第46話 六対一の無謀

 レイドさんとマサムネさんが教室を出た後、私フレアモーメントは途方もないむなしさを覚えていました。



「情けないですね」


「仕方ない。レイドとマサムネが強いのは事実、私たちが居ても邪魔なだけなのもまた事実だから」



 ふと、溢れてしまった私の呟きに近くまで来ていたソフィアさんがそう同意を示してくれますが私の言っていることの本質はそこではありません。



「違うんです。私たちが騎士らしくないと、犯罪者の息子だと勝手に糾弾していた人たちが今最前線で命を懸けていて、口だけしか出していない私たちが教室に残っている。それが酷く滑稽こっけいに思えてしまって情けないんです」

 


 普段ならクラスメイトが聞いている前でこんな弱いことなんて言わない筈なのにそれでも私は言葉を止められませんでした。



「散々酷いことをして来たのにピンチになったら守ってもらう。騎士らしくないのはきっと私です」



 もしも、私たちAクラスのメンバーがレイドさんやマサムネさんのような強さを持っていたとしても、それで命を懸けて立ち向かえるものがどれだけいるのか。マサムネさんの話では敵は皆最低でも上級騎士クラスで霊装を使える私たちを足手まといと言い切れるほどには強い相手です。そんな敵を前に戦うことを選んだ彼らを私はどうして今まで卑下していたのか今更ながら理解出来ません。



「そ、それは違います」



 しかし、そんな私の弱音を否定したのは普段から自信なさげな、それでも最近は少しずつ変わって来たリリムさんでした。



「レイドくんは今私たちに出来ることをやれと言いました。騎士に相応しいかそうでないか以前に、私はレイドくんの言葉に恥じない行動を取りたいです」



 その声音は強い意志を宿したもので少しだけその姿がレイドさんと重なった錯覚を覚えてしまうほどには今のリリムさんはカッコ良いです。



「私も謝らないといけないことがいっぱい残ってる。少しでも役に立って反省の色を見せたい」



 リリムさんだけでなくソフィアさんまでもが彼の行動に感化されたのかしっかりと自分の意思を持って形はどうあれこの事態に抗うと宣言をします。そして私もそれに感化されつつあるのを自覚出来ます。



「本当にレイドさんは凄いですね。犯罪者の息子なんていうレッテルがありながらもそれでも慕われる人望。きっと私には真似出来ません」



 いつまでもくよくよしていても仕方ありません。リリムさんも言っていたように私には私のすべきことがある筈です。このまま教室の中で怯えていてはそれこそ彼に合わせる顔がありません。



「皆さん聞いてください。私は、いえ私たち三人はこれから生徒会室に向かいます。皆さんはバンス先生の指示の元行動してください」



 私たちに何が出来るのかは分かりませんがそれでもマサムネさんの言っていた会話をティア先輩に伝えるだけでも価値はある筈です。それに、霊装使いである私たち三人が教室に引き篭っているのは得策ではありません。



「私は賛成、私の氷なら戦わなくても役に立てるかもしれない」


「わ、私の影もきっと役に立てると思います」



 私の言葉にソフィアさんとリリムさんは同意を示して他の生徒からも特に文句は上がりません。



「まぁ、良いんじゃないか。クラスの方は俺が守るからお前たちは良い経験をしてくると良い」



 相変わらずのバンス先生の言葉に少しだけ安心感を覚えながらも私たち三人は教室を出て生徒会室へと向かうのでした。




◇◆◇◆




「失礼します、一年Aクラスのフレア・モーメントです」


「えっ?フレアさん、少し待ってください。すぐに開けます」



 流石に襲撃を受けている最中に私が生徒会室に来ることは予想していなかったようで生徒会室の扉を叩くと普段なら珍しいティア先輩の慌てた声が聞こえて来ます。



「入って良いですよ」


「失礼します」


「失礼します」


「しっ、失礼します」



 開かれた扉から中に入った私たちが見たものは神妙な顔で机に座っている先輩たちの姿でした。



「それでフレアさん、この緊急事態にこんな場所に来た理由は何ですか?」


「はい、敵の詳細を伝えに来たのと私たちに出来ることをしに来ました」


「それは本当なの?フレアちゃん!」


「はい、ラシア先輩。クラスメイトのマサムネさんの霊装が探知系なので詳細を聞くことが出来ました」



 敵の詳細を持って来たという言葉に重苦しかった生徒会室の空気が少し和らいだのを感じます。



「ありがとうございます、フレアさん。それでは敵の詳細とレイドくん、マサムネくんの行動を教えてください」


「はい、敵の数は三名、一人はこの霧の結界を張った人間で上位の上級騎士クラスの実力がありますが結界の維持に全力を注いでいるので戦力にはカウントされません。次にマサムネさんいわく歪でよく分からない奴ですがそれに関してはレイドさんとマサムネさんが応戦していると思います。最後の一人がロゼリア先生クラスで勝ち目がないとのことです」



