第96話 教師の想い
「あ〜、予想以上に疲れてもうたなぁ」
「地獄の業火まで呼び寄せたんだ。無理もあるまい」
「なんや見とったんか?あの子のこと随分と気に掛けとりますなぁ」
レイドとの試合を終えたレイラのことを外で待っていたが予想通りと言うべきかそのまで疲れた様子もない。流石は幻想系の中でも最高峰の霊装使いなだけあって頑丈な奴だ。
「大切な生徒で未来の戦力だ。気にかけるのも当然だろう?」
「せやね、それでうちに何の用なん?」
「まぁ、立ち話もなんだ。生徒らは自主練に取り組んでいる最中だから観察ついでに座りながら話そう」
あまり、誰かに聞かれたい話ではないからな。少なくとも、レイドにはあまり聞かせたくない。
軽く移動をして生徒たちが訓練をしているグラウンドのベンチに腰を掛けてから私達は本題の前の雑談を始めた。
「レイラ、お前は気になる生徒は居るか?」
「そうやねぇ、セイクリット騎士学園の理事長としての立場を考えるならタロットはん。聖騎士としての立場を考えるならレイドはんとマサムネはん。うち個人としてならレイドはんやな」
「そうか、お前らしいな」
タロット・シリウス、剣の一族と称されるシリウス伯爵家の麒麟児にして今日霊人に目覚めたばかりの神童。レイドの弟子ということで私も気に掛けているがレイラが見てくれるのなら道を踏み外すこともないだろう。
マサムネに関しては言わずもがな天才の一言に尽きる。理解という攻撃的ではない霊装を戦闘に転換し活用するサムライ。レイドと同じく未発達な子供特有の精神の未熟さがなく常に飄々としている。強いて懸念点があるとすれば騎士を目指していないことだろうがそれもまたアイツの道だ。既に霊装解放を扱える有能な人材で出来れば騎士サイドに引き込みたいがあの老ぼれに出張られて来ても面倒だから下手に手は出せない。
問題はレイドの方だな。
「なぁ、レイラ。お前から見てレイドはどう映った?」
「そやねぇ、一言で言うなら戦闘を分かってる側の人間やったなぁ。手札の多さ、カードの切り方、最適解への到達の速さ、戦術と戦略の構築、分析速度、およそ戦闘に必要とされとるスキルは全てが一級品やった。あれなら、今すぐに聖騎士クラスになっても問題あらへんなぁ」
実際、未完成とはいえ霊人となったタロットを相手に完封して見せたのだからレイラの評価は何も間違ってなどいない。入学当初から既に上級騎士を倒せる実力を持っている奴が、強敵との連戦の末に研磨されれば強くなるに決まっている。
「では、精神面は?」
「う〜ん、それがなぁ、なんかロゼリアはんが言うほど酷いとは思えんのよ。タロットはんの暴走を止めた姿からは確かに自分のことを大切にしてへんなぁとは感じた。けど、あまり闇を感じへんかった」
「そうか、それは良かった」
レイラは霊装の能力もあるがそれ以上に人を見る目が肥えている。物事の本質を見抜き他人の深層心理を覗き込む。そんな奴からのお墨付きをもらったんだ。レイドは確かに変わっている。
入学前、というよりは私が初めてレイドの家を訪ねた日、アイツは闇を纏っていた。世界に対する絶望ではなく全てに対する諦観、アイツの境遇を考えればそれも仕方がないと考えたが話してみて触れたアイツの本質は無関心だった。
父と妹、それ以外の全てに興味がなくそれ故手段を選ばない。それでも、定期的に顔を合わせる度に私もレイドの変化を感じ取っていた。日に日に闇が薄まっていき壊れた箇所が治っていくような感覚。今間違いなくレイドは人間として成長している。
「なんや、えらい楽しそうやなぁ」
「あぁ、生徒の成長を間近で見れる。本当に教師冥利に尽きるな」
レイドだけじゃない。強さという面では完璧に近いが何処か渇きを持っているマサムネ、真面目であるが故に型にハマり過ぎているフレア、ようやく復讐を終え新たに歩き出そうとしているソフィア、霊装の能力に頼っていた為に自力を上げようと努力しているリリム。
今年は優秀な生徒が集まっている分、皆個性的で育て甲斐もあるというものだ。
「平和とは良いものだな」
「ふふっ、戦闘狂のロゼリアはんがそれを言うん?」
「自覚はしてる。だが、私はあくまで強者との戦いが好きなだけで争いが好きな訳ではない」
「知っとるよそんなこと。だって、その拳を振るうときはいつだって誰かを助ける時やもんね」
あぁ、それでも取りこぼした命のなんと多いことか。
