第102話 合同合宿終了
「なぁ、あんたはんら何考えとるん?」
騎士ごっこが騎士サイドの勝利に終わり各々の課題も見えてきた現在、俺、マサムネ、ロゼリアさんの三人は青空の元外で正座させられていた。
「合宿場が壊れたらもう合宿できんのやけど」
そう、正座させられている俺たちの後ろには壊れたというより崩壊した合宿場だったものがあり、人的被害は出ていないものの合同合宿は完全に休止の流れになっている。
「まぁ待てレイラ。この二人はまだ騎士見習い、若気の至りと言うやつさ。多めに見てやろう」
俺たちと並んで正座させられているにも関わらず教師目線で場を取りなそうとするロゼリアさんに当然レイラさんは目を細め威圧を放つ。
「散々壁をぶち壊しておいてよう言うわ。二人も何か言い訳があるんなら聞くで、どないする?」
言い訳か。ここで言い訳を口にしてもあまり意味もない気がするがせめて弁明だけでもしておこうか。
「一応、俺は合宿場にでる被害を抑える為に金剛で合宿場の強度を上げてましたがマサムネの指示でそれを解いた瞬間崩壊が始まりました」
嘘は言ってない。俺は確かに合宿場全体に金剛を使用して合宿場の崩壊を防いでたし、それを解くように指示をしたのはマサムネだ。
「う〜ん、ここで嘘をつかない辺りはレイドらしいんだけど僕を売るのはどうなのかな?」
「なんや、マサムネはんも言いたいことがあるなら言ってみ」
「なら、僕たちはまだ学生ですし合宿場を壊すなって説明はされてませんから今回の件は二人の監督不行届ということで二人で反省会でもしてください」
おぉ、まさかロゼリアさんだけでなく無関係というか被害者でもあるレイラさんにまで罪をなすりつけるとは大胆なことをするな。
まぁ、どうやらそれは地雷だったようだが。
「随分と舐めたこと言ってくれるなぁ、三人とも覚悟はできとるんやろなぁ」
何故か標的がマサムネだけでなく俺たちにまで向けられているが今さら反論しても意味はないだろう。だが、そんな空気を読まずにロゼリアさんが発言をする。
「レイラ、今回の騎士ごっこの目的はより実践的な訓練をすることだ。その点を鑑みれば合宿場を使った生き埋め作戦も決して悪くはなかった。そもそも怒るところがないだろう?」
お前は何をそんなに怒っている?とでも言わんばかりにロゼリアさんが反論を口にする。一見正しいように聞こえるのはどういう原理なのだろうか。
「そもそも、そんな物騒な訓練をここでやるなっちゅう話や」
「文句なら初めのうちに言え。問題が起きてから私は反対だったなど通用せんぞ」
あれ?なんかロゼリアさんがレイラさんに説教をしてるような構図になってるんだけど俺の気のせいか?
「ロゼリアはん、本気で黙らんと無理矢理口閉じさせることになるで」
「自分が不利になったから力技に出るのか?まぁ、私は構わないがな」
「言うたな、後悔しても知らんで」
売り言葉に買い言葉といった様子で二人の口論はどんどん物騒なオーラを帯びていく。なんとなくロゼリアさんからはどうせ合宿場は壊れたし別に良いかという思いが透けて見える気がする。
「やるならやろうか、レイラ。久々にお前と遊ぶのもありだ」
「思い上がるなや鬼神、器用に技が放てるうちと被害を考えて力をセーブするロゼリアはんでまともに勝負が成り立つとでも?」
「無理だろうな。小細工しかできんお前では私は倒せない。せっかくの機会だ、お前たちもこの戦いを見て強さとは何かを学ぶと良い」
「せやな、レイドはんにマサムネはん、この脳筋の封殺の仕方を教えたるからよう見とき」
始めの説教をする雰囲気はどこへ行ったのか。気付けばロゼリアさんもレイラさんも完全に戦闘をする流れとなり俺とマサムネ以外のみんなも観戦しようと近付いてくる。
「面白そうだけど、少し離れようかレイド」
「そうだな、あれに巻き込まれるのは流石にごめんだ」
鬼神と九尾の小競り合い。それは巻き込まれるだけでタダでは済まないことを二人と戦った俺ならよく分かる。
「
「
「さぁ、存分に」
「させないよ」
「「「「「ッ!」」」」」
突然、背後から発せられた声に振り返るとそこには見知らぬ人物が立っていた。青い髪に青い瞳、銀色の鎧はどこか騎士を連想させられる。
「マサムネ、どう見る」
「かなりヤバいよ、アレ。少なくとも僕たちじゃあ束になっても勝てない」
雰囲気から大体察しは付いてたがマサムネがそこまで言うほどか。でも、皆の反応を見るに敵とは思えない。口元を押さえて固まってるフレアさんたちからは驚愕の色が強いが敵意は一切感じない。
「お前がここにいるとはな、どう言う了見だ?」
