第19話 夢と味噌汁
図書室から帰ってきて眠りに着いた夜、俺はある夢を見ていた。
「うぅ、ここは」
目を覚ました俺が立っていたのは見渡す限り墓しかない暗く薄気味悪い印象を抱かせる墓地だった。
「なんで墓地にいるんだ」
一瞬、誰かに転移系の霊装でも使われたのかと思ってしまったがそうではないらしい。霊装を使用しようとして出来なかったことから俺はここが夢の世界だと結論づけることにした。
夢とはその人の
「だけど、流石に多すぎないか」
俺が今まで奪ってきた命の数は1467人だ。それが少ないとは言わないがそれでもここにある見渡す限りの墓の数は悠に百万は超えている。
「◼️ぁ、なん◼️◼️はを◼️◼️◼️とが◼️◼️◼️いの?」
早く夢から覚めてくれと思いながら歩いていると、ふとノイズの掛かったような聞き取ることの出来ない声が俺の耳に聞こえてきた。その声に興味を惹かれた俺は声のした方へと歩いていく。
「ご◼️◼️◼️◼️い、ま◼️◼️◼️◼️達の◼️◼️◼️◼️◼️てあげ◼️◼️◼️の。ごめ◼️◼️◼️◼️、まだ器◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️いの」
しばらく歩き声の主の居る所まで来た俺が目にしたのは墓場の前で立ち尽くしている
女性か男性かの判断は付かない。その人は
「あ◾️、私の存◼️◼️◼️識したこ◼️◼️◼️◼️◼️この◼️◼️◼️◼️◼️◼️のですね」
俺がしばらくその人を観察していると向こうもこちらに気づいたようで何かを言いながら俺のいる方へと振り向いてくる。
「そ◼️◼️◼️ね、これか◼️◼️◼️◼️◼️◼️方に◼️◼️◼️ケラを◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ょう」
また何かを言ったかと思えば今度はその人は何かを思いついたかのように手を叩く。すると、墓だらけだった世界は一瞬にして砕け散りまた新しい世界が構築されていく。
「ここは?」
次に俺が目にしたのは先程までとは一変して、のどかな雰囲気を感じさせる大草原だった。
「本当に、この夢にはどんな意味があるのかな」
いや、そもそも意味なんてないのかもしれない。だが、夢を夢と認識しているこの状況で目覚めないということは何かがあると思って良いだろう。少なくとも以前読んだオカルト本の都市伝説でないことだけは確かだ。
何か目覚める手がかりはないのかとまた歩き始めること数分、いきなり景色が変わったかと思ったら俺の目の前には大きな一本の木が立っていて、その横ではさっきの人が剣を上段に構えて素振りをしていた。
ここまで行けば流石に俺でもこの人がここを出るための鍵になっているのではないかと想像ができる。なので俺は名前も知らないその人に話しかけてみることにした。
「あの、すみません。俺はレイドと言います。あなたの名前を聞いても良いですか?」
「私の◼️◼️はテ◼️ラ、◼️◼️◼️◼️前はも◼️◼️◾️てい◼️◼️◼️◼️◼️なくて◼️◼️◼️◼️◼️よ」
「ごめんなさい。俺ではあなたの言葉は聞き取れないので取り敢えず、アンノーンさんと呼ばせていただきますね」
相変わらず何を言っているのか理解出来ない。このままでは会話すら出来ないと思った俺は取り敢えず、この人のことを未知という意味を込めてアンノーンさんと呼ぶことにした。
「えっと、それでどうやったら俺はここから出られますか?」
「まだま◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️もらいた◼️◼️◼️◼️さ◼️あ◼️◼️◼️から◼️◼️◼️◼️付◼️◼️◼️◼️もら◼️◼️◼️。さて、◼️◼️◼️◼️◼️◼️ょう」
俺の言葉は理解してくれているようで話しかけたら一応は返答らしい声が返ってくる。かと思えば、また世界の崩壊が始まり俺は別の何処かへと連れ去られてしまった。
「次は何処なのかな」
ここが夢の世界と割り切っているせいか、俺は冷静に周囲を観察して自分のいる場所が何処なのかを探ってみる。
「ここはスラム街か」
冒険者ブランとして活動していく中で俺はこういった場所に何度か足を踏み入れたことがあった。そう、ここは俗に言うスラム街と呼ばれている場所だ。
俺がそう結論を出すのと同時にさっきまでは見えなかった人影がちらほらと散見できるようになっていく。しかし、その誰もが地面に倒れ
「誰でも良いから水をくれ」
「子供の分だけでも良いので食料を恵んで下さい」
「足が痛いんだ、誰か薬を分けてくれ」
悲鳴にも似たその声は確かに俺でも聞き取ることが出来た。そのあまりの光景に俺は偽善とは分かっていても自分の服の中やポケットの中に何かないのかと探したが生憎と俺は今は何も持ってはいなかった。
「あぁ、◼️◼️◼️なら◼️◼️んで◼️◼️◼️を皆、◼️◾️◼️◼️げたい」
そんな阿鼻叫喚の地獄の中を黄金の全身鎧を着て片手には水やパンの入ったカゴを持って堂々と歩く人が一人、見間違える筈もなくその人物はアンノーンさんだった。
「お願いだ、その水を分けてくれ」
「お腹が空いてもう死にそうなんだ」
「なんで助けてくれないんだよぉ」
「◼️◼️◼️◼️世界に◼️◼️◼️きれ◼️◼️◼️た◼️◼️◼️れな◼️◼️に、◼️◼️◼️なさい」
しかし、そんな彼らの
「ここは普通の街か」
次に俺が飛ばされたのは何の
「今度こそまともであってくれよ」
