コラム:MiG-29の翼にアムラームが載る日は来るか

前回は、MiG-29(初期型)の欠点として遠距離戦能力の低さと対地攻撃能力の低さを挙げました。

しかし、これからのMiG-29には当てはまらなくなるかもしれません。


MiG-29に対レーダーミサイルのハームが搭載され、運用されていることは周知の事実となっています。

また、JDAMないしJDAM-ERという精密誘導爆弾が、同様に運用されていることが示唆されています。


どちらもかなり無理やりな運用で、MiG-29にソ連製のミサイルと誤認させ、ミサイルや爆弾の方にはGPS座標を設定しておき、ただ発射するだけにしています。


当然、柔軟な運用は望むべくもありません。敵が動けばあたりませんし、発射するまで時間がかかりすぎます。

性能を全く引き出せておらず、運用としては非常に稚拙です。


ですが、運用することには成功しています。

MiG-29で西側製の兵器を運用するための第一弾としては大成功を収めており、これまでとは雲泥の差があります。


対地攻撃能力がロケット弾か爆弾しか無かったタイプのMiG-29は、自殺的な攻撃を避け、遠距離から正確な一撃を叩き込めるようになりました。

それだけでも、価値はあります。


さて、現在アメリカはAIM-120アムラームをMiG-29で使用できないか試験を行っています。

または、すでに終えているのかもしれません。ポーランドが供与するMiG-29にはこの改良が施されているという噂もあります。


アムラームは射程100km程度のアクティブレーダー誘導ミサイルです。

ミサイル自体にレーダーが組み込まれており、自力で目標へ向かうことができます。


発射した機は直後に回避機動へ移ることもできますし、命中率を上げるためにミサイルのレーダーが起動するまで誘導しても構いません。

このミサイルの性能を100%引き出した状態で搭載できれば、MiG-29の遠距離戦能力はまったく別物の、怪物へと生まれ変わります。


しかし、現実には難しいでしょう。大きな改修が必要になるからです。

では、MiG-29はアムラームをどの程度うまく扱えるようになるのでしょうか。それとも、机上の空論でしかないのでしょうか。


今回は三つのシナリオを例に挙げ、実現可能性・所要時間・達成した場合の性能を比較していきたいと思います。



シナリオ1 キャリアー

実現可能性:確実

所要時間:数週間

性能:極低~低


このシナリオは、MiG-29をただのミサイル輸送機として使う案です。

ハームと同じくソ連のミサイルと誤認させ、パイロットはただ発射ボタンを押すだけの作業を行います。


アムラームはミサイル自身のレーダーで敵を捕らえるか、パトリオットやNASAMSのデータリンクとレーダーを用いて特定の空域内のみで性能を発揮します。

前者は性能の悪い短距離ミサイルが水増しで追加されるだけ、後者は綿密な防空計画と相手が乗ってくれる運が必要になります。


どちらを行うにしてもリスクが高すぎて、やる意味はありません。

実行できるか?は実証済みですが、非常につまらない結果を招くシナリオだと思います。


ただし、タブレット端末によってある程度制限が解除されるのであれば別です。

MiG-29のレーダー情報をアムラームに渡すことができるのであれば、上手くいけば射程70km・機能制限付きのアムラームとして扱うことが可能です。



シナリオ2 チック・ミグ

実現可能性:高

所要時間:半年以上

性能:中


ポーランド及びスロバキアのMiG-29に小改修を施し、アムラームを運用するシナリオです。

ポーランド・スロバキアのMiG-29は西側兵器に対応する改修を受けており、理論上は最新のアムラームも発射することができます。


といっても今すぐ発射できるという状態ではなく、西側兵器に対応しているのはソフトウェアのみであり、配線や主翼下のパイロン関係、アムラームとの通信機器は改修が必要ですし、空力試験も行わなければ危なっかしくて運用できません。

