地獄のブルーファイア ブリムストーン
ブリムストーンは2005年からイギリスで運用されている空対地ミサイルです。
主に戦闘機やヘリから発射されることを想定しており、ヘリから発射した場合の射程は12kmと長射程です。
速度はマッハ1.3であり、対地ミサイルとしては比較的速いと言えます。
ブリムストーンは従来の対地ミサイルの数倍、クラスター爆弾の数十倍の対戦車能力を持つミサイルとして開発されました。(開発した会社の主張)
ソ連系の戦車の多くが爆発反応装甲(ERA)を装備しているため、ジャベリンのように二重の弾頭を持つことで対応しました。
誘導は高精度のミリ波レーダーによって行われるため、時速100kmを超える速度で移動している目標に対しても十分な追尾性能を持ちます。
大まかな形を捉えて弱点部を見分け、そこへめがけて飛んでいくこともできます。
ミリ波は電磁波の一種で、波長が短いため小さなものを見分けることができます。人はもちろんのこと、銃弾ですら捉えることが可能です。
ミリ波レーダーを搭載した攻撃ヘリのアパッチロングボウは最強の攻撃ヘリとして知られていますし、非殺傷対人レーザー兵器にもミリ波が使われています。
ブリムストーンは半自律的な兵器です。
敵味方の位置を戦闘機やヘリから受け取った後、どの敵を目標にするかを決めることができます。
レーダー情報を画像としてとらえることで目標のどこに着弾するべきかを決められますし、アルゴリズムに基づいて最大24発のブリムストーンが連携しているかのように別個の目標へと向かいます。
逆に、全く同じ目標に複数発を命中させることも可能です。いくつかある攻撃パターンを人間が選ぶことで、ブリムストーン自らが最適な目標と命中すべき数を選定します。
着弾誤差は1mであり、つまり発射されたブリムストーンは平均で狙ったところの1m以内に着弾します。
信頼性も90%を超えており、高いと言えるでしょう。
ブリムストーンは大きくないミサイルです。
一つのランチャーに三発を搭載でき、質に加えて量でも敵地上部隊に圧力をかけることができます。
非常にレベルの高いように見えるミサイルですが(実際、優秀だとは思いますが)、そのスペックには裏があります。
まず、旧式のミサイルの数倍から数十倍の攻撃能力を持つと主張されていますが、同年代の同タイプのミサイルと比べると特に優れた点はありません。
旧式のミサイルとして紹介されているのはマーベリックというミサイルであり、これは小型爆弾にも匹敵する大型の弾頭を備えたミサイルです。
ブリムストーンは6kg程度の小型の弾頭しか備えておらず、炸薬量でみるとむしろ大きく劣っています。
ではなぜ数倍の攻撃能力を持つと紹介されているのかというと、ERAを無効化できるタンデム弾頭だからです。
マーベリックは大きいものの単弾頭なので、その威力はERAに大きく削がれてしまいます。
削がれた後の威力も十分強力ですし、そもそも爆圧だけで戦車を破壊しかねない威力を誇りますが、ブリムストーンの攻撃効率には敵いません。
ブリムストーンはマーベリックと比べ、あくまで攻撃効率に優れているだけで、ERA突破後の火力という意味では大きく変わらないか劣っています。
クラスター爆弾と比べて数十倍の攻撃力、というのは言葉遊びをしていませんが、これは当たり前の話です。
戦車のERAと厚い正面装甲を貫通する必要があるブリムストーンと、薄い上面を貫通すればよいクラスター爆弾では目的とすることが違います。
クラスター爆弾はブリムストーンの数十分の一の攻撃能力しかないのと同時に、それで事足りるのです。
誘導に使われるミリ波レーダーは雨に弱く、空気中で減衰しやすい電磁波です。
長射程を常に活かせるか?というと少し疑問が残ります。
また物体に遮られやすく、草木を透過できません。
小さなものを見ることはできますが、同時に粗も出やすく、その精度を活かすには工夫が必要です。
相手の形を捉えて弱点に飛んで行ったり、自分で目標を決めたりといった点は近未来感がありますが、AIを使っているわけではありません。
プログラミングやアルゴリズムといった、より基礎的な技術であたかもAIを搭載しているかのような攻撃が可能という話であり、やっていることの複雑さで言えば洗濯機に毛が生えたくらいです。
小さなミサイルなので一つのランチャーに三発を搭載可能(トリプルランチャー)ですが、同じくヘリから射撃することも考えて作られたヘルファイア対戦車ミサイルは四発搭載(クアッドランチャー)できます。
なので、特に優れた特徴というわけではありません。ヘリから射撃することはできませんが、マーベリックなんかもトリプルランチャーを使用できます。
なので、一つ一つの要素を取り出してみると、特別優れたミサイルとは言えません。
精々射程の長さくらいですが、それでも様々な国のミサイルと比較すると中の上くらいに落ち着きます。