 改めて自分の口で説明してみたものの状況は絶望的ですね。いえ、或いは結界さえどうにかして仕舞えば彼らは撤退を選択するかも知れません。



「貴重な情報をありがとうございます、フレアさん」



 一度お礼を言った後、ティア先輩は覚悟の宿った瞳で続きの言葉を口にしました。



「私たち三人はこれから霧の結界を張っている人間を叩きに行くつもりです。今先生方が敵と戦っていますが正直に言って状況はかんばしくありません。先生方の指示は私たち生徒は戦うなというものですが私たち三人は独断でこれを破ろうと思います。もし命を懸ける覚悟があるのなら三人もついて来てください」



 その言葉に私は驚愕を隠せませんでした。普段からティア先輩は公爵家の騎士として模範的であり先生方の指示に背いて独断で行動するなど本来ならあり得ません。それに私たちに待機を命じるのではなくついて来ても良いと言ったことにも違和感があります。



「フレアちゃんが疑問に思うのは分かるけど、それだけ今は切羽詰まってるんだよ。このまま行けば先生方は全滅、反抗した生徒も既に沢山やられてるし、それにねもしかしたら今回の襲撃者は大きな犯罪組織かも知れないの。そうなればもっと多くの生徒が見せしめに殺されることだってあり得る」


「犯罪組織ですか?」



 犯罪組織と聞いて私は驚くのと同時に少し納得してしまいました。今回襲撃して来た人間の強さは明らかに個人戦力としては強すぎます。ですがそれが大きな組織によるものならば強い人材を複数人所有していることにも納得がいきます。



「えぇ、詳しいことはまだ確定してはいませんが恐らくそうだと思います。彼らが羽織っている服には縦に三本の剣横に一本の剣が刻まれたエンブレムがあったと報告を受けました。これはここ最近注目を集めているという国際的犯罪組織のものと合致しています」



 グランドクロス、それは昔から水面下で活動をしていた犯罪組織でここ最近になってその名をよく聞くようになりました。最も私やティア先輩のような上位の貴族でなければまだ知らない人の方が多いかもしれません。



「だから私たちで敵を撤退させるということですか?」


「はい、当然何らかの目的を達成してそのまま帰るようでしたら手を出さずに傍観します。ですがこれ以上本校の生徒に危害を加えるようであれば私たちで対処します。三人は着いて来てくれますか?」

 


 何処か試すようにそう言ったティア先輩ですがここに来た時点で私たちの答えは決まっています。



「「「はい!」」」



 そうして、私たちはより綿密な作戦会議を行ってから先生方の全滅の知らせを聞き生徒会室を後にするのでした。




◇◆◇◆




「皆さん、作戦は頭に入っていますね」



 生徒会室から出て敵が通うであろうルートを割り出した私たちは少し開けた戦える場所で先ほど立てた作戦を実行するために現在敵を待ち伏せしています。



「はい、先輩方も怪我しないでください」



 今回、私たちが立てた作戦は単純な囮作戦です。まず、敵が来た所でラシア先輩が接敵をして帰るのか被害を拡大するのかを確認します。



 そのまま帰るのなら放置、もしこれ以上被害を拡大させるようなら先輩方とリリムさんの連携攻撃で霧使いを倒す作戦に移行、倒しきれなければロゼリア先生クラスの敵を逃げに徹して足止めをしてその隙に霧使いを狙います。



「リリムさんそろそろ準備をお願いします。ラシアも気をつけてください」


「わ、分かりました。影の王シャドーロード、来てください影の暗殺者シャドーアサシン


「了解、ティアも無理しないでね」



 ティア先輩の合図に合わせて私たちは各々配置に着きます。声をかけられたリリムさんは今回の作戦の要である影の暗殺者シャドーアサシンを召喚します。そして、最大限に危険な囮役を買って出てくれたラシア先輩も一人で敵が通るであろうルートに出て行きます。



