんの
思えば、剣舞際でレイドと戦った時と昨日俺と戦った時とでタロットさんの技量は向上していても霊装の能力である六つの技は大して成長してないように感じた。
「はい、そしてこれは私の推測ですが
「まぁ、後世に受け継ぐことを目的にしてるんならそう言うこともあり得るか」
なら、その技量の高さを証明してもらおうか。
「行くよ。瞬光五化閃」
「流水」
流石にこれくらいは相殺してくるか。霊人になったことで技量も上がったと見える。
「天断」
「微風」
「ぐっ、」
やっぱり、剣の才能はあっても戦闘の才能はそこまででもないな。今の一連の攻防で霊装解放を使っていないタロットさんの底はなんとなく分かった。
上段から振り下ろされた天断は確かに凄かったけどそれを受け流し同時に蹴りを放てばたちまち対処出来ずに吹き飛んでしまう。
典型的なスペシャリストの弱点。一芸に特化しているが故に他の分野へと理解が浅く得意を封じればあっさりとやられてしまう。僕みたいに霊装で他の分野を理解できれば対処も出来るけどタロットさんにそれはない。
「レイド師匠と言い、どうしてこうも戦うことに慣れている人ばかりなのでしょうか」
「それは僕とレイドが特別なだけだよ。少なくとも、僕はレイドと違って凡人だから」
「嫌味ですか?」
「事実だよ」
天才の君には理解出来ないだろうね。いや、天才でない優秀な人間だってきっと理解は出来ないだろう。僕の強さの根幹にあるものは才能でも努力でもない経験だ。それも戦闘の経験ではなく挫折と苦悩の経験。
一度、底辺を味わった人間は多少のことでは動じない。敗北をすればすぐに次に活かそうとするし、戦況が不利になっても焦って自滅することもない。だって、それは当たり前のことだから。
「弱さになれると意外と楽だよ」
「生憎ですが、私は強くありたいので」
「じゃあ、僕に勝たないとね。超速抜刀」
「身体能力の差が少ない分、受け止め易いですよ」
これも対処されるか。確かに、僕とタロットさんの間にある最も大きな差は経験と才能。僕は多くの経験から戦況を進め優位に立てるけど、タロットさんはその才能で着実に僕を追い詰めてくる。
普段は力技に対処する方だけどこういう純粋な技量勝負も悪くない。
「六九六」
「神域抜刀」
流石に手数が多いな。なら、小細工を使わせてもらおうか。
「一刀表裏」
「くっ、」
「やっぱり、タロットさんは普通の剣術にしか慣れてないみたいだね」
タロットさんの技量の凄さは十分に分かったけどそれは相手も剣術の土俵に居ればこそのものだ。
「そのようですね。明確に一撃を喰らってしまった以上、ここからは本気で行かせてもらいます」
「そっか、じゃあ僕も本気で相手してあげる」
その言葉を合図に僕たちは互いに距離を取り剣と刀を構え直す。ここから先は霊人同士の戦闘だ。同年代の霊人相手に僕の力がどこまで通用するのか試すのにこれ以上ない絶好の機会だ。
「一つだけ忠告をさせてください」
「ん、何かな?」
「私が自我を失うことはもうありません。変な期待は捨ててください」
「別にそんな期待はしてないよ。どうせ僕が勝つから」
寧ろ、未熟な精神なら自我がない方が脅威になることもある。まぁ、どっちにしても僕が勝つことに変わりはない。
「では、行きます。霊装解放、
「やっぱり、雰囲気からして別物だね。じゃあ僕も霊装解放、
互いに霊装解放を使ったと言うのにお互いに動きはない。そして、タロットさんからは剣ではなく言葉が先に放たれた。
「これから戦う貴方には私の剣の答えを伝えようと思います。一剣士として貴方の意見も聞かせてください」
「良いよ、そう言う議論は僕も嫌いじゃないからね」
剣の答え、それは並の剣士が生涯を掛けて探し求め死の間際に感じる果てのこと。十六歳と言う若年にしてもうその答えを知ったのなら是非とも聞いてみたいものだ。
「私にとって剣とは道具です。使い手によって如何様にも在り方を変える道具。これが私の今出せる答えです」
道具か、確かにその通りだ。その意見には僕も全面的に賛成しよう。けど凄く気に食わない。
『ねぇ師匠。師匠にとって刀って何なの?』
『ははっ、随分と難しい質問をするなマサムネ。そうさなぁ、儂にとって刀とは道具かのぅ。使い手次第で如何様にも化ける最高の道具。だからこそ、使い手たる儂らは刀に寄り添い理解して使いこなしてやらねばならない。まぁ、お前も一流になればいずれ分かるじゃろうな』
その年で師匠と同じ答えに至った君が少し気に食わない。それに、その答えに至っているのなら振るう剣の型も既に決まっているのだろう。
「次の言葉は無型の剣かな?」
「ッ!よく分かりましたね。もしや、マサムネさんも私と同じですか?」
「いや、僕はまだ迷い中だよ。だから、最適解で行かせてもらう」
「ふふっ、それは楽しみです」
俺も楽しみになってきた。それでも、騎士サイドとしてタロットさんが僕に勝てないのは既に決まっている。最高の技量を手にしたタロットさんと未来すら見通せる分析力を持つ僕が戦えば最善手の応酬で決着は相当長引いてしまう。
レイドなら、それだけの時間があれば皆を倒してここまで簡単に来れるだろう。
「さぁ、思う存分斬り合おうか」
レイドが到着するまでは相手をしてあげるよ。
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