多眼のガラガラヘビ R.480 クロタルNG
クロタルは1970年代前半から南アフリカで使われているフランス製の対空ミサイルです。
レーダーが捉えた目標の情報を無線で受け取り誘導される方式のミサイルで、安くて簡単に作れ、近距離であれば高い対妨害(ジャミング)性能を有します。
古いミサイルにありがちな太い胴体を有し、11kmの射程と6kmの射高があります。
速度はマッハ2.3と遅く、射程の短さと相まって古いミサイルであると言わざるを得ません。
さらに弾頭は爆風弾頭というものであり、有効範囲が狭く、このミサイルを使った迎撃の難易度は相当に高いでしょう。
総じて古く、これがウクライナに供与されてもその有効性はたかが知れたものです。
R.440 クロタルはアフリカの戦争で使用され、戦果を挙げましたが時代の流れには勝てず、落ちぶれていくでしょう……。
え?R.440って誰、って?
ジャ〇プ漫画でいきなり現れる敵と同じくらい唐突に現れた?
何をおっしゃいますかみなさん。R.440 クロタルこそ、クロタルの始祖にして礎を築いたミサイルシステムなのですよ。
じゃあタイトルのクロタルNGってなんだよってなりますよね、はい(はいじゃない)
R.480 クロタルNGは1990年に生産が開始された、完全に新しい(ニュージェネレーション)クロタルです。
VT-1というミサイルを使っており、誘導方法こそ変わらないものの射程が13km、射高9km、最大速度マッハ3.5と各スペックが向上しています。
これは現代でも短距離の防空システムとして充分に機能するものです。
弾頭も変化しており、内容量こそ減ったものの破片をバラまいて目標を破壊することで効率的に撃破することが可能です。
R.440 クロタルでは一つの発射機に4発、レーダーは別で用意する必要がありましたが、クロタルNGでは一度に8発を搭載可能で、レーダーも一緒に付いています。
各種電子機器も新しくなっているため、元のR.440 クロタルと比較して3倍4倍の戦闘能力を持っていると言っても過言では無いでしょう。
レーダーはSバンドの監視レーダーとKuバンドの追跡レーダーの2種類が搭載されており、この構成はゲパルト自走対空砲と同じです。
ステルス性の高い目標にもある程度は対抗可能であり、ロシアがイランから輸入しているシャヘド-136のようなドローンにも有効と言えます。
また、19km以内を見渡せる赤外線監視装置(IRST)と15km以内を見渡せるデジタルカメラもついており、これらを使った誘導も可能になっています。
レーダーだけに頼らずとも誘導ができるので、対応能力は落ちるもののステルス戦闘機にも有効です(ステルス戦闘機がクロタルの射程に引っかかってくれるかはともかく)。
また、同じクロタルNGでもR.480NR型では最大速度マッハ5のローランドVT-1を使うことができ、強力なシステムに仕上がっています。
逆に、クロタルNGの気をつけるべき点は三つ。
短距離の対空ミサイルであること
全てがひとつに纏まっているところ
その誘導方法
です
射程13km、射高9kmは、高空を飛ぶ目標に対しては何もできないことを意味します。
何も気づいていない、のんびりと飛んでいるジャンボジェット機に撃ったとしても撃墜はできないでしょう。高度10km付近を飛ばれては射高が足りません。
戦闘機や爆撃機はそれよりも高いところを飛ぶことも多く、射程外からの攻撃で一方的に狩られてしまいます。
全てが一つになっているので、一度の攻撃で全損してしまい、戦闘能力を失います。
しかしシステムは高価になっており、打たれ弱いと言えます。
元々クロタルはレーダー車両が破壊されたら終わりのシステムなので進化はしていますが、ミサイルランチャーだけでも交戦可能なシステムと比べるとタフさに劣ります。
クロタルの誘導方式は、レーダーを使ってミサイルに指示を出すというものです。
これはレーダーの出力を上げることが簡単なので、ジャミングに対して抵抗性があります。
しかし同時に、ジャミングの影響を受ける誘導方法でもあります。
レーダー自体をジャミングされるかもしれませんし、ミサイルに指令を送る電波の方を邪魔されるかもしれません。
影響を低く抑えることはできるかもしれませんが、全く受けないわけではありません。
また、高速で機動する戦闘機に対しても誘導は難しくなります。
クロタルのレーダーの更新頻度がどれほどかは分かりませんが、レーダー情報を更新していない間は誘導できません。
1秒に1度の更新頻度でも、0.1秒に1度の更新頻度でも、リアルタイムで誘導できるシステムに比べて大きな隙が生まれることには違いありません。
強烈な機動を行う戦闘機などに対して命中率が下がるのは避けられないでしょう。
クロタルNGは総合的に見て高い対応能力と機動力、短距離の防空システムとして十分な射程、速度を持った現代の対空ミサイルシステムです。
コンパクトにまとまっていますが、能力は短距離対空ミサイル相応です。
ヘリや中型のドローン、攻撃機などに対して高い能力を発揮するでしょう。
ウクライナで求められている役割にあったミサイルだと思います。
クロタルNGにはより強化されたMk.3があり、シクラ3Dレーダーを搭載することで150kmの範囲を監視することができます。
巡航ミサイルや誘導爆弾も撃墜できると明記されており、巡航ミサイル攻撃の多いウクライナ戦争ではこちらの方が望まれます。
ただ、Mk.3はクロタルNGの中の一つの型式として分類されているため、ウクライナに供与されているのはMk.3である可能性はあります。
クロタルNGは、現在は2基がウクライナで稼働中です。
射程は短いシステムなのでより多くが、Mk.3でなければMk.3が追加で、供与されることを望みます。
2023/3/21、クロタルNGの使用が初確認されました。巡航ミサイルの迎撃を行ったようです。
特に問題なく撃墜できていますが、余裕をもって最大射程を発揮できるレーダーではなく、デジタルカメラを使った迎撃に見えるのは気がかりです。
もしレーダーで巡航ミサイルをロックオンすることができないのであれば、より一層Mk.3の供与が望まれます。
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