高速機動型マンパッヅ AN/TWQ-1 アヴェンジャー
マンパッヅは、歩兵が持ち運べる対空ミサイルです。
通常の対空ミサイルが配置できないところに潜み、反応も普通の歩兵と見分けがつかないので、非常にステルス性の高い対空ミサイルです。
しかし、持ち運ぶのは歩兵です。
非力なのでわずかな数しか持てませんし、発射機は一機なので連続して攻撃することはできません。
人間の足で出せる速度はたかが知れていて、非常にのんびりとした移動しかできません。
現代のセンサーと比べれば目も悪く、遠距離の敵を見つけることは困難です。
装甲も機動力もないので、歩兵やドローンに見つかったらまずいことになります。
攻撃を受けた際の生存性はないに等しく、逃げるのであればミサイルは捨てるべきです。
なので、極力車に乗って移動することが望ましいですが、改善されるのは移動時の機動力のみです。
敵を確認してから降りて準備するのは大変ですし、塹壕を掘ってる間は前述のデメリットから逃れられません。
なら戦車や装甲車に取り付けてしまえば……となるとコストがかさみ、マンパッヅの良さである簡便さや安さ、ステルス性が損なわれてしまいます。
なるべく安くて軽くて整備が楽で、ちょっとくらい撃たれても逃げられて、機動力もある、しかもマトモな対空兵器として使える目を持つマンパッヅが欲しい!
こんなワガママな要求に応えられる兵器は存在するのでしょうか。
できます、そう、ハンヴィーならね。
ということで1989年。アメリカの機動車、ハンヴィーに8連装のスティンガーミサイルを装備できるユニットをぽん乗せしたものが、よくアヴェンジャーと呼ばれています。
因みにスティンガーミサイルとは、歩兵が肩に載せて撃てる、アメリカ製の赤外線誘導ミサイルです。
スティンガーの詳しい解説は過去の記事を参照してください(https://kakuyomu.jp/works/16817330649510939769/episodes/16817330649512428385)
このユニットは独立していて、別にハンヴィーにしか載せられないわけではなく、ホワイトハウスにくっついてたりします。
でもハンヴィーに載せられているものなのがほとんどなので、以降アヴェンジャーと言えばハンヴィーとセットで考えるものとします。
なぜハンヴィーなのかと言えば、前述の通り安くて整備が楽で機動性が高く、最低限の装甲があって、オマケに数も沢山あるからです。
ハンヴィーは作りすぎて再就職先に困っているくらいなので、そういう意味でも丁度いい兵器だったのでしょう。
また、ハンヴィーの後継車両は地雷対策で背が高く、横転しやすくなっています。
そこへ大きなユニットを乗せてしまうと安定性がさらに悪化する、というのも一つの理由です。
アヴェンジャーは最大8発のスティンガー対空ミサイルを搭載することができます。
また、副武装としてM3P重機関銃を片方のミサイルランチャーの下に付けています。
M3P重機関銃というと馴染みのない名前ですが、知る人ぞ知るM2ブローニング重機関銃の航空機バージョン(を遠隔操作できるようにした地上バージョン)であり、発射速度が上がった対空用M2です。
その威力は人体を容易に貫通し、場合によっては切断するほど。これでも戦闘機や巡航ミサイル相手には力不足ですが、牽制にはなりますし、ドローンには有用です。
アヴェンジャーの本体は二つの四連装ミサイルランチャーですが、中央に砲塔を動かす兵士のための座席がついており、それなりに大きな砲塔となっています。
これにより直接照準射撃もでき、操作する人員を減らすことができます。
アヴェンジャーは三つの目を持っています。赤外線監視装置、レーザー距離計、オプティカルサイト(望遠鏡)です。
それぞれに優秀であり、対地対空の両方で使用するのに十分な能力を備えています。
アヴェンジャーは低速であれば走りながら射撃することが可能です。
ただし、命中率は落ちる模様です。
逆に、完全に止まることにはなりますが遠隔操作も可能です。これはSTC(スルートゥキュー)と呼ばれています。
人員を一人増やして三人にする必要がありますが、離れたところからアヴェンジャーのみを動かすことができます。
