第15話 自己紹介と学園案内
校内の廊下に張り出されているクラス分けの表を見て俺はこれから自分の所属するクラスである1ーAと書かれている教室へとやって来た。
教室に入った瞬間に感じたのは敵意とも好意とも取れない視線の数々。だが、その中でも赤い長髪の女子生徒が一層強い視線を俺に向けているのが分かる。
確か入学試験の時に霊装の使用について質問していたフレア・モーメントという公爵家の人間だった筈だ。まぁ、そんなこと気にしていても仕方がない。同じクラスである以上嫌でも関わることにはなるだろうし、気楽に行こう。
「こんにちは、隣の席座っても良いかな」
教室の席は特に指定は無いようなので俺は一番奥の窓側の席を取ろうとしたのだが、生憎と先客がいたようなので隣の席に座らせてもらうことにする。
「席は自由だから好きにすれば良い」
「ありがとう、ソフィアさん」
「私の名前知ってるの?」
俺が名前を呼ぶとソフィアさんは眠そうな目を少し開いてこちらを見てくる。だが、それは認識不足が過ぎると思う。この学園に入学した新入生の中で霊装を使える人間は五人。その中で入学試験の時に俺より前に試合を行っていたのがマサムネ、フレアさん、そしてソフィアさんの三人だった。なので、嫌でも目に付いてしまうのだ。
因みに後の1人は試合直後に保健室に運ばれてしまったのでまだ知らない。
「まぁ、会場中を凍り付かせた霊装使いを覚えてない筈がないでしょ」
「そう、私もあなたのことは覚えてる。多分私よりも強い」
「それは戦って見ないと分からないと思うよ」
そんな中で相手の力量をしっかりと判断できているのはそれだけ物差しである自分の実力を正当に評価している証拠だ。
「改めて俺はレイド、これからよろしくねソフィアさん」
「こちらこそよろしく」
俺たちが軽い自己紹介を終えると扉を開けて担任の先生らしき人が入ってきた。気付けばもう全ての席に生徒が座っていてホームルームの時間になっていた。
「よし、みんな席に着いてるなこれからホームルームを始めるぞ。と言っても今日は軽い自己紹介の後に学園の施設を回って終わりだけどな」
そう言って話し始めたのは、筆記テストの時に俺の所の担当をしていた先生だった。一見、パッとしない印象を受けるし、あまり強さを感じないがこの学園にいる以上はそれなりの実力者ではあるんだろう。
「改めて、俺がこのクラスの担任を務める上級騎士のバンスだ。趣味は晩酌と楽をすること、嫌いなことは面倒なことだ。この学園のクラス分けは実力の高いものがAクラスに振り分けられているので、このままの成績を維持し続けられるのなら、これから三年間よろしく」
ふむ、面倒ごとが嫌いとは本当にご
「それじゃあ、早速で悪いけど
バンス先生の指示に従ってクラスの皆が思い思いの自己紹介をしていく。その内容は騎士を目指した理由だとか、どの騎士を尊敬しているだとか、あまり聞いていて面白いものではなかった。
「次は私の番のようですね。ご存じの方もいるかも知れませんが、私はモーメント公爵家が長女、フレア・モーメントと言います。尊敬する騎士はお父様で、この学園に来た目的はこの国と国民を守れるような、モーメント家の名に恥じない立派な騎士になるためです。三年間、よろしくお願いします」
そう言って綺麗なお辞儀を見せたフレアさんに皆が拍手を送る。明確に守る目標がある点では他の生徒よりはマシだと思う。
「次は僕の番のようだね」
ようやく出番が来たとでも言いたげなマサムネの反応に教室全体の雰囲気が少し重くなる。
「新入生代表挨拶でも話したと思うのでここでは長い自己紹介は割愛して、僕の名前はマサムネ、この学園に来た目的はサムライが騎士よりも優れていることを証明するため、尊敬している人は僕に剣を教えてくれた師匠、常に決闘を受け付けているから、皆気軽に声を掛けてね」
流石に2回目ともなればそこまで騒めきが起こることはなかったが、それでも皆が敵意を剥き出しにしている。だが、当の本人はそんなものどこ吹く風と平然としている。
次は入学式の時に俺にタオルを貸してくれたリリムさんの番だ。
「え、えっと、私の名前はリリム・フロートと言います。この学園に来た目的は騎士に憧れているのと少しでも自分に自信を持つためです。尊敬しているのは、その………少し恥ずかしいんですけど、レイドくんです。これから三年間よろしくお願いします」
リリムさんが尊敬している人で俺の名前を出したことでさっきまでの重い雰囲気は
何より驚いたのはクラスの半分くらいの人は困惑というよりも何処か納得していることだろう。普通、出会って初日の人間を尊敬する人なんて居ない筈だが今は聞くことができないので結局、そのままの流れで自己紹介は続いていった。
その後は特に問題が起こることもなく進み、次は俺の隣にいるソフィアさんの番になった。
「ソフィアです。尊敬する騎士は死んだお父さんで、私がこの学園に来た目的は二つ、一つはお父さんのような立派な騎士になること」
ソフィアさんはそこで一旦言葉を切ると一度深呼吸をしてから再び話し始めた。
「二つ目の目的はお父さんを殺した犯人である殺人鬼のペインを捕まえること。なので、ペインについて何か知っている人がいれば私の所まで来て欲しい」
その言葉でまたもクラス内は重たい雰囲気となる。それもマサムネの時とは違い割と本気でだ。殺人鬼のペインといえば、俺でも聞いたことくらいはある。確か、騎士を積極的に狙って殺して回っていた殺人鬼で一時期を境に姿を消している筈だ。