さっきの光景が未だに脳内に焼き付いているせいか自然と俺はそんな言葉を口ずさんでいた。しかし、そんな俺の願いは次に聞こえてきた大きな
「グルガアァァァァァァァァ」
「ぐっ」
一切の攻撃を通さない漆黒の鱗、見るもの全てを
「流石に冗談がキツイだろ、どう見てもロゼリアさんより圧倒的に強いぞ」
以前、入学試験の時に俺の絶剣を受け止める為に
「グルガアァァァァァァァァ」
そこから先はまさに地獄だった。竜の吐く炎は容易に街を
「助けてくれぇ」
「私の家が燃えてる」
「おかあさぁ〜ん」
どれ程の時間が経っただろうか、気がついた頃には街は炎の海で覆われてしまい生存している人間は俺ともう一人を除いて居なくなってしまっていた。
「◼️◾️、私が十◼️◼️◼️を◼️◼️◼️きていれ◼️◼️◼️た◼️◼️のに」
また、わけの分からない言葉を発しながら生き残りのもう一人であるアンノーンさんは平然とまたどこかへ消えてしまっていた。
「今度は何なんだ」
再び崩壊した世界から移動した俺が次に飛ばされたのはどこまでも広がる荒野だった。
「進め!進め!進め!この戦の正義は我らにある」
「下劣な侵略者どもを決して許すな。この戦の正義は我らにこそある」
声高らかに掲げられた宣言と共に始められたのは荒野の全てを覆い尽くすほどの
方や銀鎧で全身を固め槍と盾を持って突撃を
俺自身、多くの者を殺してきたからなのか目の前で行われている戦争を見ても特に気分を悪くすることはなかった。そう、まだ戦力が拮抗しておる初めのうちは。
「ははは、戦争ならまだ良かったものを、これじゃあまるで………
初めのうちは拮抗していた兵力も時間が経つにつれて徐々にその差に開きが現れ始めていた。そして、戦争が開始して数分が経つ頃には半数以上の鉄の鎧を着た兵士たちが死体の山となり戦場へと転がっていた。
「誰か助け、グシャ」
「嫌だ死にたくな、ズシャ」
「なんで俺たちがこんな目に、ザクッ」
「はぁ、」
目の前で繰り広げられる
「なぁ、なんで俺にこんな光景を見せたんだ。アンノーンさん」
精神的にあまり余裕がないせいか、何も取り
「私だって◼️◼️◼️◼️んな光◼️◼️◼️たくあ◼️◼️◼️ん。し◼️◼️、こ◼️◼️◼️◼️なこ◼️な◼️◼️す」
相変わらず言葉は理解できない。それでもアンノーンさんが何かを伝えようとしていることだけは理解できた。
気付けば戦場の音は聞こえなくなっていた。それでも、精神的な疲労のせいか俺の元へと近づいてくるアンノーンさんに対して俺は何一つ身動きが取れずにいた。
「ずっと待っていますから、出来るだけ早く私を受け止める器になって下さい」
そっと、耳元に微かに髪が触れる感触を味わいたった一言それだけを明確に聞き取り俺は再び崩壊していく世界を眺めながら早くこの夢が覚めてくれることを願ったのだった。
◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、はぁ、ようやく覚めてくれた」
仮名アンノーンさんの一言を最後に夢から目覚めた俺は自身のベットの上で荒くなっていた呼吸をゆっくりと整えていた。
「ダメだ、全然動けない」
気分転換に外に出ようと起き上がろうとするが精神的な疲労のせいか体が完全に動かせない。というより、もう動きたくもない。
「あれ?どうしたのレイド、そんなに疲れた顔して」
ふと、声のした方に視線だけを向けてそちらを見てみるとそこには、エプロン姿でこちらを心配そうに見つめているサクヤの姿があった。
「いや、少し疲れてるから今日は学園は休もうかと思って、出来ればA組のバンス先生に欠席の連絡を入れて欲しいんだけどお願いしても良いかな」
朝起きていきなり休む宣言をしたせいかサクヤはより一層心配そうな顔で俺のことを見つめてくる。現実の人間を見るだけで安心してしまうとは本当にあの夢は地獄だったなと改めて認識させられる。
「えっと、分かった。先生には僕の方から伝えておくからレイドはゆっくりと休むんだよ」
「言われなくてもそうするよ」
「あ!そうだ!レイド少し待っててね」
あまりの疲労感に話しをすることすら
「はいこれ、疲れているなら一度飲んでみてよ」
キッチンから戻ってきたサクヤにそう言って差し出されたのはお
さっきから部屋中に
「美味しい!」
その味噌汁はお世辞抜きで本当に美味しかった。少し暑さを感じる味噌汁は口から喉を
「ふぅ、ありがとう。すごく美味しかったよ」
少し暖かくなった息を吐きながら、俺はサクヤにお礼の言葉を口にした。
「そう!良かった。この味噌汁は僕が頑張り過ぎて心がすり減っちゃった親友の為に試行錯誤して作り上げた料理なんだ」
笑顔でそう言うサクヤに和みながら俺はこの美味しさなら料理と認定されても良いだろうと納得してしまった。
「じゃぁ、朝食は作っておくから起き上がれるようになったら食べてね」
そう言ってまたキッチンへと消えていったサクヤを見ながら俺は一人不思議な気分に包まれていた。
「普段の俺ならもっと警戒心が強い筈なのに、なんでサクヤにはこんな無防備を
思えば、初対面の頃から俺はサクヤと気軽な感じで話していた気がする。まぁ、これに関してはサクヤの人柄とコミュニケーション能力の高さが原因だろう。
「でも、まぁあの味噌汁は本当に温かかったな」
そんなことを一人呟きながら俺はどこか
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