第28話 フレア・モーメントVSソフィア
教室でソフィアさんとフレアさんの剣舞祭出場権を賭けた決闘が決まった後、こうなることを見越していたのか既に闘技場の予約を済ませていたバンス先生に
バンス先生曰く、今日は一日中闘技場を予約しているとのことで普段はあれだが意外とあの先生は有能なのかもしれない。
「いや〜、どっちが勝つんだろうね、あの二人。レイドはどっちに賭ける?」
そろそろ決闘が始まるということもあり、クラスの皆は思い思いに観客席へと座っている。そんな中、周りに人の居ない席で静かに二人の戦いを観戦しようとしていた俺に向かって銀貨と共にそんな声が飛んでくる。
放物線を描きながら飛んできた銀貨をノールックでキャッチした俺は自分の制服のポケットから同じく銀貨を取り出しマサムネへと投げつけた。
「俺はフレアさんに銀貨一枚、マサムネはソフィアさんで良いか?」
「あれ?意外だね、てっきり決闘で賭博を行うなとか小言を受けると思ってたんだけど?」
俺が賭博の提案に乗ったのが意外なのかマサムネは銀貨を受け取りながらも不思議そうに俺を見てくる。だが、そもそもの誤解として俺はこういう行為に悪感情は抱いていないし、普段のマサムネの行動も俺に迷惑がかからない範囲なら文句はない。
「別に、俺は無駄に敵を作りたくないだけだからな、それにバレなければ犯罪ではないって言うだろ」
「そうだね、じゃあ
そんな軽口を言い合いながら、俺とマサムネは互いに銀貨一枚を持ち二人の決闘を観戦するのだった。
「これより、フレア・モーメント対ソフィアの剣舞祭出場権を懸けた決闘を
フレアさんもソフィアさんも霊装使いということもあって今回の決闘はロゼリアさんが仕切るようだ。確かに、あの人が居れば例え本気の殺し合いをしても本当に死人が出ることはないだろう。
「私、フレア・モーメントは剣舞祭出場権を懸けて正々堂々と戦うことをここに宣言します」
「私、ソフィアは剣舞祭出場権を懸けて全力で戦うことを宣言する」
実は俺は本物の決闘を見るのはこれが初めてだったりするのだが、なんというかすごく違和感がある。まぁ、俺が賭け試合のルールに慣れすぎているだけなのだろうが、わざわざ宣言をする意味があまり分からない。
「マサムネもいつもあれをやってるのか?」
「まぁ、一応懸けてるものを宣言するのがルールだからね」
何故かマサムネにこんなの常識だよと言われている気がして心にモヤモヤを覚えるがそれはさておき、俺は霊眼と聴覚強化を発動してこれから始まるフレアさんとソフィアさんの決闘に集中することにした。
「それでは、始め!」
「行きます、
「勝つのは私、
ロゼリアさんの開始の合図と共に二人は早速霊装を出現させる。フレアさんが出現させたのは黒と紅で彩られたいかにも魔剣という感じの剣だった。対するソフィアさんが出現させたのは刀身が空色をした冷気を纏った神秘的な剣だ。
「まずは様子見です。
「
技の宣言と同時に二人のそばにそれぞれ氷と炎で
「ならば、
「無駄、
続いて、フレアさんが先程の
「派手だねぇ、二人とも。僕たちと違って羨ましい限りだね」
「そうだな、リリムさんもだったけど自然系の霊装は見栄えが良い」
まだまだ様子見を続けてるようで炎と氷を互いにぶつけ合って居る二人を見て俺とマサムネは同じ感想を口にしていた。
「それにしても、あの二人の霊装って相性悪いんだね。これじゃあ、保って十五分かな」
「そうだな」
マサムネの言葉に同意しながらも、俺は霊眼の機能の一つである熱源探知で闘技場の温度を感じ取っていた。
一般的に空気には熱を加えると体積を膨張させ、冷気を加えると逆に体積を圧縮する性質が存在している。つまり、今闘技場の中の空気はフレアさんとソフィアさんの霊装のぶつかり合いで相当不安定な状態になっているのだ。
それに加えて、熱も冷気も体から体力を奪い、疲労を与えるためどちらにしても持久戦には向かないだろう。まぁ、大体の霊装はベルリアの毒物耐性のように自滅しないよう自分の特性に耐性を持っていることが多い。だが、それにも限度はある。その為二人の体力は徐々に削られている。
「くらえ、
「甘いです!