「ロゼリアはんの暴走を察知して来てくれたんか、なら歓迎するで」
「相変わらず二人は仲が良いな。俺は近くを通ったらロゼリアの霊装解放の気配を感じてね。少し様子を見に来たんだ」
ロゼリアさんもレイラさんも普通に話してるってことは敵の可能性はほぼゼロになったな。それはそれとしてあの二人と対等に話せると言うことは聖騎士教会の中でもかなりの上澄み。いや、もしかすると。
そこまで思案するが俺の知りたい男の正体は意外にも近くに来ていたフレアさんの口からあっさりと言われてしまう。
「何故、ここにいらっしゃるのですか。ランスロット様」
騎士王ランスロット、聖騎士協会が誇る最高戦力にして若くして騎士王の称号を手にした歴代最強の騎士。
「そう畏まらなくても良いよ。今日の俺はただのランスロットだからね」
俺とマサムネはなんとも思わないが流石に騎士を目指している騎士見習いの皆に畏まるなは無理があるだろう。
「さて、俺は本当にちょっと寄っただけだからもう行くけど、二人とも喧嘩はだめだよ」
「善処する」
「まぁ、気をつけるわ」
「それなら良かった、じゃあね」
それだけを言い残して本当にランスロットさんは何処かへ行ってしまった。
「興が削がれたな。各々反省会でもしながら時間を潰してくれ。私は上への報告と馬車の準備をする」
「うちも、少し外すから皆で合宿の振り返りでもしとってな」
そうして、取り残された俺たちは大人しく反省会をするのだった。
◇◆◇◆
「それでわざわざお前が来るとはどう言う要件なんだ?」
「余程のことなんやろうねぇ」
生徒たちと離れた私とレイラは軽く帰りの馬車の手配だけを済ませ再びランスロットと合流していた。
普段から任務で忙しいはずのこいつがわざわざ私たちを訪ねて来たんだ。何かあるに決まっている。
「話が早くて助かるよ。実はグランドクロスが本格的に動き始めてね。ペア帝国が落とされた」
「「ッ!」」
ランスロットから放たれた言葉に流石の私でも驚いてしまった。確かにあれは一国を攻め落とせるほどの戦力を有している。だが、本当にそれが出来るのかはまた話が変わってくる。
「詳細を聞かせろ、ランスロット」
「冗談やないんやろうねぇ。ほんにやってくれおるわ」
五カ国同盟の一つであるペア帝国が落とされたことはすなわち我々に対する宣戦布告を意味する。そうなると問題となるのが奴らの戦力についてだが嫌な想像が出来てしまった。
「まず、彼らが今回の行動に出た目的は二つ。一つ目は本格的な拠点作りだ。これまで様々な拠点を転々としてた彼らだが国一つを拠点とするのならその難易度は跳ね上がる。特にジャポン同様島国でもあるペア帝国は地理的にも攻め込み辛い」
拠点作りの為に国一つを落とすなど前代未聞も良い所だが既に奴らはその段階まで進んだと言うことか。だが、問題なのはそっちではない。
「民はどうなった」
「嫌な予感しかせえへんなぁ」
「恐らく二人の予想は当たってるよ。奴らがペア帝国を落としたもう一つの理由、それは戦力増強のためだ」
本当に胸糞が悪い。ただ、ペア帝国の連中を寝返らせ部下にするのならまだ許せる。だが、それはない。グランドクロスのリーダーであるノワールはそんな温い奴ではない。
「インサニアシリーズか」
「そう、今の所インサニアシリーズのことで分かっているのは四つまでの霊装を所有でき自我をなくす代わりに命令に忠実で薬により身体強化のされた改造人間ということ。そして、その材料が生きた人間であることだ」
以前、我が学園に攻め込んできたインサニアシリーズを調べさせたところインサニアシリーズは量産が出来ないという結論に我々は辿り着いた。
生きた人間を無理矢理一つの体に押し込めるにしても、生きたまま霊核を取り除くにしてもその手術はあまりにも失敗するリスクが大きい。それに加えて自我の消し方や薬による副作用、実戦投入可能かなど諸々を考慮しても一体のインサニアシリーズを作り出すのに多くの屍が必要となる筈だ。
「国民全員、インサニアシリーズにするつもりか」
「奴らならやりかねない。だから二人には少し協力してほしい。来るべき決戦に備えて俺も少し仕上げたい」
「ええよ、その代わりうちの修行にも手は貸してな。最近少しなまっとるわ」
「私も、体を仕上げておくとしよう。ランスロット、適当な無人島を見繕っておいてくれ」
まだ、奴らに若い目を摘ませるわけには行かない。グランドクロス、お前たちが一体誰に喧嘩を売ったのか教えてやろう。
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