デジタル化された古参防空システム Newa-SC
ネワSC(Newa-SC)を解説する前に、元となったS-125ネバについて説明します。
S-125ネバは1961年から運用されている中距離防空システムです。
SA-3ゴア、と言った方が日本ではなじみ深いかもしれません。また、ネバの輸出型はペチョラと言ったりします。
ネバは最初期の防空ミサイルに代わり、小型で機動性の高い戦闘機などを主目標に開発されました。
それまでの巨大で長射程で鈍重なミサイルに比べ、短射程なものの機動性が高く、低高度の敵機に対応し電子妨害にも強くなっています。
レーダーで捉えた目標の位置を受け取る誘導方式なので、安くて簡単に作れ、近距離であれば高い対妨害(ジャミング)性能を有します。
地面にしっかりと固定された発射機(ランチャー)から発射され、速度は最大マッハ3.5に達します。年代を考えると、恐ろしく速いミサイルです。
マッハ1.6程度の目標を相手に攻撃することができ、低空を飛ぶ戦闘機などに対して有効です。
命中率は最大射程付近で25%、条件が良ければほぼ100%です。
ランチャーは固定されていますが、トラックで運ぶことが可能であり、機動性もあります。
ランチャーは2発か4発を装填でき、リロードには数分かかります。
ミサイルには種類があり、V-600と呼ばれるものは射程15kmほどです。
弾頭は60kgですが、爆風弾頭であり破壊力は必ずしも期待できるものではありません。
改良型のV-601では、70kgの爆風弾頭と33kgの破片弾頭を選ぶことができ、破片弾頭には4500個の金属片が仕込まれています。
射程も長くなり、35kmほどです。しかし最小射程が3.5kmもあり、至近距離に接近されると撃墜は不可能となります。
射高は18kmであり、高高度の戦闘機にも十分に圧力をかけられます。資料によって20~14kmとするものもあります。
しかし最低射高は100mで、低空にいるヘリなどには当たりません。
5V27Dというミサイルが、改良型のS-125M1から使用できます。
これは対レーダーミサイルを破壊するためのミサイルです。
レーダーは三種類で、280km先まで見える長距離の捜索レーダー、40または80kmまでの中距離の追跡、ミサイル誘導レーダー、32kmで高速捜索が可能な短距離レーダーとなっています。
これらは展開するまでに数時間かかり、十分な人を用意できなかった日には発射可能になるまで一日がかりの仕事を要求されるでしょう。
改良型のペチョラ2ではより長射程になっており、多数の敵に対する同時交戦能力、より高い精度を有しています。
ランチャートラックに載せられ、すぐに移動できるようになりました。
ペチョラ2Mでは巡航ミサイルと対レーダーミサイルに対処できるようになりました。
ただし、これらを撃墜できるようになるには、トラックが止まってから25分かかります。
長距離レーダーには対ステルス能力が付与され、ステルス性に配慮された目標でも40km以上先から追跡することができます。
ただし、これもまた準備に25分ほどかかります。
最低射高は20mまで改善され、前述した巡航ミサイルやヘリに対する攻撃能力も備えています。
発射装置と管制車両は10km離して設置することができ、攻撃に強くなっています。
対応する速度も上がり、マッハ3程度の目標を撃墜できます。
ミサイルは5V27DEになり、弾頭重量は50%増え、破片の効果範囲が3.5倍になりました。強力な破壊力と攻撃範囲を持っています。
25km以内であれば80%以上の命中率を誇ります。
ただ、電子妨害対策はネバから止まっており、そうした対策を取られると命中率は著しく落ちるでしょう。
ペチョラ2Mはジャミングを仕掛けることができ、自分に飛んでくるミサイルを狂わせることが可能です。
ただ、妨害源に向かってくる機能(ホームオンジャム)を持つミサイルに対しては、囮程度の意味にしかなりません。また、ジャミング中はレーダーの能力が制限されます。
このペチョラ2Mの要素を引き継ぎつつ、機動力を大幅に向上させたのが、ポーランドのネワSCです。
ネワは多くのアナログ機器をデジタル機器に置き換えることで、大幅な小型化、コンパクト化に成功しています。
そのコンパクト化された機器を装甲車に詰め込み、レーダーは大型トラックに搭載することで2両での行動が可能です。
敵味方識別装置とデータリンクにより、同士討ちの危険を避けながら敵を素早く見分けることができます。
準備にかかる時間は大きく改善されており、即応性の高いシステムに仕上がっています。
デジタル化されたことで、特別な改良がないにもかかわらず電子妨害に強くなっています。
