埋まらない装甲車 FV103 スパルタン
スパルタンは1978年からイギリスで製造されている兵員輸送車です。
1960年代、イギリスにはいく種類かの装甲車がありました。
どれも小型で機動性が高かったのですが、時代が進むにつれてソ連が弱っていったことにより、似たような車両をいくつも保有しているのは無駄だとなりました。
設計も古くなってしまったので、丁度いいと車体を一つにまとめ、部品を共有できるようにしました。
え?どこかで見た流れと似てる?そーんなストーマーが全てをまとめようとして結局種類が分かれたまま進んじゃったなんて、そんなドベあるはずが無いですよーははは
はい(はいじゃない)。
事情はもうちょっと複雑なのですが、色んな装甲車をまとめようとしてまとめきれずに部品だけ共通化したやつらの一つが、このスパルタンです。
スパルタンは大型の乗用車くらいの大きさの装甲車で、武装は自衛用の機関銃一丁のみです。
防御力もないに等しく、軽くて燃えやすいアルミを装甲板に使っています。銃撃くらいなら防げる程度です。
機動力は高く、キャタピラ式の装甲車なのに時速96kmも出ます。
これでもエンジンの出力を落としているので、元の計画では一体どれだけの速さで走れたのか……。(後にエンジン出力を上げていますが、足回りの関係上で最高速度は上がらず)
小型の輸送機に収めるため、小型軽量に作られています。
エンジン出力を落としたのも、この要件に合わせるためです。
また低予算で開発されたのも特徴であり、その割には欠陥が少ないです。
まあ、装甲の劣化に悩まされたという事件はあったのですが。
スパルタンは7人の兵士を載せることができます。
2人の搭乗員と5人の兵士、または3人の搭乗員と4人の兵士です。
スパルタンは一般兵ではなく、より専門的で高い能力を持つチームを運ぶために設計されています。
例えば砲撃観測・誘導を行うチームや、対空攻撃・監視チーム、偵察・斥候チームなどです。
4基の発煙弾発射機を備え、敵に狙われても煙を展開して逃げることができます。
航続距離は510km。直線距離で東京-大阪間……を超えて岡山の手前まで到達できます。
スパルタンは兵員輸送車なので、あまり言うことはありません。
戦車どころか装甲車にすら対応できない火力と防御力ですが、そもそもそんな役割は期待していません。
どう考えても勝ち目は無いので、煙まいてさっさと逃げる車両です。
もしくは、小さな車体を活かして見つからないように行動するためのものです。
搭乗人数は少ないので、設計通り特殊な用途です。
その割に装備が少ない、というのは良くない点です。
設計通りに使えれば悪くない車両ですが、近年はタイヤ式のもっと速くて燃費のいい車両も増えており、旧式の烙印は避けられないでしょう。
ウクライナ軍が特殊用途に使えないと判断したならば、使えない装甲車の1つとしてその経歴に傷を残すでしょう。
しかし、スパルタンは驚くことに大成功を収めました。
それも、特殊な用途ではありません。一般の兵士を前線に送り、負傷兵を後方に送り返すような一般的な用途で、です。
スパルタンの良くないところは、低い火力と防御力、小さな車体から来る搭乗人数の少なさと、近代的な装備の少なさです。
これらは、機動力の高さを維持するためにあえて搭載されていない機能です。
機動力の高さを測る要素は、最高速度だけではありません。
機能に乏しい車体は、とても軽量です。10tほどしかなく、MRAPよりもはるかに軽いです。
キャタピラなので設置面積が広く、柔らかい地面にも埋まることなく走れます。
仮にハマっても、軽量なのですぐに抜け出せます。
スパルタンの接地圧は、人間の足裏の半分以下です。
泥は泥でも、水が張った田んぼの土くらい柔らかくなければ埋まりません。
ウクライナの泥濘には、多数の車両が苦しめられました。
改造されて重くなった民間車両は言わずもがな、砂漠にも対応してきた装甲車やMRAP、軽量なソ連製の装甲車や戦車も。
ここで効いてくるのは、接地圧と重量です。
スパルタンはその両方をクリアしていました。
かくして、スパルタンは特に南部戦線で軽快に機動し、成功を収めました。
装甲兵員輸送車として、これ以上ない活躍でしょう。
スパルタンには、いくつかの派生型があります。
そういうことをしなくていいように色々分けたんじゃなかったんですかね、って言うのは野暮でしょうか。
FV120 スパルタンMCTは、対戦車ミサイルを満載したスパルタンです。
2発の対戦車ミサイルをセットし、車内には13発も搭載できます。
高い機動力で翻弄しつつ一撃を加えるための車両です。
誘爆した時のことは考えないようにしましょう。
ストレッチ・スパルタンは車体を延長したスパルタンです。
合計10人乗りになり、普通の装甲兵員輸送車として使えるようになっています。
ストレッチ・スパルタンは正式な名称も与えられず試作で終わりましたが、別の装甲車の選定に用いられたり、ストーマーの設計に寄与したりします。
スパルタンはイギリスから35台、クラウドファンディングで50台が供与されています。
春や秋のウクライナの泥濘は凶悪ですが、スパルタンであればほかの装甲車よりもずっと楽に突破できるでしょう。
古くて小さいことは、時に大きなメリットを生みます。
軽い、速い、スパルタン。このチビ助は、これからも可愛がられ、ウクライナ歩兵の素早い機動に貢献し続けることでしょう。
ところで、重厚なファランクス陣形でよく知られ、好戦的なイメージとは裏腹に戦争参加の腰が重く、戦ったら「強い」というだけで相手の作戦を粉砕するスパルタ人の名前をこの車両に付けるの……
(ひねくれてるという意味で)イギリスっぽくて良くないですか?
2023/5/12
M2重機関銃とMk.19グレネードランチャーを搭載した個体が確認されました。現地改修だと思われます。この車両、軽機関銃が正規の武装だったはずなんですけどお……。
これにて、近距離であればロシア軍の装甲車に勝てる可能性が出てきました。チビ助とか言ってられない火力ですよこれ。
例えるなら、ロリ巨にゅ(自主規制)
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