第89話 身体能力測定
「皆集まったな、では説明を始める」
部屋に案内されてからそれぞれの学園の体操着に着替えた俺たちは指示通り体育館に集まっていた。十人全員が集まったのを確認してからロゼリアさんがこれから行われる身体能力測定の説明を始める。
「合同合宿を始める前に皆にはまず互いの実力を把握しておいてもらいたい。その意味合いも込めて初めに身体能力測定を行う。丁度よく各校五名ずつ居るのでまずは違う学園同士でペアを作ってくれ。種目説明はそれからだ。」
これは単に身体能力を測るだけでなくクルセイド騎士学園とセイクリット騎士学園の友好を深めるという意味もあるのだろう。
「レイド師匠!是非私とペアを組みましょう」
「もちろん、寧ろ俺からお願いしようと思っていた所だ」
ペアと聞いて真っ先に俺の方へと駆けてきたタロットの提案に了承の答えを返す。俺としても現在のタロットの身体能力は把握しておきたい。
今回の合同合宿に集まっているメンバーが優秀なこともあってか周りを見れば既に全員のペアが決まっていた。
「良し、ペアは組めたようだな。では早速説明に入るとしよう。今回の身体能力測定ではペアの合計得点で競い合ってもらう、目的としては親睦を深めるだったり、遊び心を入れてみただけだったり色々あるがまぁ楽しんで競い合ってくれ」
かなり雑な説明でペア対抗戦が提案されたが正直負ける気はしない。身体能力に関してはこの中で俺が一番だろうしタロットもかなり動ける方だ。
「勝ちましょうね、レイド師匠」
「もちろん、やるからには勝つ」
「やる気があるようで何よりだ。では種目の説明に入る」
俺たちだけでなく他のペアも闘志を漲らせている中ロゼリアさんが種目について説明する。
「種目は反復横跳び、五十メートル走、走り幅跳び、ボール投げ、握力測定、重量挙げの計六種目で霊装の使用は禁止とさせてもらう。それぞれの数値はペアの人間が今から配る紙に記載してくれ。私からは以上だ」
計六種目で霊装の使用は禁止。セイクリット騎士学園の生徒がどれだけ動けるのかを確認する良い機会だ。何より、マサムネならともかく他三人の身体能力に関しては具体的な部分は知らないので以外と今回の身体能力測定は良い機会になるかもしれない。
「ではペアで先行後行を決めて早速反復横跳びから測定して行くぞ」
ロゼリアさんの言葉でどのペアもどっちが先行でどっちが後行かを話し合う中俺は既に決めていることをタロットに伝えた。
「タロット、今回は全種目で俺が先行になる。良いか?」
「はい、でも理由を聞いても良いですか?」
「そうだな、簡潔に言うなら正しいフォームと効率的な体の動かし方を見て盗めと言ったところだ。体のどの部位をどう動かしているのかしっかりと見て自分のものにしてみてくれ」
ただの身体能力測定でも本人にその気があるのなら学べることは多い。男性と女性で身体構造は多少異っているので動きを模倣するだけでは意味がないが上手い人間の動きを真似することで得られるものもある。要は見取り稽古のようなものだ。
「はい!見て盗みます」
「あぁ、頑張れ」
他のペアも先行後行を決めたようなので俺も反復横跳び用の線が引いている位置へと向かう。タロットに大見得切った手前下手な記録を残すわけにはいかない。
「おやおや、僕の相手はタロットさんではなくレイドくんだったのか。強き者同士、是非良い勝負をしようじゃないか」
「レイドくんねぇ、うちのタロットさんを誑かした実力のほど見極めさせてもらおうかな」
位置に着くなり俺は両隣に居たクロウくんとカルトさんから熱い視線を向けられる。俺が言うのもアレだがこのくらいの歳の実力者は皆自信満々で見ていて気持ちが良い。
「俺も、セイクリット騎士学園の上位人の実力を楽しみにしています」
笑顔で返すが負けるつもりは毛頭ない。身体能力とは詰まるところ鍛えた肉体をどれだけ自分の意思のもと制御し操れるかに起因する。前を向き足元が見えない状態でも寸分の狂いもなくイメージ通りに体を動かす。その基本がどれだけ身についているのかお手並み拝見と行こうか。
「それでは反復横跳びを二十秒間で二回行う。一回目始め」
ピィーという笛の音を合図に俺は加速度的に体を動かす。初速から二秒後半で最高速度に達し後はそれを維持するだけ。右、中央、左、中央と慣性の法則や呼吸の仕方を意識して無駄のない動きを実現する。
少しだけ長い体感時間を経て再び聞こえてきた笛の音を合図に動きを止める。
「はぁ、はぁ、凄かった」
「そう?ありがとうカルトさん」
俺の後ろに居たカルトさんからお褒めの言葉をいただいたのでお礼を言っておく。それから次はタロットさんの番になりその流れをもう一度繰り返して反復横跳びは終了となった。
見た感じ皆身体能力はそれなりに高い。一番回数の少なかったリリムさんですら五十八回だったことを考えると日頃からの鍛錬の成果が出ているのだろう。
「レイド師匠、私分かりました」
「何が分かったんだタロット?」
俺とマサムネの次に順位の高かったタロットが何やら嬉しそうに話し掛けてきた。俺の動きを見て何かに気付いたのかと思って聞いてみればタロットから帰ってきた応えは俺の意識外のものだった。
「はい!常時臨戦態勢、レイド師匠の動きを見て私が感じたことです」
「具体的には?」