また、ネワの計算能力はペチョラMに比べて倍になっています。
より高速で、精度よくミサイルを誘導することが可能です。
ミサイルは5V27となり、二段式のロケットを備えます。
一段目は2.6秒のブースト燃焼を行い、ミサイルを急加速させたのちに切り離されます。二段目は19秒の燃焼を行い、ミサイルの速度と高度を稼ぎます。
弾頭は60kgとペチョラ2Mに比べて軽量化されていますが、60kgもあれば十分です。
直撃するなら1kgの炸薬でも、航空機には致命傷になりえます。
ネワはミサイルの射撃間隔が狭まっており、ペチョラ2Mに比べても高い同時交戦応力を持ちます。
ネワのランチャーは互換性(他のシステムとの共通度)が広く、ネバやペチョラで使用される様々なミサイルを射撃可能です。
特に名前が変わっているわけではありませんが、ネワのマイナーアップグレードとして、後期型はより高い電子妨害耐性を持ちます。
また、敵味方識別装置もアップデートされており、必要な計算が減ったことでミサイルの誘導に割ける計算能力が増えました。
ネワはこのように進化したネバであり、基本設計は古いながらも中距離対空ミサイルとして十分な能力を持っています。
ウクライナが開発したペチョラ2Dの、より近代化された射程40kmのミサイルを発射することも可能であり、組み合わせれば高い能力を発揮できます。
しかし、当然ながら弱点も存在します。というか基本設計が古いせいで弱点だらけです。
まず、ミサイルがむき出しです。機動力が高い野戦防空向きの車両なのに、ミサイルがむき出しだと大小さまざまな損傷を負う可能性が高くなります。
整備はしやすいでしょうが、破損しては元も子もありません。
ミサイルは大きくて重く、同クラスの射程を持つNASAMSやクロタルNG、IRIS-Tと比べるとその差は歴然です。
こうしたミサイルは失速しやすく、命中率が落ちやすい傾向にあります。
それを補うために必要なのが燃焼時間ですが、これは長ければ長いほど目立つ噴煙を引いてしまい、発射機の場所がバレやすくなります。
ネバシリーズは噴煙も濃く、いつどこから発射したのかがバレバレです。
NASAMSやIRIS-Tといったミサイルは空力的に洗練されているので燃焼時間が短く、噴煙も薄くなるよう配慮されています。
これは空対空ミサイルから転向してきたというのも大きな理由ですが、ステルス性でネワが劣ることには変わりありません。
誘導方法は一貫してレーダーが捉えた目標を指示する指令誘導であり、近距離ではジャミングに強いもののその影響は多かれ少なかれ受けてしまいます。
細かな計算は省きますが、相手が電子戦機などで本気のジャミングを仕掛けてきた場合、いくら対応能力が上がっているとはいえ対抗できるとは思えません。
ホームオンジャムのような妨害源に向かっていく機能も無く、電子戦には弱いと評価できます。
機動力はありますが、二両で行動する必要があり、射撃に移行するには時間がかかります。
しかも方やキャタピラ式で、方や大型8輪トラックとなると、双方の悪いところが目立つ移動となります。
機動力が高いとは評しましたが、どういう意味、どういう条件での高いなのかは、現場で考える必要があるでしょう。
とにかく、レーダー車両は絶対に泥濘を突っ切ろうなどと考えてはいけませんね。
発射機が四連装というのも、中距離ミサイルにしてはさみしい数です。
再装填には時間がかかるので、もう少し数を増やして対応力を上げたいところです。
特に巡航ミサイルとドローンの組み合わせは数が飛んでくるので、外れる可能性も考慮すると四発では少ない気がします。
幸い、2022年後半以降のロシア軍は巡航ミサイルの数が払底しつつあり、言うほど数は飛んでこないのですが。
とはいえ、改良を重ねて中距離の防空システムの中では長い射程と高い火力を両立させたミサイルであることに変わりはありません。
20km先への射撃ではほぼ確実に命中し、35km先でも5から6割の命中率を誇ります。
ウクライナのペチョラ2Dはあらゆる部分で改良されたミサイルです。これを高機動なシステムで運用できれば、ウクライナのペチョラ防空部隊の能力は大きく上がるでしょう。
なにより野戦防空システムです。戦車や装甲車の後ろについて援護できます。
攻勢には欠かせないシステムであり、ロシアの多くの戦闘機やヘリを一方的に攻撃することが可能です。
ネワSCはウクライナの防空システムの一つとして、前線を駆け、ロシア軍機を追い払ってくれるでしょう。
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