 それに対して初手で動くティア先輩、レオナルド先輩は集中力を研ぎ澄まし私とソフィアさんもいつでも援護に出られるように準備します。



 そして待つこと数分、重々しい足音と共に遂にターゲットが姿を表しました。



「思いの外、騎士学園も大したことなかったですね。いや、比べる相手が様では流石に可哀想ですね」


「そうだな、それにしてもアイツの姿が見られなかったのも気になる所だ」


「確かに、最後の連絡以降音信不通ですからね。まぁ、襲撃が成功した後は用済みではありますしそれはそれで良いのではないですか?」



 敵地でありながら日常会話でもしているかのような自然体、本来なら警戒心の無さを喜ぶところですが相手の片割れの正体を知っている私たちからすればそんな余裕は生まれません。



 生徒会室で敵の情報を集めている最中、敵の使う霊装の特性とその顔からもしかしたらと検討はしていましたが彼らの会話からその名前が明らかになったことで私たちの中での緊張感も自然と膨れ上がって来ます。



 ギルガイズ、それはレイドさんのお父さんである大罪人ロイドと共に四聖剣でありながらこの国に叛逆はんぎゃくし未だに捕まっていない最大級の犯罪者。噂では聞いていましたが本当にグランドクロスに所属していたなんてはっきり言って状況は絶望的ですね。



「こんにちは、襲撃者さんたち。私はこの学園の生徒会に所属しているラシアって言います。このまま帰ってくれるんなら見逃してあげますけど………どうしますか?」


「ふむ、生徒会ということは大方俺たちの正体に検討が付いているのだろう。それでもなお、目の前に立つとは中々のものだな。コソコソと隠れてる五人を見るに注意を引く目的なのだろうが俺たちは後三十は殺したいと考えている。今なら見逃してやっても良いがどうする?」



 しかし、今は嘆いていても仕方ありません。ラシア先輩とギルガイズの会話を聞いて改めて覚悟を決めた私たちはバレていることなど構わずにそのまま作戦を実行します。



「そうっすか、なら仕方ないですね。あまり騎士らしくはありませんが、リリムちゃんお願いします!」


「はい!行ってください影の暗殺者シャドーアサシン



 ラシア先輩の合図の元、リリムさんの指示に従い影の暗殺者シャドーアサシンが霧使いの背後へと影移動して手に持つナイフをその背中目掛けて突き刺します。しかし、まるで予想していたかのように影の暗殺者シャドーアサシンの攻撃は霧使いの持つ剣に防がれてしまいました。



「奇襲は良い判断ですが居ると分かっていれば警戒は出来ます。幸い、こちら側にも似た能力を持っている者がいるので」



 あのレイドさんでさえ喰らった奇襲を初見で対応されたことには驚きますが私たちの作戦はこれからです。



「レオお願い」


「任されました。戒めの鎖アークチェーン



 声を掛けられたレオナルド先輩は鎖状の霊装を発現させるとそのままギルガイズを拘束します。レオナルド先輩の霊装である戒めの鎖アークチェーンは拘束した対象の能力値を下げる能力があるため、少しですがギルガイズの足止めが出来ました。



「ティア!」


「はい、任されました。   疾風迅雷カムイ紫電一閃しでんいっせん



 レオナルド先輩がギルガイズの拘束を成功したのを確認すると即座にティア先輩がレイピア状の霊装を顕現させ抜刀の姿勢を取ります。ティア先輩の霊装は雷を操る自然系のものでその性質上身体能力を向上させる力も持っています。この学園随一の神速、その技を放つ相手は当然拘束されているギルガイズではなく結界を張っている霧使いの方です。



「ッ!」


「これはなかなかに良い一撃ですね。容姿から察するに生徒会長のティア・リーベルさんで宜しいでしょうか?」



 しかし、目にも留まらない速さで霧使い目掛けて振り抜いたティア先輩の剣はあまりにもあっさりと霧使いの剣で受け止められてしまいました。



「くっ、話では貴方は結界の維持に全力を注いでいて戦力にならない筈では?」


「それは探知系の霊装を持つ生徒からの情報ですか?確かに今の私は結界の維持に霊装の力を全て使っていますがそれは霊装が使えないだけのことです。あなたたち程度から自衛するくらいは問題ありませんよ」



