コラム:劣化ウラン弾ってなに?

2023/3/21、イギリスは供与予定のチャレンジャー2に搭載する砲弾として、劣化ウラン弾を供与すると発表しました。

これについて物議が醸されていますが、今回はそんな劣化ウラン弾について解説していきます。


劣化ウラン弾は、名前の通り劣化ウランを使用した砲弾です。

劣化ウランは、いわば原子力発電に使われるウランの搾りかすで、ウランとはついていますが放射能は弱いです。


だからといって安全なものでもないので、取り扱いは規定通りに行う必要があります。

また、弱いと言っても放射線は確かに出ているので、被ばくする危険性は存在します。


なぜこのような物体を砲弾に使用するのでしょうか。それは、現代の砲弾であるAPFSDSを理解する必要があります。


APFSDSは装弾筒付き翼安定徹甲弾の略です。

装弾筒という、真ん中が大きくくびれた形の筒が付いている、翼で安定させる、硬い金属の弾という意味です。


徹甲弾は昔から用いられ、敵の装甲を叩き割るか、穴を開けて貫通することに特化しています。

爆発などはしないので、視覚的には火花を散らす程度のものです。


徹甲弾は大きければ威力が上がり、重くて速ければ貫通力が上がります。

要は、デカくて重くて速い徹甲弾が強い、となります。


なので徹甲弾はどんどんデカくて重くなり、速度を上げるために戦車の主砲はデカく長くなり、戦車は重くなっていきました。

しかし、そうした改良は限界が来ます。


デカくて重い砲弾を速く飛ばすという要求は相反するので、あまりにデカくなりすぎると空気抵抗で速度が足りず、速度を上げようと小さくすると威力が無くなってしまいます。

そもそも、でかい砲弾は発射するための火薬も大量に入れられるので、単に小さくすれば速度が上がるというものでもありません。


つまり最強の砲弾とは、発射されるときはデカくて、飛翔する時は小さい(かつ威力がデカい)という物理法則を無視した砲弾です。

そんな夢の砲弾ができるわけがない。ない、はずだったのです。1960年までは。


1961年、戦車大国ソ連で夢の砲弾が完成しました。

BM-6……これが世界最初のAPFSDSです。


細い鋼鉄の芯に、わっかが付いたような奇怪な見た目のこの砲弾は、見た目とは裏腹に高い貫通力を発揮しました。

発射時はわっかが爆圧を受け止め、高速で発射されます。発射後はわっかが外れ、空気抵抗を最小限に抑えながら高速で飛翔します。


着弾時には強烈な圧力で装甲を塑性変形……圧力が無くなっても元には戻らない状態を連続で作り出すことで、液体のように動く装甲の中を進みます。

この時はAPFSDSの先端も液体のようになってしまいますが、後部はしっかり固体なので装甲を貫通することができます。


貫通後は圧力が解放されるため、液体のような状態から硬い金属片へ変わり、車内で爆発的に飛び散ります。

当然人間などは貫通し、場合によっては戦車の後部まで破壊します。


とはいえ、この時代のAPFSDSはまだまだ発展途上で、貫通力は他の徹甲弾と大差ありませんでした。

しかし、他の徹甲弾が限界を迎えつつある中で、APFSDSは「発展途上」なのです。


そこから10年もすると、APFSDSは既存の徹甲弾の限界を超え始め、現代ではAPFSDSが無ければ対戦車戦はままならないほどに強力かつ一般化しました。



APFSDSは非常に硬い金属(タングステンなど)により、超高圧を与えて装甲を流体化させ、貫通します。

この時、APFSDSの先端も流体化します。


さて、金属が液体になっているわけではない、とかいう細かい理屈は置いて、例えば水と水がぶつかるとどうなるでしょうか。

水が出ている根元は棒状ですが、別の水にぶつかると途端に勢いがなくなり、しかし後ろからは押されるため横に広がります。


マッシュルーム状になると形容され、APFSDSでも勢いをそぐ要因になります。

これを最小限に抑えるための工夫が幾通りも試されてきましたが、とある素材を使用することで簡単に解決しました。


それが、劣化ウランです。

劣化ウラン弾は着弾すると先端が勝手に削れ、マッシュルームのカサの部分が小さくなります。


このセルフシャープニング効果により、貫通力がタングステン弾と比べて1割近く伸びます。

現代のAPFSDSは、60cm~70cmの高強度鋼を貫通するので、劣化ウラン弾にするだけで5~10cmも長く貫通するということです。


この貫通力には比重(密度)も関係しています。

比重とは、水を1とした時の重さですね。鉄は7.8、タングステンや劣化ウランは19を超えます。


また、劣化ウラン弾には焼夷効果と言うものがあります。

簡単に言うと、燃えます。


劣化ウラン弾が貫通すると車内で跳ねまわったり貫通したりするだけでなく、燃えるのでダメージが大きくなります。

戦車内は基本、難燃素材でおおわれていますが燃えるときは燃えますし、それが原因で誘爆することもあります。