発射した瞬間にミサイルが跳ねあがって、自機を落としてしまうなんて事故は誰もしたくないでしょうから。


ここまでやっても、アムラームの射程はMiG-29のレーダーの性能上70km~100kmに制限されます。

少し古めのアムラームであれば射程を活かせる範囲ではありますが、事前に攻撃目標の割り振りなどがあることを考えると、実質的な射程は50~80kmとみるべきです。


またPDレーダーなので、回避機動を取られるとMiG-29からの誘導は切れてしまい、アムラームのレーダーに頼ることになります。

アムラームのレーダーは小型ゆえに十数キロしか見えず、また上下左右の範囲も狭いため「ピットブル」と呼ばれるミサイルのレーダー起動範囲内まで誘導を続けたいところです。


比較的短期間で運用はできるようになるが、まだまだ性能を活かしきれないシナリオです。

ただし、ここまでやるとハームやJDAMの性能を(やはり最大限ではありませんが)引き出せるようになります。


また、空力試験さえやれば大半の西側製装備を運用できるようになるため、将来性が大きく広がります。

MiG-29が供与されるまでの期間やアメリカの動きを見るに、実現する/した可能性が最も高いシナリオでもあります。



シナリオ3 F-29キーウモンスター

実現可能性:低

所要時間:1年から2年以上、機能の質・量により長大化

性能:最高


MiG-29の中身、特に前半分をそっくり入れ替えてしまうシナリオです。

ポーランドスロバキア機に限らずウクライナ全てのMiG-29に適用できますが、非常に多くの手間と時間、初期不良や欠陥の見落とし、膨大なパイロット育成コストを受け入れる必要があります。


レーダーだけでなく、表示機器や自己防衛、電子妨害機器などが高性能化され、恐ろしいまでの性能向上が果たせます。

射程150km超えの最新のアムラームを全力で運用でき、発射した機が回避機動を行っても即時に誘導を味方機に渡し、全弾をレーダー起動位置まで誘導できるでしょう。


状況把握が容易になり、9割のロシア軍機に対して完全に優勢な空戦を行うことができます。

ロシア新鋭の地対空ミサイルであるS-400、S-500が出てきても対抗できるでしょう。


高価値目標の空中レーダー、A-50の撃墜も十分に狙える性能となり、多くの空域で航空優勢を奪取するかもしれません。

高い対地攻撃能力はロシア軍に地獄を見せ、補給路を切り飛ばし、間接的に塹壕を無力化します。


空力試験を無事に終えた暁には対艦能力の付与も可能となり、黒海艦隊は潜水艦を残して消滅します。

ただし、航続距離が悪化する可能性には留意すべきです。


NATO式の空戦能力を手に入れたMiG-29は勝利に向けてウクライナ軍を強力にけん引することができますが、今これだけの力を手に入れることは非常に難しいでしょう。

将来的にも難があると思います。実現するのは戦後、またはF-16の最新型を買って改修はキャンセル、くらいに考えておいた方が良いと思います。


また、あくまで4世代機を改良した4.5世代機でしかなく、ステルス性やより高度な電子戦能力、超音速巡航、長大な航続距離などを持つF-35等の第5世代機と比べると塵芥の一つにすぎません。


ロシアは5世代機のSu-57を運用しており、また安い5世代機がコンセプトのSu-75を開発していて、もしこれらがスペック通りの性能を発揮して襲い掛かれば、大規模改修されたMiG-29でもあっさりと落とされてしまいます。


ここに書いた機能、装備のすべてを取得できるとも思えず、実現したらいいなと言う「夢」です。



私は、シナリオ2が現実的なところだろうなと思っていますが、もしかしたらシナリオ2.5くらいに改良されたMiG-29が登場する可能性は否定できません。

遠距離空戦能力にのみ焦点を当て、アムラームだけは最大限の運用ができるようにした、レーダー改修MiG-29……これほどの短期間で実現するかは疑問ですが。


ただ、どの改修が行われるにせよ、努力がされていることはハッキリします。

アメリカがアムラームの運用ができるか試験しているということは、MiG-29で西側兵器を使えるようにする改修は次の段階に進んでいる可能性が高いです。


ハームで行われたような無理やりな改修ではなく、中途半端にでも性能を引き出す第二段階へ移行した、移行していると見るのが適当です。

第二段階が成功すれば、第三段階、すなわちシナリオ2.5か3が実現しえます。


どうしても西側製戦闘機が供与されないのであれば、賢明な選択肢でしょう。

そんなに長く戦争が続いてほしくは無いですが。

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