名わき役を狙え RBS 70

RBS70は、スウェーデンが開発した短距離地対空ミサイルです。

ちゃんと書くときは、RBS 70って半角スペース入れます(正直どうでもいい)


1977年、歩兵が使える対空ミサイルは「無いよりまし」程度のものでした。

射程は短いくせに航空機のケツしか追えんわ、旋回されたら回避されるわ太陽に向かって飛んでいくわ。


それでもライフル撃つよりは驚異的に当たるので、配備が進みました。

こうした、歩兵が持てる対空ミサイルをMANPADS(マンパッヅ)と言います。


スウェーデンは考えました。

熱探知式は問題だらけ、歩兵の肩に載せて撃てる大きさでは射程も威力も足りない。でも歩兵が運用できる対空ミサイルが欲しい。


大きくて高性能な機械の可搬性を高めるやり方というのは昔から決まっています。

部品をバラして持って行って必要な場所で組み立てる。これです。


ということで重量87kgにもなる(激重)設置式歩兵用ミサイルが配備される流れとなったのです。車載にしろそんなん。

多分運用人数は3人とか4人とかだと思うんですけど、素直に肩撃ち式にしといた方が良かったのでは……。


と言ってもすでに肩撃ち式は導入していたので、大型の対空ミサイルとの間を埋めるミサイルが欲しかったのだろうと思います。


重いだけあって、射程と威力は肩撃ち式よりも伸び……まあ伸びました。

4.5kmに対し5kmの射程、1.06kgに対し1.1kgの弾頭。あと、10倍近い重さ。


伸びました、はい。


はい。


駄作決定では?




マジメに、いい所を見ていきましょうか。


RBS 70は誘導方式が他のMANPADSと違いました。

熱探知ではなく、ビームを飛ばして反射波をミサイルが追いかけるビームライディングというものです。


これにより、敵がどの方向を向いていても狙えるし、照準中に目標を視界の中央に収めなくても、発射することができます。


また、敵の防衛手段に対し絶対的な耐性を持っていました。

発射機と敵との間に物理的な障害が入らなければ、狙い続けることができます。


また、雲の中に入られても薄雲であれば照準を続けられました。

他にも、気球やグライダー、地上目標といった熱源の小さな目標にも発射できます。


まあ、これが87kgという重さと引き換えに得た能力として対等かと問われると難しいところではありますが……もしかしたらスウェーデンの環境では非常に有能な要素が含まれているのかもしれません。


というのも、このミサイルは丁寧にアップグレードを施され、現役だからです。


現在のRBS 70は、射程8kmにもなる、歩兵用としては脚の長いミサイルです。

重量は相変わらずですが大きさは変化しておらず、新しい技術を無理なく詰め込むことに成功しています。


重くて大きいことはデメリットばかりが目立っていましたが、実は拡張性に大きく寄与していたのですね。

拡張性の高さは大切です。新規開発するよりも改良の方が素早く、大抵の場合は安く、性能を上げられますから。


最新のRBS 70NGは、夜間戦闘能力を標準で備え、リロードなしで二発のミサイルを発射できます。

そしてウクライナ戦争では非常に有用な特徴が一つあります。これからの戦争全てにおいても言えるかもしれません。


それは、ドローンに対して強く有効ということです。


スティンガーのような熱探知式は、熱量の少ないドローンには射程が短くなる問題があります。

RBS 70はそのような問題が無く、射手がドローンを見つけられれば、ミサイルの誘導は全く問題なく行えます。


旧式となりつつあるRBS 70ですが、歩兵用の対空ミサイルにしては特殊な特徴が幸いする面もあり、結構面白いミサイルです。

重さの問題も、車両で移動すれば大幅に軽減できます。


重さのわりには射程と威力が無いですが、そもそもMANPADSは射程や威力を重視していません。そこにあることが脅威なのです。


防空網は長距離、中距離、短距離、近距離、MANPADS、機関砲といった幾重にもなる傘を形成し、敵の航空戦力を追い払ったり食い止めたりすることを目的として作られます。


時に無視されるほど弱い存在のMANPADSですが、無視できるほどの敵は「客」じゃありません。

幾重にも折り重なった防空網を突破し、ヘロヘロになって低空に逃げてきた敵に対し、追い打ちをかけるのがMANPADSの仕事です。


そういう意味では、RBS 70は十分すぎるほどに強力で、脅威で、もう一つの傘を提供することに長けています。

(恐らく)当初の目的通り、間を埋めるミサイルとして成功したRBS 70は、ウクライナ戦争でどのような活躍を見せるのでしょうか。


目立った戦果は挙げられないかもしれません。

でも、目に見えない戦果を量産することができる。

脅威となり、他のMANPADSの射程に敵を引きずりおろせる。


もっと言えば、他のミサイルと共同して、ロシア空軍に圧をかけることができます。

敵の作戦を戸惑わせ、出血を強い、作戦に参加する戦力を太らせ、混乱させ、奇襲性を削ってしまう。


RBS 70はそういう「めんどくさい」を押し付けられるミサイルなのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る