そして、劣化ウランはゴミなので安く、地中に管理して保管しなければならないところを適当に撃って済ませることができます。

嫌な政治の世界が絡んでる砲弾でもあるんですね。


とはいえ、安いというのは弾の値段であって、通常の砲弾よりも管理が厳重な点を踏まえるとタングステン弾と同じくらいコストがかかるという話もあります。

また、湾岸戦争などでは残留放射能による健康被害が訴えられたりなど、政治的な都合で使用が禁止されかねない砲弾でもあります。


まあ、こんなので健康被害が出るならパイロットやX線を扱う医療従事者の死亡率がもっと高くないと筋が通りませんので、まずありえないのですが。

とはいえ内部被ばくの可能性はあるので、注意は必要です。


こうした理由から、劣化ウラン弾は強力な戦車砲弾とされています。

あくまで、ちょっと強い砲弾なので、これを供与していいのか?という質問については明確に「はい」と答えることができます。


ただ、物議をかもすにも二通りありまして。


現在、健康被害の可能性がある砲弾をウクライナという穀倉地帯に渡すのは風評被害につながらないか?みたいな常識的な範囲でざわついている界隈と

劣化ウラン弾は核砲弾!ウランってついてるからそうだ!穀倉地帯汚染!湾岸戦争ではー!と騒いでる低能クソボケゴミむ


ロシアのプロパガンダを真に受けてしまった不幸な方々(オブラートの塊で覆い隠した言い方)に分かれています。


言うまでもなく、後者は嘘です。もしくは言うのが1年以上遅いです。

劣化ウランの特性も核兵器の特性も一切理解していません。恐らく脳が劣化ウランの放射能くらい小さいんでしょう。


で、大体こんなこと言ってるのは過激な親露派です。ロシアはバリバリ使ってますけどね。

だから今更なんですよ。知らないのは良いんですけど、無駄に騒ぐな&騒ぐならまず調べろと思います。


そもそも、通常の砲弾でも重金属汚染が起こります。ウクライナの穀倉地帯の多くがすでに重金属汚染された、またはこれからされます。

劣化ウラン弾はそこに微々たる量の放射能汚染と重金属汚染を追加する程度であり、殊更に批判するほど強い汚染は引き起こしません。


戦争が長引く方が大変な問題です。


劣化ウラン弾は単に、ちょっと貫通力の高いというだけで、ほぼ普通の砲弾です。

なので、しきりに騒ぎ立ててる手合いには、イギリス式にこう返してやりましょう。


「Fuck」




劣化ウラン弾は強力ですが、APFSDSの中では限界が低い砲弾でもあります。


APFSDSは着弾時の速度が貫通力に大きく影響する砲弾です。

しかし速すぎると、穴の生成が深さ方向ではなく横方向に広がってしまい、貫通力が低下します。


劣化ウラン弾はこの限界速度が低く、貫通力を上げるには砲弾を長くするか小さな工夫を積み重ねるしかない、という状態になっています。

砲弾を長くすると折れる可能性が上がるため、今以上の貫通力を持つ劣化ウラン弾の開発難易度は相当に上がっていると思われます。


事実、アメリカの新型劣化ウラン弾の貫通力は上がっていないとされ、安定性や利便性などを向上させています。

また、限界速度が近くなるにつれ、タングステン弾と劣化ウラン弾の貫通力の差は無くなっていきます。


劣化ウラン弾は1600m/sで限界を迎えますが、タングステン弾は2000m/sまで限界になりません。

現代の戦車砲弾はほとんどが1600m/s台後半〜1700m/s台前半、速いもので1700m/s台後半です。


最速が10式APFSDS(10AP)の1800m/s前半なので、タングステン弾にはまだまだ進化の余地があります。

こうした高速タングステン弾は既に劣化ウラン弾を超えたか超えつつあり、しかも劣化ウラン弾の強みを取り込み始めています。


ドイツのDM63は、焼夷効果を持ちます。火薬が中に入っており、貫通後に発火して中を燃やします。

燃焼の威力は劣化ウラン弾並かそれ以上とされています。タングステンの代わりに火薬が詰まっているので、普通は貫通力は落ちるはずですが、むしろ上がっています。


ドイツの高い技術力が成したわざと言えるでしょう。

日本も負けていません。日本の10APはセルフシャープニング効果を持つタングステン弾です。


タングステン弾でセルフシャープニング効果はありえないはずなのですが、ガラス繊維を特定の方向に揃うように混ぜることで実現しています。

前述の高速性能と合わさって高い貫通力を実現していると思われ、最高クラスのAPFSDSの一つとなっています。


今後はこうした、劣化ウラン弾を超えるタングステン弾が続々と登場すると思われ、高性能なはずの劣化ウラン弾は危機的状況に追い込まれています。

今後は無くなっていく砲弾なのかもしれません。時代のあだ花は、奇しくもBM-6が使われようとしていた地で、最期の花を咲かせるのです。


最期であってくれ(懇願)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る