旧式と 侮るなかれ 三兄弟(字余り) MIM-23ホーク
ホークは1960年から使われている中距離地対空ミサイルです。
旧式ですが射程は45kmと決して短くはなく、弾頭の威力は十二分にあります。
同じく供与の決まったNASAMSや活躍中のIRIS-Tの弾頭は10kg以下なのに対し、ホークの弾頭は50kg以上です。大型の爆撃機でさえ、吹き飛ばせるでしょう。
弾頭が大きいのは良いのですが、1kgの弾頭でさえ致命傷になりうる航空機に対しては過剰です。
重い弾頭を長く飛ばすためには多くの燃料が必要で、重い身体を動かすためには大きな翼が必要で、大きな翼は大きな空気抵抗を生み、さらに燃料が……。
なぜこのような事態になっているのかというと、直撃しなくてもダメージを与えたかったからです。
当時のミサイルは照準が外れやすく、外れなくても精度が悪く、今の弾頭よりも効率が悪い設計だったため、弾頭を大きくする必要がありました。結果、射程に比べて太いミサイルになったわけです。
実際、単発での撃墜率は56%と低いものでした。
それに、当時は核を積んだ爆撃機を迎撃する必要もありました。精度は悪いが、大型機をも一撃で落としたい。その思いが50kgの弾頭に詰まっています。
ホークの最高速度はマッハ1.4です。
非常に遅く、また太くて翼も大きいため減速も酷いでしょう。戦闘機に対して有効な射程は25kmにすぎません。
燃焼時間は長く、5秒間のブースト燃焼と32秒間の定格燃焼を行います。同じくらいの射程の現代のミサイルは数秒〜十数秒で終わるため、非常に長いと言えるでしょう。
燃焼時間が長いのは悪いことです。なぜならその間は噴煙を引くことになり、発射機の場所や撃ったことがバレやすくなるからです。
ホークはレーダーが発した電波の反射をたどり、目標に向かうミサイルです。
これは目標が大きく動いた際にも精度が落ちにくい利点がありますが、レーダーの場所がバレやすいです。
また、この方式は照準用のレーダー1台につき1発しか射撃できず、多数の目標への対処能力は低くなります。
もし一度に撃てる数を増やしたいのなら、レーダーを増やすしかありません。それでも、管制車両の能力によって制限はかかるでしょう。
おまけにホークのシステムは大掛かりで、最小で6両50人。
フルで揃えると41両が集まり一大拠点を築いてしまいます。
多数の予備車両や補完車両を備えるため強力ですが、そう簡単に場所を変えることができず、展開場所も限られます。
非常に敵に見つかりやすいでしょう。
と散々にこき下ろしてきましたが、これは「ホーク」の話です。アメリカ製で息の長い兵器は、例外なく改良されます(その方が議会ウケが良くて金を引き出せごにょごにょ)。
さて現在の「ホーク21」はどうなっているでしょうか。
ホーク21の弾頭は未だに大型ですが、何度もアップデートを施され、精度は飛躍的に上昇しています。
レーダーや弾体の更新によって単発での撃墜率は56→85%に上り、低高度の目標に対してもしっかり追尾できるようになりました。
一度に複数発を発射できるようになり、同時対処能力が向上しています。
射程は伸びていませんが、戦闘機に対して有効な射程が25→40kmまで伸びました。
最高速度はマッハ1.4→2.4へ、燃焼時間は37→26秒に減少しています。
システムは、最小構成は変わりませんがフルで33両まで減少しました。また、最小フルどちらにおいても機動性が上がっています。
システムの一部はNASAMSでも使われているものに置き換えられ、全く同じ能力を有しています。
車両間の距離を2kmまで伸ばすことができるため、一度の攻撃で破壊されにくくなっています。
敵の妨害にも強くなり、妨害を受けるとその妨害源へと突撃する機能(ホームオンジャム)が搭載されました。
当たり前のように対ドローン能力も持ち合わせています。古いとはいえ安いミサイルではないので、勿体ない気もしますが。
こうして立派に現代の地対空ミサイルへと進化したホークですが、アメリカでは引退し、廃棄を待っていました。
ホーク21だって1994年製なのです。進化を遂げてなお旧式であることは否めません。
しかし、2022年の初冬にもなってウクライナへの供与が決定されました。
いくつか理由が存在するとは思います。保管期間が長かったので、復帰の確認に時間がかかっていたのかもしれませんし、いきなり射程50km近いミサイルを渡すとロシアが過剰に反応するからかもしれません。
しかし、それなら他にも適するシステムはあります。
より簡素で簡便で、対ドローンにも適していて、保管期間もあまり変わらないか現役で、ロシアを刺激しないシステムが二種類はあるのです。片方はウクライナが名指しするほど欲しています。
それなのになぜ、1システム50名も必要な、現代戦のテンポについていけないシステムを供与するのでしょう。
在庫処分にちょうど良かったから?ロシアの反応を見てみたいから?それもあるでしょう。けど、自分はもっと分かりやすい兆候があると思っています。
その前に一つ、言いそびれていたことがありました。
最初のアップデート以降のホークは、改良された弾頭を備えています。なんとその重さは74kgまで増加しています。
これは単に破壊力を増すためでしたが、ホーク21ではもう一つの任務が追加されたため、弾頭は更に改良されました。
爆発時に作られる破片が2gから35gへ重くなり、破壊力が上がっています。これは高速大質量の目標に有効ですが、小型の目標には不利に働きます(ドローンほど小型だと爆風で粉砕されますが)
高速大質量の目標……もう分かった方もいらっしゃるでしょう。ホーク21は弾道ミサイル防衛が可能なように改良されています。
短距離弾道ミサイルに対応した古い中距離防空ミサイルを、もっと新しい中距離防空システムを供与しようとしているにも拘らず、イランが短距離弾道ミサイルの供与を決めた後に供与する。恣意的なものを感じませんか?
時を経て成長したホークは、予想外の土地で最高の力を発揮します。
巡航ミサイルと弾道ミサイルから都市と重要拠点を防衛する。
他の対空ミサイルよりも遅くて重たいというホークのハンデは、ここに消え失せます。
逃げも避けもしない相手には、その未来位置に向かって愚直に突進すればよいのですから
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