「レイド師匠は反復横跳びの最中でも常に動ける状態にありました。下半身を使うことを意識して過度な前傾姿勢になる者が多い中、いつ襲撃を受けても迎撃出来るように自然体でかつ隙がない。良いものが見れました」
足運びや呼吸のタイミングなんかは意識していたけど臨戦体勢についてはほぼ無意識でやっていた。恐らくは経験による慣れなのだろうけどそれがタロットにとって有益なものであるのなら良かった。
「なら、次から行う種目では常に自然体を意識してみると良い」
「はい!」
とは言ってもタロットなら意識さえすれば自然体など容易になれる。大切なのは意識しなくても自然体でいられること。こればかりは時間と経験が必要だけどタロットならどうにかするだろう。
それからロゼリアさんの合図で次の種目である五十メートル走が始まった。皆良い動きをするがやはり身体操作という面では俺、マサムネ、タロットが頭一つ飛び抜けていた。それでもフレアさんの脚力をフルに使った走りやルクスくんのすばしっこさを感じる走りなど、人それぞれで特徴があって見応えはあった。
「問題は体力だな」
動きに関しては皆問題ない。寧ろこれから課題となるのは体力の方だ。日頃から走り込みをしているフレアさんなんかは問題なさそうだけど、リリムさんや双子の姉弟の方は一般人よりは上だがそれでも体力が足りてない印象を受ける。
「五十メートル走を二本やって息切れ一つ起こしていないレイド師匠がおかしいだけではないですか?」
「人より体力がある自覚はあるけどこれくらいは平然とこなしてもらわないと困る」
俺は
まぁ、そこに関しては俺がでしゃばる所ではないので大人しくロゼリアさんとレイラさんに任せて俺はタロットの育成の方に専念するとしよう。
それから走り幅跳び、ボール投げ、握力測定と俺とタロットは各種目で順調に記録を出していきいよいよ最後の種目である重量挙げの番となった。
「この種目ではどれだけ重い物が持ち上げられるのかを測らせてもらう。まずは五十キロの重さからやるので先行の五名はバーベルの前に並んでくれ」
ロゼリアさんの指示に従い先行である俺はバーベルの前へと移動する。
「それでは始め」
ピィーという笛の音と共に俺は五十キロのバーベルをヒョイっと軽々持ち上げる。正直この程度なら片手でもどうにかなる。割と余裕があることもあり同じ先行組の様子を確認してみると一応皆五十キロをクリア出来ていた。
かなりギリギリそうではあるけどリリムさんまでクリアしていたのは正直予想外だ。けど、リリムさんの戦闘スタイルが大鎌を扱い振り回すことを考えれば一応の納得は出来る。
それからバーベルの重さは六十、七十、八十と増えて行き百五十キロになった時には残りは俺一人となっていた。
「レイド、後どれくらいまで挙げれる」
「そうですね、取り敢えず二百五十キロまでなら普通にいけると思います」
「そうか、なら二百五十キロから測定をしよう」
俺の発言にセイクリット騎士学園の面々は目を見開きおかしなものでも見るような視線を俺に向けて来る。俺のことを知っている筈の皆もマサムネ以外は若干引き気味のリアクションを取ってくる。
「それでは始め」
「よいしょっと」
「「「「おぉ〜!」」」」
ロゼリアさんの合図に合わせて軽い掛け声と共に俺は二百五十キロのバーベルを持ち上げる。確かに重くはあるがバーベル自体が持ちやすいこともあって挙げるのにそれほど苦労はしなかった。
それから徐々に重さを増やして行き三百キロを持ち上げた時点でそれ以上の重さが用意されてなかったので俺の計測は終わりを告げた。
「流石に三百キロは重いな」
「その割には余裕そうに見えたのですが?」
「まぁ、あれくらいなら重くはあっても挙げられないほどじゃないからな」
確かに三百キロは重いがギルガイズの大剣の振り下ろしに比べれば寧ろ軽い方だろう。そうしてタロットの後半組も無事に重量挙げを終えてようやく全ての種目が終了した。
記載済みの記録用紙が回収され簡単に集計結果を出したのかロゼリアさんは実に満足そうに口を開いた。
「皆、身体能力測定ご苦労だった。一位はレイドとタロットのペアだったが他のペアも決して悪い結果ではない。寧ろ、平均より遥かに高いくらいだ。日頃の鍛錬の成果がよく出ている」
ロゼリアさんの言葉に皆少しだけ表情が緩む。セイクリット騎士学園の生徒に関してはかなり嬉しいようで表に出さないように気を付けているつもりでも見れば喜んでいるのが伝わって来る。
そりゃあ、現職の騎士の中でも最上位クラスの実力を持つ聖騎士が自分の努力を認めてくれたのだからそういう反応をするのも無理はない。
「私はこれからこの結果を元に明日からのメニューを組むので一度ここを抜けるが代わりにレイラが皆のことを見てくれるのでレイラの指示に従い今日は親睦を深めてくれ」
そう言うとロゼリアさんは記録用紙を持って体育館を後にした。ロゼリアさんの考えた練習メニューにはかなり興味があるので明日からの訓練が楽しみだ。
けど、残ったレイラさんが笑顔で放った一言の方が今の俺には楽しみだった。
「それじゃあ、お互いを知る言うことで模擬戦でもしましょか。誰かやってみたい人おる?」
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