剣舞祭

第27話 剣舞祭のメンバー

「おはようレイド。ねぇ、知ってる?今日はなんと五月の剣舞祭のメンバーがらしいよ」



 四月も後半に入った頃、いつも通り朝の五時に起きた俺は当たり前のように味噌汁を作って笑顔でスタンバイしているサクヤからそんな話を聞かされる。



「そうか、そう言えば毎年五月と一月に剣舞祭が開かれるんだったな。五月は確か、学年ごとに3人ずつだったか?」


「そうだよ。今学園内はその話で持ちきりでさ、一年ではレイドとマサムネくんはもう確定って話が上がってるんだけど残りの一人が、フレアさん、ソフィアさん、リリムさんの誰かってみんなで予想してるんだよ」



 朝からやけにテンションが高いサクヤに少し驚きながらも、違うクラスの人間の名前をスラスラと言えることに感心する。



 それはそうと剣舞祭か。若い騎士たちがしのぎを削って戦う一種の国民的なお祭りでもあり、多くの見習い騎士たちが爪痕を残そうとするアピールの場でもある。



 果たして、そんな場に出てくるエリートたちは一体どれ程の想いと覚悟で騎士を目指しているのか、剣舞祭はそれを知る良い機会になるだろう。



「僕も応援するから頑張ってね」


「あぁ、ほどほどに頑張るよ」



 流石にクライツ姉さんにしたようなことをするつもりはないけど、それでもどうか俺を失望させないでくれることを祈ろう。そんな勝手な考えを抱きながら俺は朝の支度をするのだった。



「ねぇねぇ、ルビアは誰が選ばれると思う」


「え〜っ、私はやっぱりフレアさんかな。シャルルは?」


「私はソフィアさん!だって入学試験のとき凄かったんだもん」


「でもそれを言うなら、リリムさんの霊装だってあんなもの出せるなら圧勝するんじゃない」




「あぁ、もしかしたら俺が選ばれたりして」


「そんなわけないだろ、ナハトはせいぜい応援がいいところだろ」


「でもキースだって霊装使えないだろ。良いよな霊装が使える連中は」


「本当にそうだよな、特にマサムネなんて素行不良で剣舞際なんて出られないだろ」



 いつも通り朝練を終えてから教室に入った俺はいつも以上の賑わいを見せるクラスメイトを眺めながら自分の席へと向かう。



 朝にサクヤにも言われた通りどうやら俺の剣舞際メンバー入りはほぼ決まっているみたいで今日は向けられてくる視線の中でも、割と羨望せんぼうの色が強い気がする。



「おはよう、ソフィアさん」


「おはようレイド。それと生徒会加入おめでとう」



 自分の席に着き俺はいつも通りソフィアさんに挨拶をしたのだが相変わらず声の抑揚よくようは少ないもののそれでも生徒会の件でおめでとうと言ってもらえた。



「ありがとう、よく知ってるね」


「フレアが話してたのをたまたま聞いただけ」



 少し不機嫌そうにそう言うソフィアさんを見て俺は彼女が不機嫌な理由を大体察してしまう。基本的に騎士を目指している人間は負けず嫌いな者や評価されたい者が多い。



 ソフィアさんは一見クールで寡黙かもくな印象を受ける言動をしているけど、その反面騎士になりたい動機はしっかりしているし、自分の中で確固たる騎士の理想を持っている人だ。



 そんな人の前に立っている俺は剣舞祭メンバー入りがほぼ確定している上に、生徒会にも所属しているのだ。



「もしかして、嫉妬してる?」


「別に、レイドの実力なら当然だと思う」



 普段から無表情なソフィアさんの顔が変化してくれるかなと思い俺は少し意地悪な聞き方をしてしまう。それでもソフィアさんは眉をピクリと動かすものの比較的冷静にそう返してくるだけだった。



「そっか、評価してもらえて嬉しいよ」



 それだけ言ってソフィアさんとの会話を打ち切った俺はホームルームまで本を読んで時間を潰すことにする。




「お前ら席に着けホームルームを始めるぞ」



 しばらく本を読んでいると時間になったようでバンス先生が教室内に入ってくる。いつもならバンス先生のこの一言で静かになるところだが今日ばかりはバンス先生が来たことでより一層ざわつきだしてしまう。



「はぁ、お前らももう察しはついてると思うが今日は五月の剣舞際に出場するメンバーを決めたいと思う」



 その一言で教室に居るクラスの皆は一斉に口をつぐみ静かになる。けど、それは次の言葉を期待してのものであり、皆の瞳にはこれ以上ないくらいの熱が宿っていた。



「じゃあ、まずは知らない奴のために剣舞際の説明から始めるぞ。剣舞祭とは五月と一月に別れていて今回行われるのは当然五月の剣舞祭になる。五月の剣舞祭の出場メンバーは各学年ごとに三人ずつが選出され、それぞれ先鋒、副将、大将同士で他校の生徒と戦ってもらう」