 あっさりと言われたその言葉に私は情報伝達の仕方を間違えたことを確信します。恐らく、マサムネさんとレイドさんの言っていた戦力にならないとは自分達なら問題ないというだけで私たちでは霊装を使っても倒しきれない可能性がここに来て浮上しました。



「フレア、反省は後でして、今は何としてでもアイツを倒す」


「はい!私たちも全力で加勢します」



 しかし、失敗を嘆いている場合ではありません。当初の予定とは違い六対二の戦いになってしまいましたがやることは変わりません。そう思い気合を入れ直そうとしたのですが、



「いや、お前はこれを持って傍観していれば良い。万が一があっては困るからな、こいつら六人は俺一人で相手しよう」



 未だレオナルド先輩に拘束されたままのギルガイズは一瞬で鎖を破壊してから手に持っていた杖を霧使いに渡します。



「皆さん、ギルガイズに背中を見せるのは危険です。まずは全力で彼を倒しましょう」



 ティア先輩のその言葉を文字通りに受け取る者などこの場にはいません。その発言は言外に隙をついて霧使いを倒すと物語っています。



「はい!灼熱の魔人アスモデウス灼熱の魔剣フレイムロンド


「はい、永久凍土コキュートス氷結の戦服アイスドレス


「了解、反射鏡ミラーサイト


「分かりました、眷属全召喚オールサモン



 ティア先輩の言葉に私たちはそれぞれ戦闘態勢に入ります。

 


「ふむ、先程の影人形といい数を増やされるのは面倒だな、重力地グラビティ



 ギルガイズがそう口にした途端、リリムさんの召喚した十三体の影の眷属たちが一瞬にして潰れて霧散してしまいます。



「これが噂に聞く加重力グラビトンですか、反則ですね」



 リリムさんの眷属たちを一瞬にして潰したのはギルガイズの持つ霊装である加重力グラビトンの能力によるものです。その能力の本質は引力や斥力せきりょくを自在に操るというもので過去四聖剣になっていることからその能力がどれほど厄介なのかが分かります。



「もう一度召喚を」


「させると思ったか?重力渦グラビレイ



 ギルガイズがそう言った途端に今度はリリムさん自身がギルガイズのいる方向に向けて引き寄せられてしまいます。このままでは不味いですが私の位置からでは間に合いません。



「ラシア!」


「了解、頼れる先輩にお任せを、全反射リフレクター



 しかし、近くに居たラシア先輩がリリムさんとギルガイズの間に滑り込むと拳を構えるギルガイズの前に大きな鏡を出現させます。ラシア先輩の霊装は反射の能力を有した鏡を出現させるものでありその中でも全反射リフレクターは物理攻撃を全て跳ね返す技の筈です。



「形状からして反射か?或いは空間を繋ぐか?いずれにせよお前如きでは無意味だ」


「キャァァァァ」



 そう言ってギルガイズから放たれたのは恐らく、加重力グラビトンにより加速されたただの右ストレートです。しかし、ラシア先輩の全反射リフレクターを真正面から砕いたことがその威力の桁違いさを物語っています。



「皆さん、合わせてください!」


氷結の檻アイスプリズン


筋力拘束マッスルチェーン能力拘束アビリティチェーン



 再びのティア先輩の声に吹き飛ばされた二人以外の四人が反応を見せます。ソフィアさんは氷でレオナルド先輩は鎖でそれぞれギルガイズの動きを拘束します。



「行きますよフレアさん、雷皇の剣らいこうのつるぎ


「はい!炎帝の剣えんていのつるぎ



 そして、拘束され動けない筈のギルガイズ相手に私とティア先輩の攻撃技が打ち込まれます。それはたとえ上級騎士であろうともまともに喰らえばタダでは済まないであろう筈の一撃。しかし、そんな最強の一撃も一瞬にして拘束を解いたギルガイズは背中に背負った大剣で軽々と受け止めてしまいます。



「良い威力だ、しっかりと工夫もされている。だが弱い」



「キャァァァァ」


「キャァァァァ」



 私たちの攻撃を受け止めたギルガイズがそのまま大剣を振り抜くとまるで私たちは体重がなくなったかのように盛大に吹き飛ばされてしまいます。



「みんな、私の所に攻撃を集中させて。吸収の鏡アブソーブ


「面白そうだな、少し待ってやろう」



 吹き飛ばされた後、すぐに体勢を立て直した私はそのままラシア先輩の指示に従ってラシア先輩目掛けて全力で攻撃を仕掛けます。



灼熱の波フレイムウェイブ灼熱の刃フレイムスラッシュ灼熱の嵐フレイムトルネード灼熱球フレイムボール灼熱の矢フレイムアロー 灼熱の槍フレイムランス灼熱の灰燼インフェルノ