俺とマサムネが戦況の考察をしている間も二人の攻防は続いていた。ソフィアさんが無数に出現させた氷柱を雨のように落とし、フレアさんはそれを広範囲の上空を炎で
その光景にこの決闘を見ていた誰もが感嘆の声を上げ、次はどんな大技が見れるのかと胸を躍らせていた。しかし、クラスメイトのそんな期待とは裏腹にフレアさんとソフィアさんは互いに霊装を構えて睨み合う。
「様子見は終わりです。ここからは本気で行かせてもらいます。
「私も本気で行く。
本気の宣言と共にフレアさんとソフィアさんはお互いに真逆の技を披露して見せた。
フレアさんの
逆にソフィアさんの
「剣舞祭に出るのは私です」
「違う!剣舞祭へは私が出る」
そこからの攻防は先程の二人のやり取りが本当に様子見でしか無かったのだと再認識させられるほどに激しく
フレアさんの振るう
何より評価するべきなのはお互いに霊装に頼り切っていない所だろう。フレアさんは霊装を最大限に活かすための高い剣術の腕と心肺機能を優している。また、ソフィアさんも近接戦闘をしながら同時併用で氷の
「はぁ、はぁ、まだまだ……負けない」
「私も、負けるつもりはありません」
そんな苛烈な攻防を続けること十分、お互いに切り傷が増えていった頃、互角だった二人の決定的な差が徐々に浮き彫りになっていった。
「賭けは俺の勝ちかな」
「まだ、分からないよ。でもソフィアさんが不利なのは事実だね」
戦況を冷静に分析した俺は少し勝ち誇ったようにマサムネにそう声をかける。そんな俺の言葉の意図を察しているようでまだ賭け自体は諦めてないものの、マサムネもまたソフィアさんの劣勢を感じ取っていた。
はっきり言ってフレアさんとソフィアさんの実力自体にはそこまで大きな差はない。霊装の能力も剣術の腕もほぼ互角、違いがあるとすればフレアさんの方が身体能力が高く、ソフィアさんの方が霊装の細かい操作が得意ということぐらいだろう。
しかし、それ以外の所で二人には決定的な差があった。そう、それは低酸素の環境に慣れているかどうかだ。
本来、炎が燃える原理とは可燃物に酸素と熱を加えることで酸化反応や発熱反応を引き起こし、その後は炎自身の熱エネルギーで空気中の酸素と燃える原材料である可燃物が無くなるまで炎が燃え続けるという仕組みになっている。
まぁ、簡単にいうと『熱』『可燃物』『酸素』の三つの要素さえあれば炎は維持できるということになる。もちろん、フレアさんが扱っている炎は霊装なので炎を発現させるのにそのどれも必要とはしていない。しかし、発現させた炎を維持するためには空気中の酸素を消費し続ける必要があるのだ。
つまり、フレアさんの霊装は使い続ければそれだけ空気中の酸素濃度を低下させ互いの持久力やスタミナを奪っていくという特性を持っているということだ。
「フレアさんは毎朝ランニングをして心肺機能を鍛えてる上に、普段からあの霊装を使っている。低酸素状態での運動には慣れてる筈だから"このままいけば"勝負ありだな」
「レイドはこのままこの決闘がソフィアさんのスタミナ切れで終わると思う?」
マサムネにそう聞かれるが俺もそこまで馬鹿ではない。というか、体力を奪われた人間がどういう行動を取るかなど決まっている。そんな俺の予想を肯定するかのように肩で荒く息をしているソフィアさんは覚悟のこもった瞳でフレアさんを睨んでいた。
「はぁ、はぁ、このままじゃ、私の……負け」