「剣舞祭の目的の一つはお前たちの実力を見ることも含まれているので、例え先鋒と副将が先に二勝をあげても大将にも戦ってもらう。また、剣舞祭では霊装の使用が許可されているのでその盛り上がりから多くの国民が見に来ることになる。出場するメンバーはくれぐれも節度ある行動を心掛けてくれ」



 そう言うバンス先生の視線が一瞬マサムネに向いたのを俺は見逃さなかった。まぁ、流石のマサムネでも国民的イベントで「殺人はありですか?」とは聞かないだろう。



「じゃあ、説明も終わったところでいよいよメンバーの発表に移っていく。とは言え、これで毎年揉め事の決闘騒ぎになってるからな、今年は少し趣向を変えることにした」



 そう言ってバンス先生は黒板に上から大将、副将、先鋒と書いていき、そのすぐ横に生徒の名前を入れていく。その内容は



 大将 レイド


 副将 マサムネ


 先鋒 フレア・モーメント



「さて、今黒板に書いたのが暫定で俺が決めたメンバーと役職だ。お前たちにはこれからこのメンバー表をベースに新しいメンバー表を決めて欲しい。なに、剣舞祭は我がクルセイド騎士学園の威信もかけているから時間はいくら使っても構わないぞ」



 その言葉を皮切りにクラスの皆が次々と発言をしていく。



「私はこのままで良いと思います」


「何言ってるの?どう考えてもリリムさんの霊装の方がクルセイド騎士学園の威信を示せるよ」


「俺はマサムネがメンバー入りしてるのに反対だ。マサムネが出るくらいなら俺が出る」


「公爵家であるフレアさんが大将の方が良いんじゃないの?」


「レイドを先鋒にして相手の度肝を抜いてやろうぜ」


「霊装使いが優遇されてるのはどうなの?」



 皆が自分の意見を我先にと言っている光景を俺は少し呆れながら眺めていた。今の状況を一言で表すなら『会議は踊るされど進まず』が最も適切だろう。



 学園のことを考えた意見から私欲丸出しの意見まで、誰もが思い思いに自分の意見を主張している。そして、そんな中バンス先生はというと完全に教育者の目線で俺たち生徒を見ている。



「さて、どう収集を付けるのかな」



 まぁ、俺も積極的に話し合いに参加するというよりは皆がどうやってこの状況をまとめるのかを観察しているんだけどね。



 そうして、皆が思い思いの発言を繰り返すこと十分、そろそろ他のクラスメイトとの意見の食い違いで討論をし始めた頃、一発のパン!という柏手かしわでと共に凛とした声がクラスの流れを支配した。



「皆さん、静かにしてください」



 そう言って、クラスの流れを完全に持って行ったフレアさんは一枚のメモ帳を手に持ち静寂の中、教壇へと歩みを進める。



「このまま討論をしていてもらちが開きません。ですので一度私の話を聞いてください。皆さんが討論をしていたこの十分の間に、私はメモ帳に皆さんの意見とその解決策を簡単にですが書きました。なので、今からそれを発表したいと思います。それを聞いてから再び皆さんの意見を聞かせてください」



 その言葉に誰もが口を閉ざして黙ってしまう。その無言を肯定と受け取ったのかフレアさんは黒板を使いながらこれまで出た意見とその解決策を発表していく。



「まずは、レイドさんを先鋒にして他校の度肝を抜こうという意見ですが、これは剣舞祭のルールが勝ち抜き形式や星取り戦形式なら有効かもしれませんが、今回のように出場者全員が戦う場合は大将の強さが我が学園の強さの指標となりますので私はやめておいた方が良いと思います」



 まぁ、俺としてはどうせ戦うのなら大将とやってみたいというのはあったからこれはありがたい提案だ。



「次に、霊装使いが優遇されているのがよろしくないという意見ですが、これに関しては学園の威信を示す上で必要なことだと私は考えています。ですので例年通り霊装使いの方のみに出ていただくのが良いと前までの私なら考えていたでしょう」



 そこまで言ってからフレアさんは一度言葉を区切り、視線だけで一瞬俺のことを見てから再び口を開き始める。



「しかし、霊装を使わずに霊装使いを倒してしまった実例を間近で見てしまった以上、霊装使いだから強いなどという短絡的な思考をすることは出来ません。ですので、もしも霊装を使えない方で剣舞祭のメンバーに選ばれたい方がいれば現メンバーと決闘をしてその地位を勝ち取ってください。そうすれば誰もが納得するでしょう」



 これは痛い正論だ。確かに、霊装使いが出る大会に出場したいと言っている以上それを実現するためには皆も俺と同じことをしないといけないだろう。だが、温室育ちの彼らにはそれを出来るだけの経験値がない。