そんな相手を今も尚、探し続けているとは同情するべきなのか、褒めるべきなのか、どちらにしても今のソフィアさんがそのペインに会っても
ペインの名前を出した時にソフィアさんから放たれていた殺気は紛れもなく、捕まえるのではなく殺してやるという意志がありありと感じ取れるものだった。そんな状態で対峙してもきっと後悔するだけで終わるだろう。
さて、ソフィアさんの次は必然的に隣の席である俺の番になる訳で俺は席を立ち自己紹介を始める。
「入学試験で知っている人もいるかも知れないけど改めて、俺の名前はレイド。趣味は読書で尊敬する人は父さんと母さんの2人、この学園に来た目的は、どうしても知りたいことがあったのと、後は自分探しってところかな。これから三年間よろしくお願いします」
俺が
「自己紹介も終わったことだし、次は学園内を案内して回るから皆廊下に出てくれ」
バンス先生の指示に従って廊下に出てから俺たちが初めに向かったのは保健室だった。
「あら、初めに来たのはバンス先生のクラスなんですね」
保健室の中に入るとそこには見覚えのある白衣を着た大人びた女性の姿があった。何を隠そう、彼女は絶剣の後遺症でボロボロになった俺の腕を治してくれた人であり、ロゼリアさんから説教を受けていた時にそれを微笑ましそうに眺めていた人でもある。
「こちらはこの学園で生徒の治療などを担当しているサテラ先生だ。特にこの学園では怪我人が多く皆の中にもここを使う生徒は多くいるだろう。その時は失礼のないように」
それだけ言うとバンス先生の言葉を引き継いでサテラ先生が話し始める。
「はい、バンス先生からも紹介があったように私がこの学園であなたたちの治療を担当するサテラと言います。保健室はこの部屋以外にも隣に休養用の大きな部屋もあるので怪我をした際には遠慮なく来てくださいね」
一瞬、「怪我をした」の所でサテラ先生が俺に視線を向けてウインクをして来たので、俺は適当な作り笑いを浮かべてその場をやり過ごす。どうやら、入学早々に問題児扱いされているらしい。
まぁ、それも仕方がないことだろう。実は腕の治療を受けた時に俺はサテラ先生からも一つだけ説教というか忠告を受けていた。その内容は俺がクライツ姉さんに使った
「さて、次は図書室に向かうぞ」
一通りの説明を受けてから保健室を後にした俺たちが次に向かったのは図書室だった。
図書室と書かれている扉を開けて中に入った俺たちはまずその大きさに対して驚いていた。この学園の図書室は学園自体が大きいことを差し引いてもかなりの広さを誇っている。
「イースト先生、読書中に申し訳ないのですが図書室の使用説明をお願いしてもよろしいですか?」
そんな中、受付カウンターらしき場所で本に囲まれている女性にバンス先生がやたら
「みなさん初めまして、私がこの図書室を管理しているイーストです。ここに置いてある本の九割は私の私物ですので読みたい本や借りたい本がある時は私に声を掛けてください。四冊までなら貸し出します」
そう言って話し出したイースト先生に対する俺の第一印象は本の虫や研究者といった感じだった。あまり手入れのされていない長い髪に、目元の深い
「ここのルールは至ってシンプル、本を大切にする、
これは使えるな。この量の本を保管しているイースト先生なら恐らく、ありとあらゆる情報もとい知識を持っている筈だ。俺が盗賊から奪った物や適当に買い漁った物の中から珍しい本を手見上げとして渡せば何かあった時にきっと役に立ってくれるだろう。
俺の経験上、こういう専門的な分野や一芸に特化した人間とは仲良くなっておくに限る。何より、本好き同士気が合いそうな気がする。
「次は保管庫に行く。先に忠告しておくが中の物には決して触れるなよ」
図書室を出て俺たちがバンス先生の指示に従って次に向かった場所は学園の地下に設けられている保管庫という施設だった。
明らかに厳重な三重の鍵の付いた扉を開けて階段を使い地下まで降りていきさらにそこに存在している分厚い五重の鍵が掛けられた鉄板の扉を開けた先に広がる美術館のような部屋。
その中に入った途端、生徒の反応は大きく二つに別れていた。一つはそこら中に置いてある様々な武器に目を奪われている者、大半の生徒がこちらに該当している。そして、もう一つはガラスのケースに保管されている一本の杖に既視感を覚えている者。
「あの仮面と同じ気配がする」
「なんでクサナギと同じ気配がするんだろうね」
言葉が被る。いつの間にか杖の入ったガラスケースの前までやって来ていた俺とマサムネは互いに顔を見合わせて疑問に思ったことを口にし合う。
「この杖は俺が昔、盗賊から奪った仮面にすごく既視感がある。なんて言うか気配や雰囲気が同じというか、マサムネの霊装で何か分からないか?」
「僕も、師匠が持っているクサナギって言う名刀とこの杖に同じ気配を感じてるんだよね。僕の霊装で分かるのは取り敢えず、生命の
生命の
「よく名工が造る刀には魂が
「そうだな、取り敢えず製作者が同じということは確かだろうな」
そんな会話をしていると保管庫の見学の時間が終了してしまう。その後は、入学試験で使った闘技場や室内闘技場、寮、放送室、食堂など色々な施設を見て周り昼頃には解散となった。その後、俺はそのまま自分がこれから住むことになるであろう寮に向かうのだった。
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