「そうですね、ここに来て持久力の差が出てきたようです。これ以上は貴方の身が危ないので降参することをお勧めします」
しかし、そんなソフィアさんの覚悟に気付くことなく闘技場の上ではフレアさんがソフィアさんに降参を提案していた。まぁ、気持ちは分からなくもない。確かにこのまま決闘をやり続ければソフィアさんの身は危険に晒されてしまう。というか、現在進行形でソフィアさんは危険な状態にあった。
「降参?………………なにそれ」
だが、それは明らかに悪手だった。やはりフレアさんには圧倒的に実戦経験が不足している。弱った敵に対しては何もさせずにとどめを刺すのが正解だ。
「はぁ、はぁ、私は……まだ負けてない。こんな所で、負けられない」
そう、追い詰められた者が最後に見せる足掻きほど厄介なものは無いのだから。そして、それを証明するかのようにソフィアさんから莫大な冷気が放たれ、それは一瞬にして闘技場全体を支配した。
「これは!」
「私は負けない、最低でも相打ちにしてやる」
そう宣言したソフィアさんは普段の彼女からは想像も出来ないほど闘志に満ちた良い目をしていた。
「そうですか。ですが、負けられないのは私も同じです。ですので、騎士の礼儀として全力でお相手いたします」
しかし、この決闘に懸ける熱量はフレアさんとて負けてはいない。その証拠にフレアさんの持つ剣はよりその熱量を増し彼女の周囲には
そんな両者の睨み合いを前に俺はそっと視線を審判であるロゼリアさんの元へと送る。その目は言外に「この決闘を止めなくて良いのか」と物語っていることだろう。
しかし、そんな俺の視線にロゼリアさんは少し口角を上げながら首だけで闘技場の中央を刺し「お前が止めてみろ」とでも言いたげにジェスチャーをして来る。
「このままだと水蒸気爆発でこの場の全員ただじゃ済まないから頑張って止めてね、レイド」
そして、隣で呑気に観戦しているマサムネもまたどこか楽しそうに俺に今回の決闘の結末を丸投げして来る。
「潰れろ!
「燃え尽きなさい!
叫ぶような声と共に二人はそれぞれ今日放った中で最大の技をぶつけ合う。
そんなクライマックスを前に俺は一つため息を吐いてから身体強化を行うと、そのまま一瞬でソフィアさんの放った直径二十メートルの氷塊とフレアさんの放った龍と怪鳥の中間くらいの
「なっ!レイドさん」
「レイド!」
突然現れた俺の姿にフレアさんもソフィアさんも驚き目を見開いてこちらを見て来るが生憎と今の俺はそれどころではない。
「まずは炎を消すか、
二人の間に割って入った俺はまずフレアさんの放った
俺が選んだ技は
その威力を見せつけるかのように俺の放った真斬はフレアさんの放った
「後はあれか」
そう言って空中で空を見上げた俺の視界に入ってきたのは快晴でもなければ雲でもない、ただの氷塊だった。ていうか、これ下手したら氷塊の質量で闘技場ごと消し飛ぶんじゃないか。
「まぁ壊せば問題ないか、
剣で氷塊を切ったら二次被害が酷くなりそうだったので俺は持っていた剣を腰に戻すと、そのまま
身体強化と空中跳躍の勢いをそのまま乗せた俺の破極拳はソフィアさんの放った
「仕上げだ、旋風脚」
二人の最大級の攻撃を割と容易く消滅させた俺は自由落下をしながら、体を捻り
「レイドさん、これはどういうことなのか説明してくださいませんか?」
「決闘の邪魔はルール違反。どういうつもり」
そうして、
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