ですが、私はブリムストーンは優秀なミサイルだと評価できると思います。
それぞれの要素はブリムストーン以前のミサイルが到達した技術ですが、それらをすべて取り込んだミサイルはなかなか無いからです。
登場の10年前に「これはとても優れている!」とされた種々の技術を、貪欲なまでに盛り込んだのがブリムストーンです。
10kmを超える射程、十分な威力のタンデム弾頭、高精度なレーダー、優れたアルゴリズム、多種の航空機から発射でき、小さくて高価になりすぎず、それでいて十分な拡張性もある。
良いとこどりの優れたミサイルでしょう。よくぞまとめ上げたと思います。
ブリムストーンはヘリから発射した場合の射程は12kmですが、戦闘機がある程度の高度から発射すると20kmを超えます。
エネルギーを大量に得た状態で発射されるブリムストーンは、同タイプのミサイルと比較して非常に長い射程を備えた空中の狼と化します。
ウクライナではトラックに載せられた発射機から発射されているため、射程は落ちるものと思われます。
しかし、それでも5kmは優に超えると見ていいでしょう。
ブリムストーンは登場してすぐ、目標以外の目標を狙ってはいけないという問題に直面しました。
これは、例えば車列に撃ったとして、戦車に当てるつもりが間違って後ろのトラックに当たってしまった、というようなミスは許されないということです。
正規戦であれば許されるのですが、民間人がいる中での戦闘(対テロ戦争とか)では最悪の結果を招きます。
このあたりは旧来のレーザー誘導ミサイルが優れていました。
レーザー誘導ミサイルは一度に一つの目標しか相手にできない代わりに、信頼性は折り紙付きです。
このため、ブリムストーンにもレーザー誘導機能が付与されました。
先進性に加えて信頼性と柔軟性を取り付けたブリムストーンは、デュアルモードブリムストーンと呼ばれます。
デュアルモードブリムストーンは戦果を挙げ、更なる改良型に繋がりました。
ブリムストーン2は2010年に開発されました。
射程はヘリからで40km以上、戦闘機からで60km以上と超長射程を実現しています。
ガワからソフトウェアまで改良されており、ミリ波レーダーも性能が向上しています。
「雑然とした環境下」を110km/hで走るトラックにも正確に命中しており、レーザー誘導せずとも非常に高い信頼性を確保しています。
攻撃を受けた際の誘爆もし辛くなっており、文句なく進化したブリムストーンです。
流石2010年のミサイルと言ったところですが、新鋭のミサイルということでもあり、通常このようなミサイルがウクライナに供与されることは考え辛
https://twitter.com/DefenceHQ/status/1596836349751050240
(まず脳が停止する)
(再生を押す)
「うぇあ!?」(映像を見た時にマジで出た声)
11月、ブリムストーン2という長射程の対地ミサイルはウクライナ軍に供与されました。やったぜHAHAHA(はははじゃないが)
イギリスによる安心と信頼の新鋭兵器供与ですね。
ブリムストーンは現在2の派生型と3が開発中です。
2の派生型は非装甲目標により効果的になり、山岳を回避する機能が追加されます。
3の改良点ははっきりしていませんが、そこから派生するスピア3は100km以上の射程と新しいエンジン、翼、GPS誘導、データリンクなどを備えたミサイルであり、これらの要素をブリムストーン3も導入すると思われます。
ウクライナで、ブリムストーン、ブリムストーン2は機動力の高いトラック発射機で運用されています。
泥濘には弱いと思われますが、長射程の対地ミサイルが路上を高速で移動し、連続発射されて襲い来るというのは脅威以外の何物でもないでしょう。
事実上の自走式対戦車ミサイルであり、これはウクライナ軍には無かった装備です。
比較的簡易で安く、高速な対戦車車両として、ウクライナ軍のすき間を埋めてくれるでしょう。
惜しむらくはその数の少なさと泥濘への弱さ、目標の少なさです。現在活動は低調と見られており、上記の原因が考えられます。
春以降にまた活躍が見られることを、私は心待ちにしています。
ブリムストーン(Brimstone)の意味はいくつかありますが、硫黄、地獄の業火、激しい情熱、口うるさい女などです。中二病かな?
イギリス人は兵器にあばずれ女とかビッチみたいな、マイナスイメージ+女性の意味を持つ言葉を付けることが多い気がします。あくまで、他の意味も持つ言葉って言うのがミソです。
ちなみに、アメリカにはヘルファイアっていう中二病ドストライクなミサイルがあります。このページでも一回出てきましたね。俺の喪われし邪眼がうずくぜ……!
タイトルのブルーファイアですが、硫黄の炎色反応から取ってきてます。上手いタイトルがなかなか出てこないんじゃ
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