 何より、この三人を相手にした場合、例え霊装なしのルールでも彼らでは勝てないだろう。



「次はマサムネさんの素行が悪いため剣舞際には出場してほしくないと言う意見ですが、これに関しましてはまだ出会って一ヶ月も経っていない私たちでは少しはかりかねる部分があると思います。ですので前からマサムネさんの知り合いであるレイドさんに意見を聞いてみたいと思います。レイドさんよろしいでしょうか?」



 正直、フレアさんのこの意見は意外だった。俺の予想では彼女も皆に混じってマサムネのことを責める姿勢を取ると思っていたのだが、どうやらフレアさんはそこまで視野が狭くはないようだ。



 それはそうと、この集団の中で意見を聞かれて答えない訳にもいかず俺はそっと立ち上がり今思っていることを素直に口にする。



「そうだね、俺個人の意見としては、今回のこの状況はある意味良いチャンスだと思うよ。入学式の時にも言われたけど君たちが目指している騎士って言うのは正しいだけでは成り立たない。理想論も綺麗事も言うだけなら誰だって出来るからね」



 そう、この世界は理不尽なのだ。どれだけ気に食わない結果でも強くなければ無慈悲な現実を前に泣き叫ぶことしか出来ない。



「もし、君たちが本物の騎士を目指すなら学園の威信とやらを守るためにマサムネに決闘を挑んで勝てば良い。もちろん、その場合は受けるだろマサムネ」


「いやぁ〜、レイドは本当に良いことを言うねぇ。確かに、この学園には決闘って言う素晴らしいシステムがあるんだから、僕のことが気に食わないのなら実力で黙らせれば良いよね」



 俺の誘導の意味をみ取ってくれたのか、はたまたただ決闘がしたいだけなのかは分からないが、俺の思い通りに動いてくれたマサムネの発言で今まで威勢よくマサムネを責めていた連中は何も言えずに黙ってしまう。



 まぁ、これも成長できる良い機会と思えば彼らにとっても悪い話ばかりではないだろう。



「分かりました、ではその方向で話を進めて行きましょう」



 その後も、反論の余地もなく容赦ない正論パンチでクラスメイトを黙らせていったフレアさんは時にクラスメイトの意見を聞きながらも話し合いを進めていき、結局剣舞際に出場するメンバーとその役職が変わることはなかった。



「それでは、皆さんの意見も一通り精査できたところで改めて問います。皆様の中にと言うより、既に霊装を使えるリリムさんとソフィアさんは今回の剣舞際に出る気はありますか?」



 もう既に霊装を使えない人間の対応は決めたので後は霊装を使えるリリムさんとソフィアさんが何を言うかで決まるだろう。それはフレアさんも当然分かっているようで残り二人の意見を聞き始める。



「まず、リリムさんはどうお考えですか?」


「え、えっと。わ、私は剣舞祭に出る気はありません」



 少しオドオドしながらも、はっきりと剣舞祭への不参加を表明したリリムさんにクラスの皆はフレアさんを含めて理解できないといった様子でリリムさんを見ている。



 その中で唯一俺だけはリリムさんの瞳の奥が以前とは異なっていることを見逃さなかった。オドオドしていることには変わりないがそれでも、今のリリムさんは以前までとは違って確かに現実に抗うという意志のこもった強い目をしている。



「私はまだ自分に自信を持てません。だから、いつか霊装に頼らなくてもしっかり戦えるようになってからにします」


「分かりました。無理強いをするわけにもいきませんし、何よりその姿勢は素晴らしいものです。これからもお互いに頑張りましょう」



 そんなリリムさんとフレアさんの会話に皆が頷いたり、拍手をしたりと様々な反応を見せている。俺もこういう宣言は青春という感じで良いと思う。



「それでは次にソフィアさん、貴方は今回の剣舞祭に出場する意思がありますか?」



 フレアさんの問いかけに対して俺の隣で座っているソフィアさんは席を立ってから口を開いた。



「当然、騎士を目指してる者なら誰だって剣舞祭の舞台に憧れる。だから、私はあなたにこの場で剣舞祭出場権を懸けた決闘を申し込む。受ける気はある?」


「もちろんです。実は私も少し思うところがあったのです。レイドさんもマサムネさんもこの学園に入ってからその実力を示してきました。そんな中で私だけは未だに皆さんに実力を示すことが出来ていませんでした。なので、貴方への勝利をもって私は剣舞祭の舞台へと上がります」



 そうして、俺とマサムネ以外の残り一名のメンバーはフレアさんとソフィアさんでの決闘で決まることになったのだった。



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 小説家になろう様と更新頻度を合わせたかったので27話まで一気に投稿されて頂きました。この小説の更新頻度は基本、水・金曜日の午後六時と日曜日の昼十二時にする予定です。

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