 それは他の皆も同じようで皆次々とラシア先輩目掛けて容赦のない攻撃を放ち続けます。



氷結の槍アイスランス氷結の雨アイスレイ 氷結の刃アイススラッシュ氷結の嵐アイスブリザード氷結の矢アイスアロー


影の鞭シャドーウィップ影の刃シャドーカッター影の槍シャドーランス影の矢シャドーアロー影の嵐シャドートルネード影の咆哮シャドーブレス影の球シャドーボール



雷撃らいげき双雷撃そうらいげき雷槍らいそう雷竜撃らいりゅうげき落雷らくらい雷帝の鉄槌トールハンマー雷神の威光カンナカムイ



 目の前の男を倒さないと霧使いへ奇襲することなど不可能と理解させられた私たちはギルガイズを倒すべく各々が力尽きそうなくらいにありったけの攻撃をラシア先輩の作り出した鏡に向かって放ち続けます。



 時間にして一分未満、私たちのありったけの攻撃を受け止めきったラシア先輩は苦しそうな顔をしながらも不敵な笑みでギルガイズと向き合います。



「これだけ集めれば十分でしょ」


「確かに、威力は凄いことになっているがその程度で俺を倒せるとでも?」



 私たちの攻撃とそれを受け止め切ったラシア先輩の鏡を見ても未だ余裕を崩さないギルガイズに対してしかしラシア先輩に焦りの色は見られません。



「いや、これでもまだ足りないってのはちゃんと分かってますよ。だから、こうするんです。強化反射テネブラエ吸収の鏡アブソーブ解放」



 限界に近い筈のラシア先輩は今度はかなり巨大な鏡を空中に作り出しそこに向けて私たちの攻撃の全てを吸収したエネルギーの塊を放ちます。



「貯めたエネルギーをさらに強化して放つ。成る程、発想としては満点をやろう」


「そんな口叩けるのも今のうちだけですよ。喰らえ!複合技、絆の収束反射レガードミラー!」



 その一撃はまさに天の裁きのような神秘的でありながら圧倒的なもので下手すればこの学園全体を破壊し尽くすのではないかと思えるほどの一撃です。あり得ないほどのエネルギー塊にこれならいけるかもと微かな希望を抱いたのも束の間、



「良いものを見た。返礼として俺も霊装のその先を見せてやろう。、全てを飲み込め極重力球ブラックホール



 それは理解の出来ない恐怖と絶望、言葉だけなら私だって聞いたことはあります。この星が壊れていない以上は本家のそれとは違う性質を持った劣化版なのかも知れません。しかし、私たちの力の結晶を一瞬でちりとかしたその現象はまさしく、ブラックホール。



「人間の範疇はんちゅうを超えてます」


「まぁ、そうだろうな。元々霊装なんていうのは本来ちっぽけな人間なんかが扱える代物ではない。霊装とは願いの結晶であり世界の理から外れたその力は人間の状態では100%引き出すことは不可能だ。故に、霊装を極めた人間はその願いに順応するべく体が変化する。より願いを受け止めやすく、より願いを感じやすい、そんな進化を遂げた人間を霊人と呼ぶ。お前たちで言えばロゼリアや四聖剣、上位の聖騎士などがその領域に達しているだろう。」



 今初めて聞かされた真実に私は理解が追い付きません。でも、これだけは分かります。目の前の男、ギルガイズは次元が違う。きっと私たちは殺されてしまうのでしょう。



「あぁ、ごめんね、サラ。立派な騎士になるって約束したのに」



 立派な騎士になると今は亡き最愛の妹と約束した筈なのに道半ばで死んでしまう。そんな絶望が私の心を支配します。あぁ、だけど微かにですが希望は残っています。



 きっと彼なら助けてくれる。浅はかで騎士らしくない考えですが何か確信めいたものがあります。きっと彼なら、そう、レイドさんなら来てくれると勝手ながら思ってしまいます。



「お前たちは敬意を持って一思いに殺してやろう」


「それは容認出来ないな」



 あぁ、やっぱりレイドさんは誰よりも騎士らしい。

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