興味深いことに、ドローンに対しては人が発射するよりも能力が上がります。
レーザー距離計があるので、それによってドローンを追跡し、命中率を高めることが可能です。
ただ、スティンガーミサイルは赤外線誘導であり、レーザー距離計は命中率に直接寄与しません。
あくまで射撃時に正確な方向を維持できるというだけの話です。
レーダーと連動することもでき、スティンガーミサイルの有効射程よりもずっと遠くから敵の様子を観測することも可能です。
連続発射も可能なので、複数の敵と同時に交戦する能力があります。
ただし、射程距離は5kmです。
5kmという距離は航空機にとって非常に短く、一瞬のうちに到達または離脱できる距離です。
マンパッヅを「しょせん」マンパッヅたらしめている最大の欠点が射程距離の短さであり、ミサイルをそのまま使うのであれば、どんなにいいベースに載せても「しょせん」扱いです。
アヴェンジャーは人をはるかに上回るセンサーと、人をはるかに上回る携行弾数、高い対応能力を持っています。
それをハンヴィーに載せることで、人をはるかに上回る機動力と、はるかに上回る生存性を確保しました。
ステルス性はかなり落ちてしまいましたが、工夫しだいで十分に上手く隠れることができます。
人数は二人か三人です。増えたように感じますが、人力でマンパッヅを運用する時も通常は二人です。
素晴らしいシステムです。でもミサイルの性能は非力で不安が残るものです。
結局、これだけしても作戦行動中の戦闘機に当てるのは難しく、ヘリやドローンに対しても高い優位性が確保できるとは言い難いものです。
昨今のヘリは長射程のミサイルを搭載しており、射程外で発見されると一方的に撃破されかねません。
実際にウクライナ軍のトラックや戦車などが撃破されており、中距離の対空ミサイルに押されてそのようなことはできない、とは期待しない方が良いでしょう。
ですが、それはロシア軍ヘリが早めに目標を見つけられた場合の話です。
アヴェンジャーは対空システムとしては小さく、STCモードであればその身体の大半を隠すことができます。
発射機とセンサー以外をカモフラージュネットや草木で覆い、林の中に隠せばそれなりに高いステルス性を発揮することが可能です。
また、ヘリを発見できる距離は5kmよりも長く、場所を軍のネットワークシステムに通報することはできるでしょう。
アヴェンジャーがウクライナで最も期待されているのは、ドローンと巡航ミサイル狩りです。
これらはアヴェンジャーの能力が特に活きる目標です。
約90km/hの機動力で進路上に移動し、待ち伏せすることで簡単に射撃機会を得られるでしょう。
センサーが優秀なので人よりも遠距離から攻撃できます。たかが5kmですが、人の目にとって5kmはとても長い距離です。
8発を連続で射撃できるので、1、2発が外れても問題ありません。
再装填や新しいミサイルを受け取らずとも、2回3回と連続で撃墜できます。
射撃後にすぐ移動したり、移動しながら射撃できる能力も機動力を上げてくれます。
場合によっては、全く別の進路で進入してきたドローンや巡航ミサイルを一両のアヴェンジャーが全て阻止してしまうかもしれません。
もしくは機甲部隊に追随し、攻勢中の防空網をより強固にできるかもしれません。
中長距離の防空システム(HIMADと言います)を潜り抜けるために低空進入してきた攻撃機には、非常に恐ろしい相手として映るでしょう。
しょせんはマンパッヅ、されどマンパッヅ。それがマンパッヅであり、ひいてはスティンガーミサイルです。
そんなミサイルに圧倒的な機動性を持たせてしまった、それがアヴェンジャーなのです。
アヴェンジャーにもいろんな派生型がありますが、どれも試験的なものや作戦限定で正式な派生型になったものは無く、ウクライナ向けのアヴェンジャーの中に一つも確認されていないので今回は除きます。
スターストリークのっけたやつとか片方のランチャー降ろして重機関銃を上に移動させた地上制圧型とかのゲテモノアヴェンジャーは、それはそれで可愛いので興味あれば調べてみてください。
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