「出来るなら、私一人でグランドクロスを壊滅させてやりたいのだがな」
「無理やろうねぇ。ロゼリアはんにランスロットはん、うちや四聖剣クラスを総動員しても勝ち切れるかどうか」
「全く、厄介な連中だ」
グランドクロス、ノワールをリーダーとした犯罪者組織であり世界征服という馬鹿げた理想を掲げる割にはそれを本当に成し得るだけの戦力を有している集団。いくら歴史を振り返ってもこの規模の犯罪組織は居なかった。
本当に、私が居る時代で良かった。
「それはそうと、そろそろ本題に入ろうか」
「ええよ、それで何が聞きたいん?」
「レイドの霊装について、お前の眼なら分かっただろう」
レイラの霊装解放、
「そうやね、少し変なこと言うようやけど聞いてくれるか?」
「変なこと?まさか、私やランスロットと同系統とでも言うのか?」
だとしたら、私のプライベートを削ってでも稽古をつけてやる必要があるな。まぁ、戦力として考えればこれ以上ないほどに好ましいことではあるのだが。
「それがなぁ、うちもよう分からへんねん。レイドはんの霊装は確かに普通やった。ロゼリアはんやランスロットはんのような集合型やなくて単一型。霊装の願いは恐らく強くなること」
「ならば、何も問題はないだろう」
「それが問題大ありやねんなぁ。何処の誰が願ったんか知らへんけど単一型の霊装のくせに願いの規模が万単位の集合型の霊装と同じだったんよ」
そんなことがあり得るのか?霊装が願いの結晶である以上その強さは願いの大きさによって左右される。当然、願いの強さは人によって様々だがそれを考慮しても一人で万単位の人間の願いと同等の願いをするなど不可能な筈だ。
だが、レイラの表情がそれだけではないことを告げていた。
「まだ何かあるのか?」
「こっちが本命なんやけど、レイドはんの潜在能力がどう考えてもランスロットはんやロゼリアはんを上回っとるんよ」
レイラから告げられた衝撃の真実に私は驚愕した。別に私やランスロットを超える霊装使いが現れることには驚かない。だが、単一型の霊装でそれを成し遂げることがいかに不可能なことか分かる故に私の驚愕もより大きかった。
レイドにはまだ話していないが実は霊装解放には次の段階がある。霊装とは願いの結晶でありその一部を扱い行使するのが霊装を使うと言うこと。そして、大き過ぎる願いを全て完全に使いこなすことこそが霊装解放であり霊人になると言うことだ。
だが、実はその上が存在している。と言ってもそれを使えるのは本当に選ばれたごく僅かな人間だけでありギルガイズや四聖剣の連中も行使することは出来ない。
私の知る限りその力を行使できるのは現騎士王のランスロット、鬼神と呼ばれている私、ジャポンにいる最強のサムライであるルイベルト、この三人だけだ。グランドクロスのリーダーであるノワールももしかしたら使えるかもしれないがそれでも四人。
「レイドは、神装解放へと至れるのか?」
「それがうちにも判断つかへんから困っとるんよ。直接見た感じ、レイドはんの霊装では神装解放は無理。これは断言出来る。やのにそこが見えんかった、深淵やないまるで隠蔽されているような透明で輪郭しか分からん霊装。変な言い方するようやけど霊装が二つある感覚やったわ」
霊装が二つか、全くこれ以上何を抱えるつもりなのやら。まぁ、私に出来ることは導き見守ってやることだけだ。
「一度、私の神装解放を見せるのもありか」
「なしに決まっとるやろ!アンタ、それで前に国一つ滅ぼしかけたこと忘れたとは言わせへんで」
「いや、あれは事故で」
「事故にしたって正拳突きの風圧だけで国を飲み込むレベルの津波を起こすバカがどこにおるんよ。あれで国滅んどったら海に向かって打てば大丈夫言うたうちの責任問題になるんやからな」
「別に良いじゃないか、それを踏まえてランスロットを呼びつけた訳だし」
「はぁ、兎に角絶対に神装解放は使うなや。どうせ、あの実験以降使ってないから出力の調整なんて出来へんのやろ」
「手加減しないといけない場面で使うものではないから良いんだよ」
私も、たまには全力で誰かとやり合いたいのだがな。私が本気を出すと冗談抜きで余波だけで国が幾つか滅ぶからやれて霊装解放までか。
「やはり、国も星も脆過ぎる」
「アンタがおかしいだけやからな」
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